1. 語り部、モブを演じる
──世界は俺の語りによって動いている。
そんなクソデカ妄想を本気で信じてた時期が、俺にもありました。
はい、というわけで。
異世界転移しました、クロウです。元・地球人、現・村の図書館司書、目立たないのが信条のモブです。
「……はぁ。今日も来館者ゼロ。最高の隠れ蓑」
埃を払いながら、本棚の影に座り込む。
ここは世界の片隅、誰も来ない小さな図書館。
それが俺の根城、いや……**影の玉座(仮)**だ。
あ、言ってなかったけど俺、かつて“中二病”を極めた存在でして。
・影から世界を操る組織を妄想し
・最強の使徒たちに忠誠を誓わせ
・言葉一つで世界を動かす“語りの神”を自称し
・親にノートを燃やされて泣いた男です。
(……まあ、それも全部過去の話)
今はモブです。
冴えない司書やって、日々目立たずコツコツ生きてる。
いやホントに。マジで。目立ちたくない。
──と、そこに。
「……あの、すみません」
「ッ!? しょ、書架に人影っ!? まさか……闇の監査官!?」
「え……?」
「いや、違います。どうぞ、どうぞお入りください」
反射的に“影の敵が来た”と思った自分を殴りたい。
現れたのは、銀髪の少女だった。
着古した服、うつむきがちの表情。
目つきは死んでいるけど、なぜかこちらをじっと見てくる。
「この本……借りたいんです」
差し出されたのは――
(あっぶな!? それ俺がふざけて書いた**妄想魔導書『虚構の福音書』**じゃん!!)
そう、過去の俺が「影の語り部が持つ神書」としてノリで創ったやつ。
異世界来て調子乗って、それっぽく自作して棚に置いたんだよな……。
でもまさか、それを見つけて借りようとするやつが現れるとは。
(ヤバい、ヤバい、ヤバい……でも、ここで普通に断ったらただの変な司書で終わる……!)
……俺は決めた。影の演出モード、発動。
「……その書を手に取るということは、君はもう……戻れないよ?」
「はい」
「その名は“虚構の福音書”。語られし嘘が真実となり、信じた者を変える書だ」
「わかりました。じゃあ、私も“語られる側”になります」
あれ? なんかノってきたぞこの子!?
しかも、今なんか光ってない? 背景エフェクト出てない!?
ページがひとりでに開いてるんだけど!? それ俺の演出じゃないんだけど!?
「語り部様……私に名をください」
「……えっと、デルフィアで」
「デルフィア。了解しました。
私は今より“影の第一の使徒”、あなたの神話に従います」
(おぉぉぉぉい!!マジで使徒生まれたぁぁあ!!)
こうして――
俺がふざけて言っただけの“影の組織”に、
ガチ信者が一人、爆誕してしまったのであった。
(……いや待て。ここから逆に考えれば……)
“演出だと思ってやってたら、本当に世界が動き出した”
それってつまり――
「陰の実力者ごっこが、マジで始まったってことじゃん!!」
──俺の語りで、世界をぶっ壊す。
影から世界を塗り替える、新たな神話が、今ここに始まる。