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タカテラスの帰らぬ旅  作者: 彩霞


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第9話 西側と東側

「南西側の村……ですか?」


「断言はできないが……大陸の南西側は、魔法使いに対する対応が比較的マシなんだ。それに元々魔法使いと非魔法使いは、肉体的な部分で同じ……つまり人間だから見分けがつかない。だから、非魔法使いのようにして南西側で生活しているのさ」


 タカテラスはそこで、ふとあることに気づいた。


「あの、魔法使いの話を教えていただいてから疑問だったんですけど」


「なんだ?」


「何故、魔法使いと非魔法使いの交流は南東側に多いんですか?」


 グレイスは「そうだな……」と少し考えてから答えた。


「魔法使いの学校がそっちにあるせいっていうのもあるんだが、南西側の天気は比較的穏やかだったから魔法使いの力を借りなくて済んでいた、という話もある。まぁ、それは天気のことだから、俺が追々調べるとして……。そういうことだから、南西側の小さな村には魔法使いのことを知らない連中も沢山いるんだよ。タカテラスみたいにな。そうなると、魔法使いも身を隠しやすいだろう?」


 タカテラスは、なるほど、と頷いた。


 確かに自分が子どもの頃は、天候に困ったことはなかった。必ず規則正しく、その季節が来ると雨が降り、きちんと大地に恵みを与えてくれていたので、魔法による予測や変更を必要としていなかった。だからこそ雨が降らなかったとき、対処に困っていたとも言える。


「それなら、私の村に来てくれれば良かったのに……」


 ヒナタが避難する場所として最も最適ではないか、とタカテラスは思った。

 するとグレイスは「お前らしいな」と言って、ふっと笑う。


「そうかもしれないが、辺鄙な村になるほど他の村との交流が少ないだろう? だから見ず知らずの人間が来たって、そう簡単に受け入れてはくれないさ。タカテラスのところだって、君は良いかもしれないけど、村人たちがどう思うかは分からないよ」


「……そうでしょうか?」


 表情を曇らせるタカテラスに、グレイスは弁明した。


「ああ、えっと……少し言い方がまずかったな。別にタカテラスの村人たちに優しさがないって言っているわけじゃないんだ。『よそ者を入れない』というのは村の大事な防衛本能なんだよ。君の村では、標高が高いせいであまり狙われないのかもしれないが、街から少し遠い村になると盗賊の被害もあるんだ。街からの応援要請をしてもすぐに駆け付けられないから、防衛の意味で、最初から知らない人間を入れないようにすることが多い」


「そうなんですね……」


 よく考えてみれば、ここに来る途中でタカテラスが泊まった村も、以前グレイスと共に訪れたことがあった。行けば泊めてもらえるという確信があったから行ったが、交流があり、信頼があったからこそ受け入れてくれたのだろう。


「ではヒナタは、特にこの辺りの村にいるかもしれないってことですか?」


「あくまで可能性でしかない。何かもっと手がかりになるようなことがあればいいんだがな……」


「手がかり……。それなら、魔法使いの学校に行くというのは?」


 グレイスはさっき、東側には魔法使いの学校があると言っていた。もしかするとヒナタは卒業生かもしれないし、そうでなくとも魔法使いが行きそうなところを聞けるかもしれないと思ったのである。

 だが、彼は首を横に振った。


「それはやめた方がいい。さっき魔法使いの動向を調べている記者がいると言っただろう? あいつの話によれば魔法使いの学校は、今は非魔法使いが容易に入れる場所じゃないそうだ」


「どうしてですか?」


「さあてな。よく分からないよ。話によれば、行ったら何をされるか分からないというのもある」


「……でも、それはおかしくないですか?」


「何故、そう思う?」


「魔法というのは、天候を操ることが出来るのですよね。でしたら、それを武器にすればいい。そうすれば、魔法使いにとって非魔法使いなど恐れる必要はないはずです。それにも拘わらず、非魔法使いが出入りすることを拒否するというのはおかしい気がします」


 タカテラスの指摘に、グレイスは驚いた表情を浮かべた。温厚で優しい彼の口から、「武器」などという言葉が出て来るなど想像もつかなかったのである。


「それもそうかもしれないが……非魔法使いに対して、攻撃的な魔法を使うことは嫌なんじゃないか? 非魔法使いから聞いた話で、魔法使いと仲が良かった者たちもいたと話しただろう? そう考えると、無駄な争いをしないために閉じているともいえる」


 グレイスの説明に、タカテラスは肩を落とした。


「……そうですよね。すみません、嫌なことを聞きました」


「いや、いいんだ……」


「……」


 しかしそうであるならば、タカテラスがヒナタを探すために出来ることはただ一つ。南西側の村々を、一つひとつ訪ねて歩くしかないということだ。途方もない旅になるだろう。だが、決めたことだ。必ずヒナタに会うと。

 タカテラスは深呼吸をすると、その気持ちを改めて心の中に刻む。


 しかし、彼のその決意が瞳に見えたのか、グレイスは言いにくそうに親友の名を呼んだ。 


「なぁ、タカテラス」


「はい」


「私は君のことを思って敢えて言う。その少年には会わないほうがいい」

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