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15. 語られざる敵、語れぬ影

 ――数日後。聖都にて。


 クロウの“語り”による現象が、ついに世界各地に拡散し始めていた。


 


 小さな村では「影の祝詞」で病が癒え、

 遠く離れた海の都市では「語りの加護」を受けた船が嵐を越えたと噂される。


 


 だが――それと同時に、世界の“裏側”もまた、静かに蠢き始めていた。


 



 


 その男は、黒装束のまま、言葉を発さずに“処刑”を完了させた。


 「語られた者を討つ」、それが任務。


 彼の名は、《沈黙騎士サイレント・ナイト》カーディア・ノクト。


 


 “語り”が発動する前に、その“口”を封じる。

 言葉を呑み込み、存在ごと消す異端審問の処刑官。


 


 彼は命令を受けていた。


 


「次の標的は、“語りの主”クロウ・エグザイル=オルター。

 このままでは、全ての物語が“彼の語り”に書き換えられる」


 



 


 一方その頃、クロウはまたも図書館勤務中。


 ――が、様子がおかしい。


 


「……デルフィア、なんか……空気重くない?」


「はい。周辺地域で、“語りに関係した者”が謎の死を遂げる事件が増えています」


「ちょっ、待って……それ完全にフラグ立ってない!?」


 


 ゼクスが窓際に立ち、鋭い視線を外へ向ける。


「気配があります。恐らく、“語りに干渉する敵”です」


「もう敵とか勘弁して!? 静かに本読んで暮らしたいんだけど!?」


 


 デルフィアが小声で言う。


「……クロウ様。今日は、“外へ出ていただけませんか?”」


「え、何その優しいようでいてめっちゃ怖いフラグ回避提案!?」


 


 だが、次の瞬間。


 


 図書館の扉が、音もなく開いた。


 


 そこに立っていたのは、無言の処刑者――《カーディア・ノクト》。


 言葉を持たず、表情を持たず、ただ“沈黙”だけを携えた男。


 


 クロウの口が、自然と動こうとする――だが。


 


「ッ……声が、出ない……?」


 


 空間そのものが、“語り”を封じていた。


 デルフィアが叫ぶ。


「これは……禁域術《沈黙の帳》!! この空間では、言葉は意味を持たない……!」


 


 カーディアが無言で刃を振るう。

 その斬撃は音さえなく、空気を切り裂いた。


 


 ゼクスが間に入り、剣を抜く。


「クロウ様を……“沈黙”にはさせない!」


 


 二人の剣が交錯する。だが、カーディアは無言のまま、ただ“封殺”の術を続ける。


 


 デルフィアは、紙とインクを投げ渡す。


「書いてください、クロウ様! 声が封じられても、あなたの“語り”は――“文字”でも届くはずです!!」


 


 震える手で、クロウは紙に“語り”を記す。


 


 ――“かつて、無音を破る鐘の刃ありき”――


 


 書いた瞬間、図書館に響いたのは、鐘のような金属音。

 刃と刃が打ち合い、空間が震える。


 


 ゼクスの剣が光を放ち、カーディアの無音の術をわずかに破る。


 


「語られぬ者、クロウ様が――語った!!」


 


 デルフィアが叫ぶ。


「書き文字すらも力とする……これが、“語り”の本質!!」


 


 カーディアが初めて、一歩退いた。


 


 その目には、明らかな“警戒”が宿っていた。


 


 やがて、彼は無言のまま背を向け、影のように姿を消す。


 


 だが、クロウはまだ震えたまま呟いた。


「……また来る。今度は、“言葉”を完全に奪いに来る……」


 


 デルフィアがそっと言う。


「我々が語り続ける限り……敵は“沈黙”で抗おうとする。

 それでも、私たちは“物語を信じる”ことを止めません」


 


 クロウは深く息をつき、苦笑する。


 


「……ほんと、俺って……妄想しただけなのに……なんでこんなヤバいやつらに命狙われてんの……?」

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