13. 神格承認式 〜誰が神になれと言った!?〜
――聖都アーク=エデリア、評議庁大広間。
《静寂の環》を超えて“語り”を発動したクロウは、
全ての者の前で“語りの力”を示した。
その瞬間、空気が変わった。
人々の目が変わった。
そして世界が、クロウに“神としての資格”を与え始めていた。
「クロウ・エグザイル=オルター。貴殿の語りは、世界を動かし、認識を改変した」
「もはや否定の余地なし。これより、神格者としての承認を執り行う」
――神格承認式。それは、この世界の宗教体系における、最大の“公式認定”だった。
(ちょっ、待って!? 俺そんなの望んでないよ!?)
(やばいやばいやばい!! 正式に神扱いされたら……もう逃げられなくなるッ!?)
デルフィアが厳粛な口調で言う。
「ご安心を。これは“ただの形式”にすぎません」
「いや、絶対形式じゃ済まないやつでしょこの雰囲気ッ!!」
◆
式場は既に整えられていた。
白銀の祭壇、聖都評議会の証人、そして各国からの観察官まで集まりつつある。
その中に、異様な空気をまとった男がひとり。
黒いフードに、白い仮面。視線を合わせた瞬間、心が凍るような違和感。
デルフィアがクロウに耳打ちする。
「……“対話不能”の監視者です。“真なる神話”が現れたときのみ、出現するとされる存在」
「ちょっと!? 何その“ラストダンジョンの隠しボス”みたいな存在!?」
そして、式は粛々と進められようとしていた。
審問官が宣言する。
「今ここに、“語りの主”クロウ・エグザイル=オルターを神格者候補として登録する」
「彼が“世界に名を刻まれる存在”であることを示す儀礼――
すなわち、“語りの証印”の付与を行う」
すると、空中に光が浮かび、文様が現れる。
“世界律”と呼ばれる、神格者しか刻めない言葉の結晶だ。
その“証印”が、クロウの胸元に向かって、ゆっくりと――
「――待ったァァァァァァ!!」
クロウが叫んだ。
「俺、神になるとかマジで無理だから!!」
「ただの妄想でここまで来ただけで、全然計画してないし、そもそも現実逃避で語ってただけなんだって!!」
一同、凍りつく。
デルフィアがぽつり。
「……まさかこの場で全力の自己否定とは……!」
だが、その瞬間。
空に浮かんだ“証印”が、ゆっくりと揺れ、形を変えた。
“強制的な神格”ではなく、
“自覚なき語り部”という、新たなカテゴリが世界律に登録される。
セレナ導師が呟いた。
「……語られるべき存在は、“自らを語らない”。それすらもまた、神格の一つなのか」
最終的に、クロウの神格は――
【語られぬ者/無意識の創世者】
として、限定承認された。
デルフィアは満足そうに頷く。
「……これで、クロウ様は完全に神話の中に“入りました”。
公式に、世界のルール側になったのです」
「やだあああああああああああああああ!!!」
「もう普通の生活できないじゃんコレぇぇぇぇぇ!!!」