浴
次の日の風呂場。
1年生は湯に浸かってはいられない。「1年でゆっくり湯に浸かってる奴があるかっ!」となる。先輩のお背中を流すのだ。それも「お背中流しましょうか?」ではダメだ。
*
「先輩、お背中流しますっ!」
「おぅ、頼む」
私は先輩の背中を洗い始めた。
「痛い痛い痛い痛い、何だよ? もっと優しくやれよ」
ここまで。
*
そして、ここから。
「先輩、お背中ちゃんと流れていますか?」
「な、何だよ?」
「ちゃんと流れてるか確認してくださいよ・・・」
融けたようにどろっと流れて行く背中の肉。
「何なんだ、これはっ!?」
「流れてるようで良かったです。佐藤先輩」
「お、お前は沚水!!」
「先輩、この学校だったんですね。どうも最近おかしな事ばかり起きるので捕まえて吐かせました」
*
陽がさんさんと降り注ぐ砂浜。裸の私と佐藤先輩そして、それを取り巻く古墳時代のような白い衣装に黒い帯をした人たち。
「ここはどこだ? その人たちは誰なんだ?」
「その人たちとか失礼ですねぇ。八十神さまでしょ?」
うんうんと頷かれる八十神さま。
「そのお背中なんとかしないといけませんねぇ。それとも和邇が何頭いるか数えますか?」
また頷かれる八十神さま。海には和邇がたくさんいる。
「海で塩水を浴びて、伏せて風に当たっておくのはどうじゃろ?」
八十神さまのお一人が仰った。頷く一同と私。八十神さまに担がれて行き、海へ放り込まれる。
「や、やめてくれぇぇ~!!」
寄って来る和邇たちから逃げ、砂浜を駆けて戻って来て、砂に足を取られて一同の前でうつ伏せで倒れる。
「良かったですねぇ。これで治りますよ、先輩」
そこまで。
*
洗い場にうつ伏せで倒れている先輩。集まって来る先輩方。
「佐藤、大丈夫か? おい、三井頼む」
「落ちてるのかな?」
柔道部主将の三井先輩が活を入れる。目覚める佐藤先輩。呆然としている。
「安静にさせとこう。おい、1年! こいつを連れてってやれ」
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「稻羽之素菟」(太安万侶編「古事記」より)を参考
今の寄宿舎や学生寮がどんなものかは知りませんが、当時はこんな体育会な雰囲気でした。