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プロローグ

挿絵(By みてみん)

少し黒ずんだ海原を、その巨大な船は静かに航行していた。

誰もが、それを「船」という単語で呼んでしまう事を思わず躊躇してしまうほど、その形は異形であった。

滑らかな曲線を中心に構成されたブルーメタリックの流線形は、むしろ宇宙船と呼んでもおかしくない造形である。

それもそのはずだ。

この「船」は、まだこの世界に一隻しか存在しない高度なステレス性をもった最新鋭の軍艦、先月就航したばかりのスターリン級巡機装母艦のネームシップ「スターリン」であったからだ。

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

・・・ったく、一体、どこに連れていかれるのか・・まあ大佐の事だし・・ 

照明を落としたCIC(戦闘指揮所)の自席で整った顔立ちと黒髪ストレートヘア碧眼の美しい女性は独り言ちた。

この度、編成されたばかりの「シノワス労働者解放軍特別遊撃隊」に配属されたサーシャ・楠木少尉である。

そんなCIC詰めのエリート少尉が、乗艦がどこに向かっているのかも知らないなんて馬鹿な話があるのであろうか?

そもそも、この「スターリン」なる軍艦に関しては、奇妙な事が多すぎる。

この船は一応は「巡航機動装甲(巡機装)母艦」に分類されているらしい。

いや、そもそも「軍艦の分類」というもの自体が、この世界ではあまり意味をなさないものであるかもしれない。

何故ならこの世界において大型戦闘艦のほぼ全てが「巡機装母艦」であるのだから。

その理由を理解する前に、まずはこの世界のあらましを知って頂く必要がある。


西暦20XX年

小惑星の激突をきっかけに始まった地殻・気候の大変動によってこの星の全ての大陸、ほとんど全ての島嶼が海中に沈み、地上に生息していた生物のほとんどが死滅した。

奇跡的に生き延びた人類の総数は1万に満たなかったとさえ言われている。

そしてバンアレン帯の大規模な破壊による強力な磁気嵐の発生によって衛星通信、地上波通信、無線通信、レーダーの類がほとんど利用できなくなり人々は各地で孤立した。

そんな中であったが、彼らはなんとかして連絡を取り合い、この世界に残っていた島々の中で最大の島と思しきに場所に集合し、そこを「エデン」と名付けた。

共同体を形成し、断片化された技術と知識を持ち合って組み合わせて科学文明の復興を目指した。

そして長い時を経て人口が増加し、技術を復興し、ある程度の豊かさを享受できるようなった人類は、かつてよりの宗教の違い、民族性の違いから共同体内部での民族間対立問題を顕出させていく事は至極当然の事であった。

特に日系住民とロシア系住民の対立は激しく無差別テロが蔓延するようになる。

ここに至ってこの共同体の支配層は、各民族の他の島への移住を支援し、各民族の移住先でも自治独立を認め、統一国家として体裁を捨てていくことになる。(いわゆる「再分裂時代」)

これが「世界資源技術管理機構(以降、管理機構と略す)」の成り立ちであり、共同体国家が軍産複合体へ変貌していった経緯である。

何故ならば、旧支配層は各民族の独立の条件として「兵器の製造禁止・利用制限」を引き換えにしたからである。

特に技術と資源の塊とも言える大型海洋船舶への攻撃は、国家間の紛争であっても内戦であっても、厳重に禁止事項とされた。

まず陸上沿岸部への大型火砲の設置を禁止する。

船舶への大型火砲の搭載は許されていたが、火砲を搭載する船舶(ほとんどが大型の軍艦)には管理機構の監察官の同乗が義務付けられており、火砲に取り付けられたロックの解除は監査官のみが行えるという決まりになっている。

そのために「再分裂」以降発生した国家間紛争における洋上戦闘においては、軍艦同士の火砲やミサイルの撃ち合いなどは行われることなく、敵船に戦闘員を送り込んで小火器や刀剣の白兵戦で戦うという、まるで中世さながらの海賊のような戦いが行われる事となったのである。

