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10. 聖都で対話を――ってクロウ様まだ来てないの!?

 ――聖都アーク=エデリア、中央広場。


 そこには二つの異なる信仰が、対峙していた。


 


 一方には、金の鎧に身を包んだ《光の神殿 聖騎士団》。

 その先頭に立つのは、第七聖騎士【アグリス・フェルテ】。冷酷と忠誠を併せ持つ、神殿随一の処刑人。


 


 そしてその正面に立つのは、黒い外套に身を包んだ《影の巡礼者シャドウ・ワンダラーズ》の先遣隊。


 団長・スレインは、真っ直ぐアグリスを見据える。


 


「語られぬ力に、裁きなど通じない。これは対話の場であるはずだ」


「貴様らが語るは虚構。神の名を騙り、影を聖都に落とす異端。問答無用。殲滅対象だ」


 


 言葉と共に、アグリスは剣を抜いた。

 それは《清めの断罪剣》――語りを無効化する“静寂”の祝福を宿す聖剣。


 


 その空気に、聖都の民たちがざわつく。


 「影の教団が戦争を始めるのか……?」

 「でもあいつら、街の掃除とか手伝ってたぞ……?」

 「クロウ様は、対話を望んでるって聞いたのに……」


 


 ――そう、実際にクロウは何一つ命じてなどいない。

 というか、今この瞬間も。


 



 


 図書館。

 クロウは毛布にくるまって寝ていた。


 


「……むにゃ……デルフィア……神託……あとでにして……」


 


「クロウ様。重大な報告があります」


「……Zzz……むにゃ……信仰は強制しない方向で……」


 


「――聖都で、聖騎士団と巡礼団の対峙が始まりました」


「は?」


 


 クロウは跳ね起きた。


「なんでそんな物騒なイベント始まってるの!? 俺、何にもしてないよね!?!?」


「はい、クロウ様は何もしておりません。

 ですが、“黙っていたことが肯定と受け取られた”ようです」


「人の妄想にどんだけ期待してるのこの世界ぇぇぇぇ!!」


 


 デルフィアが冷静に提案する。


「では、聖都に“降臨”されますか? いえ、“語りに赴く”と表現した方が神秘性がありますね」


「どうして毎回、それっぽく仕上げるの!?!?」


 



 


 ――聖都、広場。


 聖騎士アグリスの剣が、地を砕こうと振り下ろされる、その瞬間――


 


 黒風が、吹いた。


 


 影のように広がる、存在感。

 空気が変わる。世界が沈黙する。


 


「ッ……この、気配……!」


 


 そして、影の奥から一人の男が歩み出る。


 マントを翻し、静かに歩くその姿に、誰もが息を呑んだ。


 


「――その剣で、何を“語る”つもりだ?」


 


 聖都に現れたのは、もちろんクロウだった。


 


 民衆は震える。


「あれが……クロウ様……!」

「“語りによって世界を変える男”が、本当に現れた……」


 


 アグリスが身構える。


「貴様が、“幻語の福音”の主か……!」


「俺は、物語を“演じている”だけの者さ。

 だが――演者には、舞台を選ぶ権利がある」


 


「この都市は、まだ“語り”を知らない。

 ならば、ここで演じる価値はある」


 


 その瞬間、地面の影がざわめいた。

 まるで世界が、“語り”を待ち望んでいたかのように。


 


 デルフィアが小声で囁く。


「“クロウ様、降臨”……これで、我々は正当化されます」


 


「やめて!?その言い方やめてぇぇぇぇぇ!!」


 


 だが、すでに聖都は、“語り”に飲み込まれ始めていた。

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