第6話
【トリス視点】
婚儀を結ぶことはできたが、新妻を残してさっさと寝てしまうとは何事じゃ…。
不満に思う気持ちもあるが、外で倒れていたことを鑑みれば、もしかすると体調が悪いのかもしれぬ。
そんな状況でも誓いの杯を飲み干してくれたと思えば、不満を喜びが塗り替えていく。
よくよく考えれば、起きていたら初夜を迎えるということで、我も急すぎる展開に心の準備ができていないのじゃ。
今はユウトをしっかり休ませてやるのが妻としての務めなのだろう。
仕方ない、ベッドまで運んでやろう。
我は生まれもって【怪力】スキルを有しておるため、成人男性一人を運ぶくらい何の問題もない。
ただ運んでやりながら、『お姫様抱っこ』は我が恋人にしてほしかったことの上位であったのに、する側になってしまったことに複雑な気持ちになる…。
優しくベッドに横たえてみたが、貴族風の服が皺になってはよくないと思い脱がせることにした。
まぁ、夫婦となったのだから問題あるまい。
脱がした服を丁寧に畳んでいると、夫婦になったのだなぁとしみじみと感じられ顔が自然とニヤけてしまう。
ベッドは1つしかないが夫婦だし一緒に寝ればいいとは思う。
ただ父様と母様は別々のベッドで寝ていたし、どちらが正解かわからぬのも事実…。
まぁ、どちらがいいか明日になったらユウトに訊いてみるのじゃ。
我も夜着に着替えてベッドに潜り込む。
わずかな時間でも、先にユウトが寝ていたため布団には温もりが感じられた。
こういうちょっとした幸せを当たり前と思わず生きていきたいものじゃな。
ユウトの腕にしがみついてみると、心に安心感が広がる。
「ユウト、我を幸せにするのじゃぞ。」
そっとユウトの頬に口づけし、幸せなドキドキを感じながら眠りについた。
【ユウト視点】
眩しさを感じ、ゆっくりと意識が覚醒していく。
左腕に温かく柔らかい感触があり視線を向けてみると、とんでもない状況がそこにはあった!
ネグリジェ姿のトリスが僕の左腕を抱えるようにして、幸せそうに眠っている…。
いつの間にか僕もスーツは脱いだみたいだけど、どうしてこうなった?
二日酔いの頭痛を感じながら、昨夜のことを思い出そうとするけど酒を飲み干した後の記憶がない…。
状況的には、そういうことをしちゃっているよね…。
優しいトリスを酔った勢いで…。まだ子供なのに…。
僕は最低だ。犯罪者レベルだ。
何がお兄ちゃんくらいに思ってほしいだよ…。
トリスが同意してくれるならば、責任をとって結婚して僕が養っていかないと。
そのためには早急に仕事をみつけないとだよな。
トリスは僕のスキルが優秀だと言っていたし、何ができるのか把握しておかないといけないな。
できれば、安定した収入を得られるようにしたいし。
トリスが起きないように、そっと腕を引き抜き、丁寧に畳まれたスーツをもってリビングに移動した。
スーツを着込み、キッチンを確認してみると暫く使用した形跡がなく、埃をかぶっていた。
それでも、古めかしいオーブンやフライパンなど調理器具は揃っている。
これって薪を燃やして使うやつだよなぁ。自信はないけど使えるようにしないと。
調味料は塩と砂糖だけはあったけど、さすがに醤油とか味噌はないか…。
ついつい調理のことに意識が向いてしまったけど、【空間収納(小)】と【鑑定(食材)】を試さないとだ。
使い方を知らないので、何となく『空間収納開け』と念じてみると、目の前に1辺1mくらいの立方体の空間が現れた。
やっぱり小さい…。
とりあえずポケットに入っていた携帯電話と財布を放りこんで『空間収納閉じろ』と念じたら空間は消えた。
この微妙なスキルが仕事に有効利用できるのだろうか…。
まぁいいや、次のスキルを試そう。
外に出てみると、澄み渡る青空が眩しかった。
玄関の脇には地下水を汲み上げるのか手動ポンプが設置されていた。
家々はまばらで、遠目に栄えていそうな町が見える。
ここに来るまで少し歩いたもんなぁ。
家の近くには黄色の葉が印象的な木が生えていたので、近づいて観察してみると葉がイチョウそのものだった。
下を見れば木の実がたくさん落ちている。
とりあえず鑑定を試そう。
木に向けて『鑑定』と念じてみると、頭の中に情報が浮かんだ。
【イチョウの木 食用×】
なるほど、これは便利だ。だけど日本と同じ『イチョウ』という名前なの?
不思議な異世界だと思いながら、次は木の実のほうを鑑定してみる。
【ギンナン 食用○ 加熱推奨】
調理方法まで教えてもらえるのか…。
ギンナンが手に入ったのは嬉しいけど、臭くないのはいいのか?
とりあえず、ギンナンを拾い集めて空間収納に収め、トリスの家に戻ることにした。
このスキルは確かに優秀だし、うまく活用して安定収入を得られるようにしよう。




