回転ジャングルジムを回す大人はわたしと早川さんしかいないのです
軽トラックに積まれて梱包されていたのは、いまは「危険」のレッテルを貼られ姿を消した回転式のジャングルジムでした。
梱包の段ボールは新品でしたが、そんな「危険」を新品で作るような会社はありませんから、梱包され中に入ってた回転ジャングルジムは、もちろん中古品です。あちこちの公園、小学校から暴され撤収されてきたヤツらから出来の良さそうなのを吟味して組み立ているのが、あちらこちら暴ついた塗料の破片の色合いや青錆のザラつき加減で分かります。
軽トラックに乗ってきた二人は、そんな吟味の跡など気にせずいつもの慣れた調子で担々と組み上げると、「せーの」の掛け声で地面に突き刺します。
それが元々の「かちり」刺さるために九日間、ほかの青い作業着の男たちは働きてきたのです。
それと分かるくらい、回転ジャングルジムはほぞ組する木材同士のように、ぐさりかちりと刺さりました。もう一度「せーの」の掛け声で、ふたりは冷たい鉄の格子を掴み右回りに旋回します。いい感じで回ったら、回転軸に力が溜まったら、足を宙ぶらりんにしてジャングルジムの回転に身体を任せます。大の男二人の遠心力が掛かった回転ジャングルジムは、いままでずっと此処から生えていたブナの木のように地面の下にも同じ大きさの丸みをもった根っこで安定を担保されてるように丸ぁるいかたちで廻っていきます。
二人の身体は、秋祭りの夜店に並んだ風車のように薄いプラスチック片のように外へ外へと回っていきます。
ハブの金属音は地面の下に繋がって重く鈍い音が聞こえてきます。
回転ジャングルジムの回転軸は、チベットのマニ車のように聞き取れない重苦しい呪文を唸らせ回っていきます。
「しっかり廻ってるな」を見届けると作業員のふたりは、「もう一度、もう一度」の高揚のないまま軽トラックに乗って帰ってしまいました。風車でない回転ジャングルジムは風が吹くくらいでは回ってはくれません。マニ車のようにそれを回そうとする意思がなければ回らないのです。
あんな楽しいものを、なんで一度回っただけで惜しげもなく帰れるんだろう
あの二人は仕事に来ただけ。いいつけられた己れの持分を終わらせに来ただけだ。風車の軽やかにな羽ばたきにもマニ車の祈りにも無縁の言いつけられた己れの持分を粉なすだけの後は年老いていくだけの大人でしかない。
九日間なにも材料を与えられず定められた儀式をこなすようにただただ己れの持分を粉なしていたあの男たちも後は年老いていくだけの大人だから粉なせるのだと分かりました。
裸の王様に出てくる仕立て屋のような狡猾な野望さえ持っていなかったのです。
すでに子どもの遊具ではなくなった回転ジャングルジムを回せる大人は私と早川さんしかいないのです。