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第1話 プロローグ

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肌寒さを感じ始めた10月,放課後,校舎裏,沈む夕日.二人の男女が向かい合っていた.

「先輩の顔が好きです付き合ってください」

黒髪のショートカットで端正な顔立ちをした,175センチはあるだろう高身長でスタイルの良い女生徒の桜井 綾香がそう言って頭を下げた.


それを受けて短髪で黒色の髪の目立つ特徴はない普通の男子生徒の柴田 信一は口を開けて固まっていた.彼は状況が呑み込めていなかった.想定外だった.いきなり接点がない,校内で有名な後輩から告白されたのだ.しばらく停止して,それから告白の内容を思い出して,理解した.


「嘘ですね.ドッキリですね.」

彼には,そう言うドッキリをしてくる可能性がある友人や同級生が何人か思い浮かんだ.ここまで,趣味が悪いことをしてくるとは彼も思っていなかったが,今の状況を説明するには,それ以外無かった.


「……告白で嘘をつく人間が何処にいるんですか?先輩」

後輩は,口をパクパクさせて固まっていた.


一瞬,本当かと思った柴田だったが,すぐに演技だと結論付けて

「えっと,何が好きなんでしたっけ?」

そう首を傾げた.


「顔ですよ.先輩.」


「嘘つき」

その後輩の言葉でこれがドッキリであることを彼は確信した.


「何がですか.むしろ私は正直者ですよ,先輩.酷いですね,私の勇気を無駄にするんですか?」


「いや,だってどんなに甘く見積もっても僕の顔は中の上,まあ,普通に考えたら中くらい,少なくとも顔だけで好かれるほどの見た目ではない.」

彼は,別にポジティブでもネガティブでもなかった.だから,自己評価もそれなりにちゃんとしていた.客観的に見て見た目だけで一目惚れされるほどの物では無かった.


「いや.違いますよ.先輩,好きな顔と美しい顔は違います.」

後輩も,暗に顔が普通であることには賛同していた.


その様子を見て柴田は確信した,だから誰が犯人か捜すことにした.

「……何部ですか?」


「あっ,先輩私に興味を持ってきましたか?陸上部です.」

後輩は,そう言って走るポーズを決めた.


柴田は,そんなポーズなど全く見ておらず,自分の記憶を呼び起こしていた.

(いないな,陸上部.)自分の友人に陸上部がいないことを把握したので違う繋がりで目の前の人がやってきたと考えて


「……何処中学校ですか?」

そう,無表情で尋ねた.


走るポーズを完全にスルーされて少し恥ずかしくなった後輩だった.ゆっくりとポーズを解除してから,数秒考えて状況を理解した.

「……先輩,誰かの仕込みを疑ってますか?違いますよ.乙女の真剣な思いを踏みにじるんですか?」


そう言って笑っていた.実際彼女の態度にも問題があった.彼女が本気なのか冗談なのか,彼女のことをよく知らない柴田には判断することが出来なかった.

「いや,おかしい.お前ら何処にいる.何処に隠れてる.」


柴田はそう言って叫ぶと辺りを見回してから,人が隠れてそうな場所を見て回った.


「誰もいませんよ.」

誰もいなかった.


「えっと,はぁ,マジか.」

柴田は理解した.これがドッキリでは無く本当の告白だと.


「やっと理解しましたか.先輩が自分で来たんですよ,校舎裏ですよ.ベタベタなので,気が付きそうじゃないですか.」


実際ベタな告白の状況だった,それに校舎裏に来たのも彼の意志だった.

「いや,だって下駄箱に果たし状みたいなのが下駄場に入ってたら.てっきり」


「果たし状じゃないですよ,先輩.逆に先輩は喧嘩なんかだと思って来たんですか?」


「だって,『放課後 校舎裏で待つ.』って死ぬほど達筆な字で,それに筆で書いてあったから.」

柴田は,なんか友人のいたずらか何かだろうと思っていたのだ.


「確かに,あれは失敗でした.仕切り直します.」


「えっと」


「……ともかく先輩,顔が好きです,付き合ってください.」

後輩は告白をもう一度した.今度は完全に理解している状況での告白である.後輩は勝利を確信していた.


「……いや,嫌ですけど.」

柴田は,そう言ってクビを横に振った.


後輩は,目を何度もパチパチさせてから,深呼吸をして,自分の腕を抓り,一度自分の頬を叩いて,痛みで少し悶えて.数秒してから,現実を受け止めた.

「何でですか?好きな人でもいるんですか?」


「……特にいないけど.」


「なら私で良いじゃないですか.自分でいうのもあれですけど,私結構,いえ,かなり可愛いですよ.スタイルも良いですよ.背は……大丈夫です,身長差が開かないようにヒールは履いたりしないので.」

彼女は自信があった.今までたくさん告白されてきた経験から自分の容姿に圧倒的な自信があった.今まで全員をフッてきた来た自分がフラれる側になるとは夢にも思っていなかったのだ.少し傲慢になっていた彼女の天狗の鼻は折れかけていた.だから,自尊心が折れないようにするために必死になった.


「……死んでも断る.」


「何でですか?先輩.」

後輩は目を見開き必死になっていた.既に告白の青春的な光景は消えていた.


「性格が無理だし,僕は性格重視なんだよ.えっと,ごめんなさい.」

柴田は,そう言って深く頭を下げて,その場から走って逃げた.


後輩はその場に崩れ落ちた.その時から,何かが始まった.

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