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武士とは死ぬことと見つけたり

六隻の艦隊で鶴翼の陣にて敵を牽制しつつ後退を重ねていた山名艦隊であったが、細川による自領の横領が気掛かりな山名宗兵は多少の犠牲を覚悟の上、艦隊を三隻づつに分けて後衛(山名伊勢艦隊:旗艦伊勢)がシノワス第三艦隊を防ぐ盾となり、山名宗兵が率いる前衛(山名備前艦隊:旗艦備前)がまずは自領の主島である【備前島】に急ぎ向かうこととした。

挿絵(By みてみん)

備前の首島に到着した宗平は艦隊への補給をしつつ、「九曜」、「平四ツ目結」といった陸戦が可能な巡機装の半分と陸戦要員を島嶼防衛にあてるために降ろした。

また、いままでは海岸付近に設置不可能であった各種火砲を湾岸に移動することを配下に命令して再度出航の準備を開始する。

もう一つの自領である伊勢にて同様の防衛策を講じるためである。

しかし真っすぐ首島伊勢に南下するのではなく、一旦細川領播磨方面に向かって西進し迂回していくこととした。

これは細川が備前なり伊勢を横領すべく東進しているならば、それを洋上で補足できれば、早めにけん制なり阻止ができると考えたからであった。

さて前衛の備前艦隊に続き、後衛の伊勢艦隊もなんとか解放軍を振り切り備前島にたどり着き、そこで備前艦隊と同じく補給を行い機動兵器の半数を下ろす。

すでに山名宗兵の命によって島の海岸部に設置された火砲のいっくつかが威嚇射撃をしている事もあってか解放軍第三艦隊は島には目もくれずに射程の外から後衛の艦隊の出航を待つかのようであった。

それもそのはずである。

解放軍の目的は「幕府艦隊の殲滅」にあったのだから。

現在、【京都島】を占拠しているゲラシメンコたちが一番恐れているのは海戦ではなく陸戦なのだ。

例えば京都島の三方から幕府軍が陸兵を上陸させて、陸兵中心の市街戦を仕掛けきたら、わずかばかりの陸兵しか持たないシノワスの京都駐留軍は一たまりもない。

あえて艦隊を分散させて周囲を警戒する方法もあるだろう。

しかしそれよりは、より積極的に敵の兵站の中心を破壊すべきではないか?

そもそも巡機装自体が兵の巨大化、機械化、装甲化なのだからその母艦が生身の兵を運ぶ母艦になりうるのだ。

まず最優先すべきは巡機装母艦の殲滅。

ゲラシメンコたちはそう考えて、まずは所在の明らかな山名艦隊の殲滅を命じたのあった。

細川と京極はいまだ行方知れずなどである。

しかし考えてみれば大和国を弱体化し実行支配するという目的を達成する一手段として一時的に京都を占領しているに過ぎない。

しかしいつぞやに京都を守る事が自体を目的とした戦略を立てている。

「手段の目的化」に陥ってしまったのではないか?

その事もわからないゲラシメンコでもないが、今はこの戦争の出口戦略を見いだせないでいるのだ。


さても領内に入っても、島には目もくれずに執拗に艦隊のみを追い回してくる解放軍の動きを見て山名宗兵もその目的と背景を察した。

それではいっそ領内の島々を転々として敵を疲弊させる事も考えたが、そういう事は幕府としての全体戦略があってその一環として考えるべき事だろう。

今は自分たちの自領の安全だけ考えればいいのだ。だからそんなに時間をかけてもいられない。

補給を十分に終えてさらにはもともと艦数で優っている今この時こそがあのうるさいハエどもを叩き落とす絶好のタイミングではないかと考えた。

山名宗兵はそう考えて、伊勢に向かう方針を捨てて、後衛の艦隊と合流の上で反転し解放軍の艦隊に攻勢をかける事を決めた。

備前島の北西、おおよそ約40海里に地点である。

山名宗兵の艦隊がそのために船足をとめたその時である。

山名宗兵の艦隊と解放軍の別動隊となった【岡山】が、双方の存在に気付いたのであった。


ちなみにこの世界における敵の索敵方法は【ローテク&ハイテク】である。

レーダーが使えなくなったこの世界の船舶、特に大きな軍艦には昇降する大型の測距儀が備えつけてあり、それを360度回転させて撮影した映像をコンピューターで解析して海上を航行する物体や陸地などを確認し判別する。

