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夢うつつ

松山と岡山は、船足を落として索敵部隊を収容し補給を開始する。

その間に艦隊幹部が松山に集まり、今後の方針を検討する。

カブキから得た情報をもとに推察するに、遭遇したMEG21の母艦は我が軍の東、エデン島不可侵領海線ギリギリに居ると考えられる。

エデン島不可侵領海線とはその名の通り、エデン島周囲に巡らされた不可侵領域線を示すものであり、幕府軍も解放軍も許可なくそれを超えて中に立ち入ることはできない。

領海線上には無数の浮標式、監視センサー類があり、さらに係維機雷も敷設されている。

機雷との接触リスクも大きいが、それ以上に領海侵犯が発覚した場合に管理機構から受ける制裁措置の影響が甚大であるために、大和もシノワスも不可侵領域を立ち入る事を厳禁としている。

であるので南下できない解放軍が仮に北上すれば、今度は壱岐島の西方に展開する山名艦隊と挟撃されるのでこの可能性もないだろう。

したがって解放軍が取りうる選択肢はシノワス領に向かって後退・東進するしかないのであろう。

そう結論づけた幕府軍は、やや壱岐島方面の船首を向けつつ東進する事を決定する。

そして右舷にて補足した敵艦に対して最大戦速で肉薄して敵艦の側面に占位する事で、エデン島不可侵領海線との間で挟み撃ちを行う。

可能であれば当方のうち一隻がその背後に回りこみ退路を塞いで包囲を完成させる。

そう考えた幕府軍は艦隊陣形を横陣から単縦陣に切り替えた。

「松山」を前方として「岡山」を後方とし再び船足をあげて東進を開始する。

一応、ここで幕府軍の戦力をさらっておく。

まずシノワスの巡機装との洋上戦闘の主力となる第一世代巡機装「二つ引両」は、摩尼拉マニラから合流した24機を合わせて60機。

うち喪失は1機のみ。

備中級の収容可能数は36機であるため、収容できない24機と左舷に懸架されているもの18機、合わせて42機を海中に下ろして右舷で並走させる。

これにより、左右の重量バランスが崩れたためにバラストに注水して喫水線を下げているが、これは被弾面積を減らす事になるので問題はない。

さらに虎の子である第三世代巡機装「平四ツ目結」8機は懸架待機させ、制海権獲得後に、敵のレーニン級に突入される切り札である。

そして松山と岡山の両艦の甲板上にはそれぞれ7機づつの迎撃用第二世代機動装甲「九曜」を配備し、万一「二つ引両」による防衛陣が突破された場合の最終防衛線として備える。

挿絵(By みてみん)

結果、実戦投入可能な巡機装の総数は80機を超え、こちらが想定しているレーニン級の14機(うち1機は大破)を圧倒的に数で凌駕している。

松山、岡山の本体の装備として76ミリ砲6門があるが、これについては砲術要員の不足という事情もあり右舷側に要員ならびに砲弾を集中させる。

以上の通り、ほぼ万全の体制をとり東進を開始した幕府艦隊であった。


しかし予想していた会敵ポイントに到達し、さらにそこを過ぎてもなお敵の姿を捕捉できないのである

将兵たちの必勝の信念とそして予想される勝利への高揚感が徐々に不安と焦燥に代わりつつあったその時である。


ドーン!ドーン!ドーン!

再び轟音とともに前衛の松山の右舷に水柱が上がった。


ドーン!ドーン!ドーン!

先ほどの攻撃とは異なり一度では終わらない。

そして次々と落下する砲弾の直撃を受けた「二つ引両」の船体は粉微塵となって吹き飛ぶ。

直撃を受けないまでも至近に落下した砲弾が引き起こした水のうねりによって横転し沈没していく「二つ引両」。

戦場は突如、混乱の渦に巻き込まれた。

降り注ぐ砲弾の雨を避けるために「二つ引両」は各自がてんでにばらばらに回避行動を行い、結果、衝突して沈没する船も出てくる有様。

「敵はどこだ!観測班!砲術長!」松山の艦長は怒号を上げる。

「それが、わからんのです!」砲術長も怒鳴り返す。


それもそのはずだ。この攻撃の実行者。

すなわちスターリンはその主砲の長射程を利用してかなりの仰角をもって砲撃し、さらには上空で分裂した高密度EFP弾が、てんでばらばらの角度で落下してくるのである。

その発射された方角などを特定する事はできない。


ドーン!ぼわああああ

パニック状態となって回避をしていた「二つ引両」の一隻が松山に激突する。

それも特攻用の爆装をしていて機体である。

爆炎が吹き上がり一気に松山の船体は傾き始めた!


・・・馬鹿な・・・

呆然として立ち尽くす松山の艦長は腰から拳銃を抜きこめかみにあてた。

しばらくすると副長による「全乗員退去」が声が流れ始めた。


眼前に広がる地獄絵図を目の当たりにした「岡山」の艦長が、発した言葉。

それは「取り舵いっぱい」であった。

今まさに全滅せんとしている味方を見捨ててこの場から遁走するという判断は、やむを得ないものであろう。もはや取りうる手段は何もないのであるから。

戦場を離脱すべく北に船主を向けた「岡山」の動きを見てとり、右舷に展開していた「二つ引両」もそれに倣っていく。

しかしすぐに艦長が言葉は失ったのだ。

自分の進路上の海面スレスレを飛ぶシノワスの巡機装の群れがこちらに向かってくるのである。

今までに見たことのないMEG21とは異なった巡機装の群れが!