当初は小型船舶などで大型船に取り付きして戦闘員を乗り込ませる戦法がとられていたが、近距離でのみ利用可能な索敵技術の開発と船舶への外部侵入に対する防御方法が進化したこと、加えて管理機構が増加し続けていた海賊対策として防衛のための小型船舶への攻撃と撃沈を解禁したことも手伝い、国家間紛争における洋上戦闘は一時膠着状態に陥る。

そこで水上を高速で移動し、敵の防御線を搔い潜って敵船に取り付き、船上、船内で白兵戦闘が可能な一人乗りの小型機動兵器「巡航機動装甲(略称・巡機装)」が考案され実用化された。

「巡機装母艦」というものは、この「巡航機動装甲」の母艦というわけである。

さて実際の洋上戦闘となると双方が母艦から巡機装を発進させる。

当然、巡機装同士の洋上戦闘となり、洋上での迎撃を排除なり、回避して生き残った巡機装が軍艦に取り付き、今度は艦上・艦内での戦闘になる。この艦上・艦内の戦闘に関してももちろん撃沈はご法度である。

万一撃沈した場合、たとえそれが不慮の事故であっても管理機構からの一切の武器輸入が1年間禁止されるのである。

こうして艦載機などを破壊されたり搭乗員のほとんどが戦死・捕虜となり母艦が無力化されると敗北となる。

このように無力化されて占拠された敵の軍艦はほとんどの場合、一旦はエデンに戻されて整備・回収の上で戦勝国に戻される。

以上が現在の大規模洋上戦闘のあらましである。


さて「大分裂」後の独立国家についてであるが、まず日系住民は「大和国」と名乗る軍閥連合体国家となる。

大分裂以前から日系住民の中での自警団的な暴力組織として「足利組」、「京極組」、「細川組」、「山名組」が存在し、さらに宗教組織である「叡山」を加えた5大軍閥というものが存在した。

「大和国」において京極、細川、山名は、名目上は足利を当主、大将軍として位置づけ各所領を委任されて統治するという建付けとしたが、4つの軍閥の分割支配と言うのが実態であった。名目上の統一政府は「幕府」と呼ばれ、京極、細川、山名の各一族は幕府の重職に名を連ねていた。

中でも「管領」と呼ばれる地位は、大将軍がお飾り的な存在になる中で幕府における実質的最高権力者であり、その地位を巡って細川と山名は争うことになった。

また政治権力の中枢から外された「叡山」は信徒を束ねて武装化を図り最大の反幕府勢力の中核となっていた。

一般的には「大和国」は独立した国家の中では最大の国力と軍事力をもって保有しているとされているがその内情は以上の通りで一枚岩ではない烏合の衆とさえ言える軍閥の集まりでしかなかったのである。


「大和国」の支配層が自警団的な暴力組織が母体となっている一方で、ロシア系住民たちは搾取されていた労働者階級が多く、社会主義・共産主義に回帰し、自らを「シノワス社会主義人民共和国」を自称した。

しかしその実態としては、シノワス労働者解放党の一党独裁による全体主義国家であった。

人口と見かけの軍事力では「大和国」の半分といったところだが国家としての統制ができている分、国力・軍事力ともに「大和国」に匹敵するものと見られている。

いづれにしても両国ともに覇権主義国家であり、その領土領海を巡って長年紛争を続けていたのである。

特にかつては山名氏が領有していた壱岐島をシノワスが、山名細川間の紛争に乗じて占拠し、ソロモン島と改名して要塞化した事がきっかけとなり大規模な国家間紛争へ発展する。


そしてこの度、第十五大将軍となった足利・マルコス・よしひで将軍は、幕府軍二個艦隊六隻(実態は山名の軍勢)を派遣してソロモン島を包囲させた。さらに自ら第一艦隊を率いて山名艦隊への督戦のために出撃したのである。




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