もちろんそれは天気が良いという前提の話だが、半径20キロ~30キロの範囲であれば敵の索敵も可能であったのだ。

加えて高速な小型の連絡用・索敵用のボードを多数備えてあり、捜索隊を出す事も行われていた。

また洋上での無線通信の利用も困難であったこの世界においては島と島との間を行き来して小型の荷物や手紙を届ける「海飛脚うみひきゃく」と呼ばれる人たちが数多いる。

だから各国は島々に隠密や観測員をおいて収集した情報を海飛脚を通じて入手すると言ったことも行っていた。

そして、その数は多く、また隠密専門の海飛脚などもおりそれらをすべて検閲するのは不可能な状態であった。

大佐たちはシノワスが大和国のあちこちに潜ませていた隠密や観測員からの情報を海飛脚経由で入手しつつ西進しており、山名の艦隊が補給のために主島備前に立ち寄ったこともあって、比較的容易にその動向を把握して現在位置を想定することが可能であった。

一方で山名もここに至るまではずっと友軍の位置、執拗に追撃を続ける解放軍、そして細川の艦隊を発見すべく360度監視索敵を終始怠っていなかったのである。

だが山名宗兵は、思わぬ方向から軍艦が接近してきたこと、それが先日の海戦で拿捕されたはずの「岡山」であった事を知り驚愕を隠せなかった。

そしてその艦長が自分もよく知る山名の一族であった事を思いだして、その正体と目的について思案にふける。


さてこちらは岡山の艦橋である。

岡山の艦長が、以前より打ち合わせていた作戦の内容を再度説明する。

我々は山名に投降するふりをしてその旗艦に近づく。

そして山名宗兵が油断した隙に至近距離から旗艦の艦橋を攻撃して宗兵を殺害すると言うものであった。

そのためにはまずは我らの投降が擬態である事を見破られないことが必須である。

そのためにはまずは大佐に出撃願いたい。

そして我らは二つ引両にて大佐に対して発砲することを許されよ。

もちろん、当てることのないように留意はいたす。

大佐はとにかくうまく逃げ回ってください。

山名の眼前で展開されるこの大芝居によって、まずは彼らを困惑させそして我らの投降を擬態でないものと証明できるのです。

「素晴らしい作戦です!」大佐は手を叩き賞賛する。

もしこの場にスターリンのクルーが一人でもいたらまさに一番の嘘つきはこの人だと失笑するであろう。

「ではまずは私が出撃いたします。くれぐれも本気で撃たないでくださいね」と念を押す。

・・・・・・・・・・・

「で、大佐はどうするんだい」

SV-125のコックピットの大佐に鴉が秘匿回線を使い問いかける。

「とりあえずは逃げまくるだけです。あとは状況次第です。鴉さんはくれぐれも手を出さないでくださいね」

「ああ、わかったよ」そう言い残すとTT160はSV-125から離れていく。


再び「岡山」の艦橋。

そこで操舵主を務める野州新平のずしんぺいは細川の分家筋にあたる。

その父も兄も山名との紛争で命を落とした。

彼は縁あって幼少の頃から将軍よしひでに仕えた。

そしてその為人を尊敬し、敬愛していたためにその死を知った時には命を断とうとさえ考えたのだ。

そんな野州新平は出航前に大佐と面談をする。

これは野州新平が特別という事ではなかった。

大佐は出航に先当たり、岡山の艦橋要員や砲術長などの主だった役職者との面談をしていたのである。

「野州さん、貴方が我らに捕らえられた時に一人大声で殺せと殺せと叫んでいたのは非常に印象に残っています」

「お恥ずかしい限りです。」

「それは、恥ずかしいことなのでしょうか?私はその時に大和に古くから伝わる【武士とは死ぬことと見つけたり】という言葉の意味を考えさせられたのです」

