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第2話

【トリス視点】


ワイルドボアに畑を荒らされたという近隣の村からの討伐依頼を完遂し、拠点とする町に戻ってきたのは、夕暮れ時をすぎて夜の帳が落ちる頃だった。


ギルドで報告を済ませて報酬を受け取った。あとは馴染みの食堂で夕飯を済ませ、家に帰って火酒を呷って眠るだけなのじゃ。


お腹も満たされ家に向かって歩いていると、暗い夜道に仰向けで寝ている人間の男の姿が見えてきた。


比較的治安のいいこの町で、夜も浅いうちから酔い潰れて道で寝ている者などほとんどいない。だとすると、病気や怪我で動けないのかもしれない。


我は急ぎ足で男のもとに駆け寄って、様子を確認してみたのじゃ。


意識を失い苦しそうに呻く男は、貴族のような服に身を包み、20代前半くらいに見える。細身で、サラサラした漆黒の髪に整った顔立ちをしていた。


どストライクなのじゃ…。緊急事態に不謹慎なのは重々承知でも、目が離せないのじゃ。


胸のドキドキを必死に抑えながら、肩を揺すってみる。


すると男はゆっくりと瞼を開き、我と目が合ったのじゃ。


吸い込まれそうな黒い瞳に心臓が跳ねて、顔が熱くなっていく。


男は周囲に視線を彷徨わせて、「あれ、ここは何処ですか?」と問うてきた。


我は平静を装い、「カルネラの町じゃ。覚えておらんのか?」と答えた。


男は何か思案しているようだったが、何か合点がいったのか1つ頷くと立ちあがった。


怪我はないようでほっとしたのじゃ。


「起こしてくれてありがとうございます。」礼を口にすると男は深く頭を下げた。


「礼を言われるほどのことではないのじゃ。」


また目が合ってしまったら今度こそ離せそうもなくて、横を向いて答えてしまったのじゃ。


「実は悠人ユウトという名前以外、記憶を失っているようで。よければ今晩泊めていただけないでしょうか?後日、必ずお礼はしますので。」


ユウトと名乗る男は、こともあろうにうら若き女性の家に泊まらせてほしいと願い出た。


我の体が目的…ということはないだろう。どうせ子供にしか見えていないのじゃ。


まぁ、襲われても我のほうが力も強そうだし問題ないのじゃ。


それに、本当に申し訳なさそうで演技とも思えない。


「そんなに畏まるでない。記憶が戻るまで面倒をみてやるのじゃ。」


一晩の宿を頼まれただけなのに、変だっただろうか…。


長く一緒にいれば情が湧くかもしれない。少しくらいはロマンスを夢見てしまうのじゃ。


「ありがとうございます。あの、お名前をお聞きしてもいいですか。」


安堵の表情も麗しいし、名前の聞き方も紳士なのじゃ。


「我はトリスじゃ。トリスと呼べばいいのじゃ。」


「ありがとう、トリス。」


名前で呼ばれ、嬉しさと恥ずかしさが混じり合い、返事もできなかったのじゃ…。


【ユウト視点】


体を揺すられ、僕は意識を取り戻した。


目を開くと、顔を引き攣らせた少女が僕を覗き込んでいた。


少し耳の形が変だし、身に纏っているのはRPGで見たような防具?


状況が飲み込めず周囲を確認したけど、アパートも街灯もなく月や星が異常なほど美しく輝いていた。


「あれ、ここは何処ですか?」現状を理解するためにも、とりあえず聞いてみるしかない。


「カルネラの町じゃ。覚えておらんのか?」少女は変わったしゃべり方だけど、ちゃんと教えてくれたし悪い子ではなさそうだ。


それにしてもカルネラの町って何処だよ…。記憶にない名前に困惑していると、美しい夜空に輝く月が2つあることに気付いてしまった。


マジか…。異世界ってこと?階段から落ちたショックで異世界転移って、全然ドラマチックじゃないな…。


こんなマンガみたいなことが僕に起きるとは…。もしかしたら限界だった僕を神様が見ていて救い出してくれたのかな。初詣で100円入れたし。


転移してしまったのなら、もう覚悟を決めてここで生きていこう。別に戻りたいわけでもないし。ただ、今度は仕事に追われずノンビリ過ごしたいなぁ。


そういえば、起こしてくれたお礼をまだ言っていなかった。


「起こしてくれてありがとうございます。」深く頭を下げて感謝の気持ちを表してみた。


「礼を言われるほどのことではないのじゃ。」


目を合わせてもらえない…。なんか警戒されているのかな?夜に知らない男と1対1は確かに怖いかもしれない…。


でも、頼れるのはこの子しかいないんだよなぁ。言葉が通じるのは救いだけど、この世界の常識もお金もないのだし。


図々しいとは思うけど、せめて今晩の寝床だけでも提供してもらいたい。異世界から来たなんて言えないし、とりあえず記憶喪失の設定でいいかな…。


「実は悠人ユウトという名前以外、記憶を失っているようで。よければ今晩泊めていただけないでしょうか?後日、必ずお礼はしますので。」


どんなお礼ができるかもわからないけど、まずは誠実にお願いしてみた。


「そんなに畏まるでない。記憶が戻るまで面倒をみてやるのじゃ。」


少女は少し悩んでいるようだったけど、困っている人を見捨てられないのか、記憶が戻るまで居ていいと言ってくれた。


なんて優しい少女なのだろう。僕を最初に発見してくれたのが、この子で本当によかった。これからお世話になるのだし、まずは名前を教えてもらわないと。


「ありがとうございます。あの、お名前をお聞きしてもいいですか。」


「我はトリスじゃ。トリスと呼べばいいのじゃ。」


気まずそうにしているのは何なのだろう?でもまぁ、ちゃんと名前も教えてくれて安心した。


「ありがとう、トリス。」


改めて感謝の気持ちを伝えたら、返事もしてくれなかった…。もしかして嫌われてる?


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