6. 教団拡大!?まさかの信者急増中
――その噂は、風のように広まった。
「村の北の谷で、黒い災厄を切り裂いた者がいる」
「空を割った影を、一言で沈めた男がいた」
「……語っただけで、世界を動かす“影の王”が存在するらしい」
そう。クロウ様の伝説である。
もちろん、**全部事実(※ただし大半が誤解)**である。
(……いやいやいやいや!?)
クロウ本人は、いつもの図書館の机に頭を抱えていた。
(ちょっと出向いただけなんだが!? 斬ったの俺じゃなくてゼクスなんだが!?
なんで“神託ひとつで世界を救った影の神”扱いになってんの!?!?)
「クロウ様、朗報です」
デルフィアが相変わらずの無表情で報告に来る。
その手には、地図と――名簿。
「……なんで名簿?」
「本日までで、《幻語の福音》への加入申請が……」
デルフィアはスッと数字を示した。
「103名となりました」
「えぇぇぇぇぇぇえええ!?!?!?」
その中には――
・「使徒に憧れています!」という農夫の息子
・「語れば魔法が使えるってマジっすか!?」という元・魔術学徒
・「前から語り部っぽい名前だと思ってた!」という名:カタル=マネス
※勘違い野郎が増殖中である。
(……いや、確かに演出はしたけども!?そういうんじゃないんだって!!)
「なお、隣村の神殿の神官長も、クロウ様の存在に興味を抱いておられるようです」
「それ逆にヤバいって!? 宗教戦争とかに巻き込まれるやつでしょそれぇぇ!?」
デルフィアはうっすら微笑み(珍しい)、一言。
「……ご安心ください。既に《語りの加護》を信じる小規模信仰集団が独自に発足していますので、
正式に教団として名乗り出るのも、時間の問題かと」
(……マジで誰か止めて)
ゼクスも現れ、報告する。
「クロウ様、教団支部として提供された廃屋を改装中です。
“福音の間”と“影の回廊”の名を戴いております」
(なんでそれっぽい名前つけちゃってるの!?!?!?)
◆
翌日。
クロウはデルフィアと共に、図書館の裏庭に案内される。
「……ここが、教団の初期本拠《影語りの庵》です」
※元・村の廃小屋(修繕済)
そしてそこには、めっちゃ集まってた。
ローブ姿の信徒たちが、神妙な顔で並び、口々にこう言っている。
「“語りによって世界は生まれた”」
「“言葉こそが力、虚構こそが真”」
「“クロウ様の語りが、我らを導く”」
クロウ、無言。
そして心の中で叫ぶ。
(ああああああ!!なんかそれっぽいことになってるぅぅぅううう!!!)
デルフィアが静かに言った。
「……信仰は始まりました。あとは、クロウ様の“さらなる語り”があれば、
この影の神話は、本物になります」
クロウは、深く息を吐き、天を仰ぐ。
(もうこうなったら……やるしかねぇ!!)
「――ならば、語ろう。
影は形なきもの、しかし我が語りによって、世界を統べる骨格となる」
「「「クロウ様ああああ!!」」」
(……ひとこと言っただけで全員ひれ伏すの、ほんとやめて!?)
こうして、《幻語の福音》は爆発的な拡大を遂げ、
クロウの影ごっこは、ついに本格的な“宗教ムーブメント”へと突入するのであった――