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2. 語ったら、神が目覚めちゃった件

 「……さて」


 図書館の奥。誰も来ない午後の静けさ。

 棚の影に隠れて俺は小さくため息をついた。


 


(どうする、これ)


 


 状況は明らかにおかしい。

 ただの図書館司書で、モブとして生きてきたはずの俺の前に、突如現れた銀髪少女デルフィア。

 昨日、冗談半分で語った“影の使徒”設定を、ガチ信仰してしまった少女である。


 


(いや、演出で語っただけなんだよな。まさか本気にするとは思わんじゃん?普通)


 


 そのデルフィアが、今日も当然のように俺の前に現れた。


 


「クロウ様、準備が整いました」


「……何の?」


「神の召喚儀式です」


「……は?」


 


 俺は声に出さずに、静かに眉を上げた。


 


(ま た 始 ま っ た)


 


 昨日、俺がノリで言った。

 「この地には“封じられし虚構の神”が眠っている」と。


 ただの演出だ。世界観づくりのつもりだった。


 それを、デルフィアは全力で真に受けたのである。


 


(いや、理屈がやべぇなお前……そんなの信じるなよ……)


 


「儀式の場は、村外れの祠をご用意しました。かつて地霊を祀っていた聖域。今は無人です」


「……なるほど」


 表情は崩さない。クールな語り部としての演出を貫く。


 だが内心では、


 


(本気で準備してる……この子、完全に影の教団運営してるやつじゃん)


 


「では、向かおう。影に眠る神を、目覚めさせるとしよう」


 そう言ってマント(図書館のブランケット)を翻す。

 格好だけは完璧だ。問題は中身が全部勢いと思いつきなこと。


 



 


 村外れの祠。

 廃れた石造りの小さな建物。ひび割れた柱、崩れた屋根、まさに“いかにも”な聖域。


 デルフィアは魔法陣らしき模様を描き、その中心に“福音書”を置いた。

 あれも俺の手書き妄想ノートである。今や神具扱い。


 


「クロウ様。最後の“語り”をお願いします。演出はお任せします」


「……わかった」


 


(よし、ここが正念場だ。あくまで俺は、影の語り部。

 ロールプレイを崩すわけにはいかん。演出なら任せろ)


 


 俺は空を仰ぎ、ゆっくりと右手を掲げた。

 口を開く。


 


「封ぜられし虚構の神よ。

 影に隠れし時を越え、今ここに目覚めよ」


 


 静かな声が、祠の中に響く。


 その瞬間、


 


ゴオオオオオオッ……ッッ!!!


 


 空が、揺れた。


 祠の屋根が風で吹き飛び、空間が捻じれるような奇妙な音が響く。

 そして空に、黒くゆがんだ光輪が浮かび上がった。


 


(……待って。これ、俺の演出じゃない)


(誰かが裏で特殊効果仕込んだとか、そういうレベルじゃねぇ)


(空にバグみたいな輪っかできてるんですけど!?)


 


 デルフィアは恍惚とした表情で、跪いた。


 


「……神は、確かに応えました。やはり、クロウ様の言葉は“真”です」


 


 俺は演出を崩さず、ゆっくりと頷く。


 


「……当然だ。我が語りが、神を導かぬはずがない」


 


(やっべぇぇぇぇぇ!!!ガチで世界が反応し始めてる!!!)


 


 だが、ここで取り乱すわけにはいかない。

 なぜなら、俺は──影の語り部だから。


 


 演出は、常に完璧でなければならない。


 


「これで、影の神話が幕を開けましたね」


 デルフィアのその言葉に、俺はそっと目を細めた。


 


(……あーもう。開いちゃったのか、幕)


 


 こうして、俺の語り部ごっこは、

 世界規模の神話構築フェーズに突入してしまったのである。

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