洗礼
入学式。雅楽の演奏が流され緞帳が上がって行く。式典中にお祓いがあり、お神楽があった。二拝二拍手一拝の説明があり、社の方角を向き、新入生もそれを行った。後は普通な式典で特筆すべき点はない。
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数日後、昼休みに机の上に座って駄弁っていた。そこへクラスメイトが突進して来る。左足を出して待つ。プロレスラーのジャイアント馬場さんがこういう風にすれば相手が自爆するんだよね。
笑いながら学ランを叩き、まだ笑いながら右前蹴り、それを右下段払い。それでも笑いながら蹴って来るので左袖、右襟を掴んでその足を払う。仰向けにして絞める。
「悪戯が過ぎるとこうなるよ」
一旦緩めてから絞め直す。
「もっと絞めた方がいいかな?」
元の机に座り直し談笑を再開する。
「俺の居ない間に面白い話してなかっただろうなぁ?」
「いや、面白いのはお前だって」
私は皆に笑われた。
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数日後、寄宿舎の食堂。食べ終えて洗い場へ食器類を返却しに行ってた。そこで2年生に肩でぶつかられる。何だよ、私なにかしたっけ?
食堂を出たらそいつが居た。暗い所へ連れて行かれる。
「なぁ、殴られた時にどうすればいいか教えてやろうか?」
「はい、お願いします」
「息を吐いてなぁ、そう、全部吐き切ってなぁ」
左拳で腹を殴られる。
「先輩、喧嘩でそんな所殴る筈ないでしょう」
左袖、奥襟を掴んで制し、膝蹴りを腹へ。投げて仰向けにする。
「先輩、ここからどうするか教えてやろうか?」
「や、やめ・・・」
「ここに急所があってね、止めを刺すんですよ」
急所に当てていた拳を引いて軽く突く。
「先輩、死ぬところでしたよ。次からはお気を付けください」
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就寝時間中のことだ。部屋に入る2人。私のベッドへ近づき、1人が梯子を昇り、布団を捲る。
そこにあるのは抱き枕。本人は廊下から部屋に入って来る。
「シーっ! 皆寝てますよ。先輩方お静かに」
「キモいことしやがって!」
左腕で流して捌いて仰向けにして絞める。
「先輩、誰かに頼まれてやってるんですかぁ?」
緩めたり、絞めたりを繰り返してたら吐いてくれた。
「そっちの。君、2年後に死ぬ。なので見逃す。残りの人生、良い行いをして過ごしなさい」
2人は静かに出て行った。
道場で白帯の人に腹筋を突かせるというものがあった。師範代は「先輩の腹筋は鉄で出来ているから大丈夫です」とか仰ってた。
実際に突かせてみると、「先輩、拳が痛いです」とのこと。
私は正しい拳の握り方を後輩に教えました。