3つ目
校舎を背にして朗読をしていた。
「やがて巳之助はかがんで、足もとから石ころを一つ拾った。そして、いちばん大きくともっているランプにねらいを定めて、力いっぱい投げた。」
右に本を持ち、左で石ころを投げる仕草をする。足もとへボールが転がって来る。それを野球部員に投げる。練習が中断し、注目されてしまう。あ、しまった・・・
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野球部員に取り囲まれる。
「沚水、左投げだったか。いいね、今の。外野か? ピッチャーか?」
「練習試合でしか投げてませんが、ピッチャーです」
「今すぐ入れ」
「はい、着替えて来ます!!」
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部屋で体操服に着替え、グラヴを2つ持って戻った。
「なんだ、どっちも出来るのか?」
「左用と右用です」
「は?」
「両投げ両打ちです」
「投げてみろ」
ブルペンへ連れて行かれ、どっちも投げてみせる。
「7月までには仕上げる。グラブは新しく作るか。手を合わせてみろ」
「こうですか?」
「飯の時間にはまだ早いな。手の甲に掌を載せてみろ。これが6本指グラブ。どっちでも使える。南海の近田投手と同じやつだ」
「パ・リーグは全然わからなくて」
「今年のルーキー。先週投げてた」
こっちのテレビでは放送されない。大阪のラジオを聴けばいいのか。
「うちは照明もあるし、7月までには十分間に合うから」
あ、そういう意味か・・・
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世界文化社「100年読み継がれる名作 新美南吉童話集」第84頁より引用(新美南吉作「おじいさんのランプ」)
右で本を持って左で捲っております。
落語原作の朗読では扇子を左で持ちます。