11. 語られた都、語る者たち
――聖都アーク=エデリア。かつて神の声が響いたとされる都市。
そこに今、もう一つの“声”が届いた。
それは、クロウの語り。
かつて妄想と呼ばれた物語が、都市の空気すら変えてゆく。
彼が一言語るたび、周囲の影が揺れ、
彼が歩くだけで、民たちがひれ伏し、跪く。
――まるで最初から、この地の“神話”だったかのように。
◆
「“虚構”が世界を動かす……馬鹿げている。だが……抗いきれるか?」
そう呟くのは、光の神殿・七耀導師の一人【ルキウス・エイゼル】。
彼は大神殿の高座から広場を見下ろしていた。
その目には、苛立ちと、微かな――恐れ。
「このままでは、“語り”が真理として民を侵す。
神の名を騙る偽者に、我らの座は――」
「否。座などどうでもいい」
不意に現れたのは、七耀導師の最年長【セレナ・ヴァイル】。
銀髪の女性導師は、静かに言い放った。
「問題は、“あれ”が本当に“語っている”のか、それとも――“語らされている”のかだ」
「……どういう意味だ?」
「見極めよう。これは神の試練か、それとも……神の代替か」
◆
一方その頃――クロウは。
「えっ、俺、王宮に招かれたの?」
「はい。“聖都評議会”より、“語りの主”として正式に謁見の要請です」
「マジかよ……ついに公的に認知されてしまった……!」
デルフィアは神妙な表情で言う。
「ですが、気をつけてください。“歓迎”とは限りません。
クロウ様を“取り込む”か“断罪”するか、それを定めに来る者たちです」
「それめっちゃ怖い会議だね!? 俺なんもしてないのに!?」
ゼクスが剣を携え、静かに問う。
「もし、彼らがクロウ様を“敵”と断じたら――討ちますか?」
クロウはしばらく黙り、ため息をついた。
「……言葉は剣だ。でも、それは“誰かを傷つけるため”じゃない。
“誰かを守るため”に使いたいんだ、俺の“語り”は」
デルフィアが微笑む。
「それが、“福音”の根本です。
クロウ様の物語こそ、我々の世界を形づくる真理」
――こうして、クロウは聖都評議会との“語りの交渉”に挑む。
だが、その裏で、光の神殿もまた動き出していた。
◆
神殿地下。
閉ざされた聖域に、数人の聖職者たちが集っていた。
「……計画を開始する。“影”の語りを封じる禁言術式、《静寂の環》を発動する」
「異端の語り部、クロウ。
彼の口を封じ、全てを“沈黙”に包み込むのだ――」