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5. 影、動く 〜演出だけのつもりだったのに出陣!?〜

「クロウ様。ご命令を」


 


 デルフィアが真顔で言った。

 ゼクスも隣で静かに剣を構えている。


 


 舞台は、村の北にある“誰も近づかない谷”の手前。

 数時間前、そこに“空間が割れた”とか、“黒い人影が浮かんだ”とか、村中が騒然となった。


 


(なにそれこわい。どうせ俺が語った“ネメシス”関連だろ……)


 


 心の中では叫んでいるが、表情は完璧な“影の語り部モード”。


 


「……《影の審理》を開始する。デルフィア、現地の状況を」


「はい、クロウ様。目撃情報からの推定ですが、出現したのは“語りを喰らう影”。

 おそらく《ネメシス》の分体か、前触れかと」


(“出現したのは”って、もう完全に公式扱いされてる……!?)


 


「ゼクス。もしそれが語られし災厄の一端であれば?」


「討つまでです。クロウ様の影に仇なす者は、例外なく」


 


(落ち着け俺……これはロールプレイ。あくまで演出。

 本気で出陣とか言ってるけど、本当は様子見だからな!?俺がやるのは“威圧ポーズ”までだぞ!?)


 


 だが、そんな思惑もむなしく。


 


「クロウ様。移動用の“黒獣馬”をご用意しました」


 デルフィアが誇らしげに指さした先にいたのは──


 


「……あれ、普通のロバじゃない?」


「いえ。“影の騎獣”です。影の角が生えたように見えるよう、耳を加工しました」


「いやただの紙貼ってあるだけだからね!?!?」


 


(まあ……乗ったけど。乗ったけどさ……!)


 



 


 そして――彼らは現地へ到着した。


 


 谷の中心には、**黒い“穴”**のような空間が浮いていた。


 そこから、何かを語るような音が響いている。


 


『……語リ……語ルナ……』


 


 まるで“言葉そのもの”を拒絶するかのような声。

 まるで“物語そのもの”を否定するかのような存在。


 


(やばい……本物感ある。これガチのやつじゃん!?)


 


 デルフィアが構える。


「クロウ様、あれは語りを壊す“拒絶の霧”……言霊が効きません。

 命令による攻撃しか通じない可能性があります」


「ゼクス、お前の剣、いけるか?」


「クロウ様の命があれば、俺の刃は影を裂く」


 


 ゼクスが一歩踏み出す。


 クロウは、静かに右手を上げ、語る。


 


「――斬れ。語られぬものを、影ごと貫け」


 


(かっこよく言ったけど内心ヒヤヒヤです……!)


 


 その瞬間、ゼクスの剣に黒いオーラがまとい、

 一閃。谷に浮かぶ“言語拒絶の影”を、真っ二つに斬り裂いた。


 


『……ァ……ァア……語リ……主……』


 


 影が崩れ落ちるように消えていく。


 


 デルフィアが息を飲む。


「やはり……“ネメシス”は本当に現界しつつあります。これはまだ……前兆」


 


 クロウはマントを翻し、冷静に一言。


 


「影は語ることで形を得る。

 語られぬ影が生まれるのなら──俺が、それを語り直すまで」


 


(うわぁあああああ!!かっこいいこと言っちゃったぁああ!!誰か止めて!?!?)


 



 


 こうして、“演出だけのつもり”だったクロウは、

 本当に出陣し、影を斬り、敵の存在を世界に知らしめてしまったのである。


 


 ……本人は、ただの語り部ごっこを楽しみたかっただけなのに。

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