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第5話

【トリス視点】


相思相愛だったのじゃ。恋は突然始まるものだったのじゃ。

感情を整えながらユウトを見上げれば、心配そうに我を見守ってくれている。

もう我は一人ではないのじゃ。それどころか、人生の伴侶を得たのじゃ。

喜びが心を満たし、体がフワフワする。

このまま幸せを感じていたいが、これ以上ユウトに酒を我慢させておくことはできぬ。


ペアのタンブラーに火酒を注ぐのを見ていたユウトが問いかけてきた。


「強そうなお酒だけど、酒の肴は用意しないの?」


「酒の肴とは何なのじゃ?」


「えっと、お酒を飲みながら食べるものといえばいいのかな?」


「それならナッツやハムが一般的なのじゃ。酒場では一緒に注文することが多いが家で飲むときは特に用意しないのじゃ。」


「そうなんだね。でも、家で飲むときもあったほうが嬉しいんじゃない?」


「まぁ、あったほうが嬉しいのじゃ。」


贅沢ではあるが、ないよりはあったほうがいいのは確かなのじゃ。


「じゃあ、明日からは僕が酒の肴を用意するよ。」


我のために、調理スキルを活かして肴とやらを用意したいようじゃ。

ユウトはかわいいやつなのじゃ。こんなの断る理由があろうはずもない。


「そうしてくれると嬉しいのじゃ。」


「うん、楽しみにしておいて。」


嬉しそうなユウトを見ていると、我も嬉しくなるのじゃ。


「それでは、我らの幸せな未来を願い、杯を交わすとしよう。」


「えっと、普通に飲めばいいのかな?」


「半分飲んだら杯を交換して残りを飲み干すのじゃ。何事も分け合い共に生きる誓いとするのじゃ。」


ドワーフ流の婚姻の儀式を説明しつつ、赤面してしまう。

人間の場合は教会で誓い合うのだが、ユウトには人間の流儀の記憶もないであろうし、ドワーフ流で問題ないだろう。


「なるほど、それは心を許しあった間柄じゃないとできないよね。僕をそういう存在として迎え入れてくれて嬉しいよ。」


なんと甘美な言葉を紡いでくるのじゃ…。ダメじゃ、顔が熱くてかなわん。


「もう始めるのじゃ。初めにお互いの杯を軽くあてたら飲み始めるのじゃ。」


「わかった、始めよう。」


杯と杯がコツンと音をたて、2人きりの婚姻の儀式が始まったのじゃ。

我は緊張もあって一気に半分を飲み干し、体にギュ~ッと熱が注入されていく。

ユウトをみれば、驚いた顔で少しずつ飲み進めているようじゃ。

火酒は人間には酒精が強いと聞いておるし、ここはゆるりと待つのも妻の務めなのじゃ。


「半分くらい飲んだよ。ここで交換だね。」


ユウトの顔が赤くなっておる。

今頃婚儀の実感がわいたのか?我はとっくに顔が熱いというのに…。


「交換したら残りも一気に飲み干すのじゃ。」


「う、うん。頑張るよ。」


なにやら顔を引き攣らせておるが、もう後戻りはできないのじゃ。

何としても飲んでもらわねば。


杯に口をつけた瞬間、脳裏に『間接キス』という言葉がよぎり顔の熱さが一段あがった。

一気に飲み干し儀式の完了を見届けるためにユウトをみると、なかなか飲み終わらない。

まさか、婚儀を結ぶことに後悔しはじめているのでは…。

不安を抱えつつ見つめていると、何とか飲み干したユウトは、テーブルに突っ伏して寝入ってしまったのじゃ…。


【ユウト視点】


だんだんと落ち着きを取り戻したトリスは、照れ隠しなのか僕に笑顔を向けたかと思うと、テーブルの上のタンブラーにお酒を注ぎ始めた。

その酒の香りには覚えがあったというか、よく飲んでいたハイボールを思い起こさせる。

これってウィスキーなのかな?ロックですらない原液を飲んだことってないかも。

酒の肴もなしに、こんな強いお酒を飲んだら確実に二日酔いコースだと思うんだけど…。


「強そうなお酒だけど、酒の肴は用意しないの?」


「酒の肴とは何なのじゃ?」


あれ、『酒の肴』は通じない言葉だったか…。


「えっと、お酒を飲みながら食べるものといえばいいのかな?」


「それならナッツやハムが一般的なのじゃ。酒場では一緒に注文することが多いが家で飲むときは特に用意しないのじゃ。」


家飲みでは酒の肴なしが常識なのか。でも絶対あったほうがいいと思うんだよなぁ。

自分の習慣を押しつけるのもよくないし、とりあえず訊いてみようかな。


「そうなんだね。でも、家で飲むときもあったほうが嬉しいんじゃない?」


「まぁ、あったほうが嬉しいのじゃ。」


よかった、あったほうがいいのは共通の想いみたいだ。

酒の肴をつくるのは趣味みたいなものだし、トリスも喜んでくれたら嬉しい。


「じゃあ、明日からは僕が酒の肴を用意するよ。」


僕の提案に少し思案していたけど、だんだんと表情を緩ませていった。


「そうしてくれると嬉しいのじゃ。」


「うん、楽しみにしておいて。」


嬉しそうなトリスを見ていると、僕も嬉しくなる。


「それでは、我らの幸せな未来を願い、杯を交わすとしよう。」


乾杯みたいな感じかな?

幸せな未来かぁ、これからは家族のように一緒に過ごすわけだし、いい未来となることをトリスが願ってくれると思うと心がほわっと温かくなる。


「えっと、普通に飲めばいいのかな?」


「半分飲んだら杯を交換して残りを飲み干すのじゃ。何事も分け合い共に生きる誓いとするのじゃ。」


何事も分け合い共に生きる誓いか。家族の絆を深める儀式みたいだ。


「なるほど、それは心を許しあった間柄じゃないとできないよね。僕をそういう存在として迎え入れてくれて嬉しいよ。」


そういえば、トリスは僕のことをどんな存在と考えているのかな。

まだ僕も24歳だし、お父さんってことはないよね…。

お兄ちゃんくらいに思ってもらえたら嬉しいなぁ。


「もう始めるのじゃ。初めにお互いの杯を軽くあてたら飲み始めるのじゃ。」


そこは日本の乾杯と同じみたいで安心した。


「わかった、始めよう。」


杯と杯がコツンと音をたて、飲み始めたのはいいのだけどアルコール度数高すぎじゃない?

酒が食道を通っていくのがわかるくらい、口から胃へ一直線に熱を感じる。

トリスはすぐに半分を飲み干し、僕が半分飲むのを待っているみたいだけど、そんなハイペースで飲めるような酒じゃないよね…。

頑張って飲むけどさ…。


「半分くらい飲んだよ。ここで交換だね。」


時間がかかって待たせたせいか、トリスは少し不満そうな顔をしていた。


「交換したら残りも一気に飲み干すのじゃ。」


飲み干すのか…。大丈夫かな…。今でもかなり酔っているのだけど。

吐いたりしたら恥ずかしいよなぁ。

でも家族の絆を確認する儀式だと思うと、止めるわけにはいかない。


「う、うん。頑張るよ。」


杯に口をつけて少しずつ胃に流し込んでいく。

トリスは一気に飲み干して僕を心配そうに見つめている。

どんだけ酒に強い子供なんだよ…。

止めることもできず飲み続けていると、意識が朦朧としてきた。

大丈夫かな…急性アルコール中毒にならないだろうか…。

不安を抱えながら何とか飲み干したときには、転移前の疲労も相まって意識を保つことができなくなってしまった。


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