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4. ネメシス、まだ語ってないのに動き出す


「……語られし災厄。語りを喰らい、神を偽る者。名を《ネメシス》とする──」


 昨日の俺は、かっこよくキメたつもりだった。

 影の語り部として、クールに即興で語った“敵”の名前。


 それが、どうやら世界に“記録”されたらしい。


 


「ねえ語り部様、今日のお昼、空に目が生えたって騒ぎになってましたけど、関係あります?」


「……いや? さあ?」


 


(あるよ!? めっちゃあるよ!!完全に俺のせいだよ!!)


 


 デルフィアは福音書を開きながら、真剣な顔をしていた。


「……福音書に、新しい章が勝手に加筆されていました。“語られぬ災厄が胎動を始める”と」


「それ、俺書いてないからね!?」


 


(まただ。俺が語ったことが、勝手に物語として成長してやがる……!)


 


 語ったら現実になる。それはわかっていた。


 でも語ってないところまで自動で補完されるのは聞いてない。

 もしかしてこの世界、勝手に“続きを書いてくる”AI搭載なの!?


 


「つまり……クロウ様の語った“ネメシス”は、もうどこかで動き出している可能性があります」


「お、おう……?」


 


(誰か止めてぇぇ!!妄想が勝手にプロット進めてるの止めてぇぇ!!)


 



 


 そして、その夜。

 村の北側、草木も生えぬ谷の底。


 何の気配もなかったそこに、“亀裂”が走った。


 


 ――パキィン。


 空間が、ひび割れる音。

 そこから黒い霧が噴き出す。


 


 低く唸るような、誰の声とも知れぬ音。


 その中央に、浮かび上がる“輪郭のない人型”。


 


『語り……語り……語りを、食う……』


 


 それは言葉でありながら、言葉になっていない。

 形のない概念。世界の“認識”の隙間から這い出すもの。


 


 名を持たぬはずだったそれに、名が与えられた。


 語り部の一言で。


 


『ネメシス……』


 


 それは、世界にとっての“バグ”。


 存在を否定することでしか処理できない、“言葉なき災厄”。


 



 


 一方その頃、図書館では。


「……うん、なんか悪寒がするんだが」


 クロウはマントをかぶってココアをすする。


 


(語ってないのに世界が勝手に続きを書いてくるこの現象、ほんと誰か説明して?)


 


 デルフィアがじっとこちらを見ていた。


「クロウ様、次はどの神を生み出すおつもりですか?」


「いやちょっと待って? 誕生ペース早くない? 今まだ使徒2人で敵1体なんだが?」


 


「だからこそ、バランスを取るために“守護神”が必要かと」


「……お前ほんとにどこの幹部だよ」


 


(もう誰かこの“信仰の暴走機関車”止めてくれ……)


 


 その時、図書館の扉がバンッと開いた。


 


「クロウ! 大変だ!」


 村の少年が飛び込んできた。


「北の谷に、なんか……なんかやばいのが出たって!空が割れて、黒い人影が!」


 


 デルフィアの目が、ぴくりと動く。


 


「……来ましたね、《語られざる災厄》」


「いやほんと、来ないでほしかったんだけど!?」


 


(やばい。本格的にやばい。ネメシス、生まれた……!?)


 


 クロウはココアのカップを置き、ゆっくりと立ち上がった。


 マントを羽織り、表情は冷静に、声は低く――


 


「……動くか。“影”の時間だ」


 


(何この状況。俺が一番ついていけてないんだけど……!!)

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