「生き様もそうですが、今の私はむしろその死に様を自分で選べればと思っております」

「それを私たちが奪ったしまったと」

「いえ、そんな事は・・むしろ今回死に場所を頂いた事を感謝さえしております。」

「そうですか。では貴方から奪ったものをお返しします、どうぞこれをお収めください」

そういって大佐は一丁の拳銃を新平の前においた。

幕府軍の捕虜はみな武装解除されたままである。

驚きながもその意味を知り、新平は目を潤ませて、拳銃を取る

「ご存じの通り、あなたちの将軍、あの英明なよしひで様を殺したのは私です、なんなら今、その拳銃を私に向けてもかまいませんよ」

「そうですか。しかし私は思います。もし私は貴方に向けて弾を放ったとしても、それは私の過去に向けてとんでいくものです。私はこんどこそこの銃弾を未来に向けて放ちたいと思います。そもそも今、私があなたを撃ったとしてそれでよしひで様がお慶びになるとは、今の私には思えないのです」

「そうですか。私には是非ともそれをあなたの生きざまを決める時に使って欲しいなとか思います。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

岡山の艦橋で操舵輪を握る新平はいまその言葉をいまかみしめている。

突然に始まった岡山の艦長の言葉を聞きながら


「本艦の全将兵に告ぐ!我らはいまより山名へ投降する!これは擬態ではない!今の我らが助かるにはこの道しかないのである!我を信じよ、そしてまずは我らの恭順の意思を示すべく、シノワス軍のコンスタンティン大佐なるものが乗る巡機装を撃沈する!これは演技でも演習でもない!巡機装隊全機、発進せよ」

まずは12隻の二つ引両が次々と着水をはじめる。

一早く海の降りた四隻がすばやくSV-125に肉薄し、SV-125を取り囲み、一斉に発砲する。

その巨体を巧みに操作して敵の攻撃を回避して逃げる大佐。それをさらに追う二つ引両。

挿絵(By みてみん)

「やはりそうお考えでしたか、艦長」新平は総舵輪から手を放す。

「おいっ野州!何をしている!早く操艦に戻れ!」

「戻りますが、その前に私にはやることがあります」

「お前、なんでそんなものを!よせ!やめろ!やめてくれ!!!」

挿絵(By みてみん)

「よしひで様、ご覧になりましたでしょうか?今回は間違っていないと思っております。」

真っ赤な血の池に横たわる微動たりしない醜い肉の塊を見下してつぶやく新平。

うわああ!

艦橋にいた将兵たちは嬌声を上げて我さきにと艦橋から逃げ出した。

新平は艦長の胸ポケットから鍵を取り出し内側から鍵をかけた。

これは責任者が自決する際に艦橋に人を入れないためのものである。

新平は艦内放送のマイクをとった。

「すでに状況を察しておりましょうが、艦長はたったいま私が殺しました。これより本艦は山名の旗艦備前対して特攻を仕掛けます。逃げたい人はどうぞ」

そう言ってマイクを離した新平は船首を山名の旗艦備前に向けると総舵輪にロックをかける。

さらに艦橋のテレグラフハンドルを押し下げて機関全速の位置とした。

もしこの時に誰か機関室に飛び込んで機関を停止させるなりすれば、この特攻は防げたかもしれない

しかし岡山の乗務員の中にはそんなものは一人もいなかった。

皆我さきにと海へ飛び込んでいく

挿絵(By みてみん)

すざまじい轟音とともに岡山は備前の横腹につっこんだ

どす黒い噴煙と紅蓮色の劫火が辺り一面を地獄色へと染めていく。

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