瞬く間に飛行形態から二足歩行形態に変化した八機の巡機装は「松山」の甲板を占拠し、ブリッジに向けて銃口を向けた。

岡山の艦長は、よく言えば自分と部下の命を大切にするタイプの人間であった。

すぐさま降伏して海に投げ出された兵員の救助を願い出たのであった。


念のために補足しておくとスターリンが攻撃を仕掛けた場所第一艦隊から見て左舷側、南方に位置していた。

第一艦隊の進行方向にいたがスターリンが幕府軍を誘導したマルコスキー中尉を収納した後で北西方向に舵をとった。

そして前衛である「松山」に対しては高密度EFP弾によって攻撃し、後衛の「岡山」が左に回頭してこちらに向かってくる事を想定し、搭載されたいた8機のMIG35を発進させたのである。

挿絵(By みてみん)


海戦での決着がつくそれより暫く前。

幕府軍総旗艦「摩尼拉」から南方の洋上に一機の大型の巡機装が波間に揺れていた。

コンスタンティン大佐と副官の楠木少尉が搭乗している解放軍第五世代多目的巡航機動装甲SS35(スーパースペランカー)である。

双方が肉眼でもその存在を確認できる程度の距離ではあったが、「摩尼拉」がSS35の存在に気付いている様子はない。


大佐は風防を上げて操縦席に立ち、双眼鏡で「摩尼拉」を眺めている。

そして双眼鏡を下して楠木のほうに顔を向けた。

「では、楠木さん、そろそろ行きましょうか」

「はい。」楠木の顔がこわばっている。これから起こるであろう事を想像しているのだろう。

「楠木さん、ところで人が死ぬところを見たことありますか。」

「はい、と言いたいところですが直接はありません」

「正直ですね。で、実はお願いしたいのはそれでして」

「えっ?その私に、その将軍を撃てと言うのでしょうか?」

「いや違います。貴方にお願いしたいのはその一部始終を記録してほしいのです」

「わかりました」

大佐はSS35に搭載されているクルージングレコーダーの操作を教える、

「ではいきますよ」そう言って大佐を操縦桿を握った。


それからはまさに一瞬の出来事であった。


まるで飛び魚のように波を切って進む船体とそれに押しのけられて飛び散り煌めく水飛沫。


豆粒ほどの大きさの「摩尼拉」の船体がどんどんと大きくなっていく。


そして銀色に光る巨大なスロープが眼前に迫る!


「ぶつかる!」思わず声を発し目を瞑る。


あわてて目を開けた時、目の前は雲一つない青い空が広がっていた。


太陽の眩しさから視線を下げると甲板上には驚愕をする兵士たちの顔、また顔


そしてついにその時が来る


やや切れ長の涼し気な目をした壮年の男性が佇立している


そして彼はゆっくりとこちらに顔を向けた。


驚くでもなく、怒るでもなく、むしろ穏やかと言っていい表情だ


そして誰かが何か叫んでいる


ヒデ?誰?


次の瞬間、大きな閃光と


まるで赤ペンキを入れた水風船が割れたのような・・・


いやそんなものは見えていなかったような・・・


これは夢なのであろうか・・・


彼女の記憶はそこで途切れた


挿絵(By みてみん)


気が付くと楠木は風防を上げて操縦席に立ち、遠くを見やっている大佐の姿を見つめていた。


・・これは少し前に見た光景だな・・・楠木の記憶が呼び起こされる。


しかしその記憶と異なるのは大佐の眺める先にはもうもうたる煙と炎に包まれ沈んでいく巨大な鉄の塊。

大佐は双眼鏡をおろして楠木のほうに振り返る。

「自沈したのです・・天守閣に高師丞がいなかったことが想定外でした」

いついかなる時も将軍よしひでの傍から離れたことのない師丞はこの時だけ、天守閣を離れていたようだと大佐は行った。

将軍の死に錯乱した師丞はそのまま弾薬庫に飛び込み火を放ったという。

・・・そう言えば私が見た男性の姿は一人だったな・・・楠木は少しだけ吐き気を催し口に手を当てる


「大佐、これからどうなるのでしょうか?」

「さあ、私にも想像できません、総裁がこの機をどう見るか、私にもまだ・・・」

「いえ、そこまで大きな話ではなく、私たちのこの先数時間、数日先の話なのです」

「あ、そうですか。失礼しました。楠木さんはエデンには行ったことありますか?」

「父と私が亡命してきたのは私が3歳の時です、ほとんど記憶にはないですが・・・ああ、そうですね、捕虜交換ですね」

「そういう事です。まずは我々もエデンへの入国申請をしないといけませんね」

エデン島。

絶対不可侵のこの島は中立地帯として双方の国への亡命の窓口にも捕虜交換の場所にもなっている。

「捕虜交換」と言ってもその実態は人身売買に近いものだ。

捉えた捕虜をエデンに買い取ってもらい、敵政府はエデンから捕虜を買い取る。

当然エデンはマージンを乗せている。

殆どの場合はその売買が成立するが、まれに政府が買い取りに応じないとエデン政府の特殊公務員として雇用される。

公務員とは名ばかりの要は奴隷である。

なお、そういった特殊公務員は個人でも買い取ることができる。


・・・大佐の事だ、これを見越してもう入国申請なんて終わってるだろう・・・

そう思いつつもそれを口に出さすに楠木は別の事を尋ねた。


「そう言えば大佐、さっき、ひでしねっていいましたよね」


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