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まだ始まったばかり


「──貴様等雑魚どもは、このグラサイが相手してやる!どこからでもかかって来るがよい!」


 こちらを見る黒王族達に向かい、グラサイがそう叫んだ。

 すると、チラリとグラサイの方を見た一名の黒王族が、グラサイに向かってゆっくりと歩いていく。


「一匹だけか?なんなら全員相手してやってもよいのだぞ?」


 挑発するようにグラサイが言うも、彼の相手に名乗り出たのは1人の黒王族だけで、他の黒王族はそちらを見向きもしない。


「……そうか、残念だ。なればさっさと貴様を殺して次の奴に相手してもらおう!」


 グラサイが、のんびりとしたペースで歩み寄ってきた黒王族に向かって拳を振り上げ、そして振り下ろした。


 相手の黒王族の身体も、グラサイのように筋肉質でかつ背も大きくはあるけど、グラサイの方が倍近くある。対格差があるので、上から力のこもった攻撃をされると下の方が不利だ。

 でも、そんな不利もどこふく風で、黒王族が降りかかって来たグラサイの拳に自分の拳を振り上げると、2人の拳がぶつかりあって止まった。


「ぬうぅ!?」


 拳が止められると、グラサイの身体の一部から血が噴き出した。

 力と力がぶつかりあった事により、先の戦いで受けた傷が開いてそこから血が出ているようだ。

 決して力負けしている訳ではないけど、今の、手負いのグラサイにとっては強すぎる相手かもしれない。


「うううおおおぉぉぉ!」


 そんな私の心配をよそに、グラサイの拳が黒王族の拳を押し返すと、相手の拳が砕けて黒王族は慌てて身を引いた。


「軽い!貴様の拳は軽すぎる!やはり雑魚!引っ込んでいた方が良いのではないか!?ぐははははは!」


 グラサイは全身から血を出しながら、高笑いをしてみせた。

 いつも通りの調子なら、きっと血が出る事も無く余裕で勝つ事が出来ただろう。そうではないのが惜しい。


「──……」


 グラサイにバカにされて悔しかったのか、拳を砕かれた黒王族がもう片方の手を掲げると、そこに一本の黒い剣が姿を現した。

 どうやらその剣が彼の武器のようだ。ここからが本気の戦いという訳だ。

 だったら最初から武器を手にして戦えばよかったのに……グラサイとの力比べから戦いを始めるとか、格闘家か何かかとツッコミたくなってしまう。


「──……」

「──……」


 戦いを始めた2人をよそに、他の黒王族達が互いに目を合わせ、何かを話し合っている。ように見える。

 少しして話し合いが終わったのか、2人の黒王族が一歩前に出ると、私達に向かって歩み始めた。


「サリア様達の邪魔はさせません!」


 そこへ駆け付けたのは、サンちゃんだ。こちらへ向かい来る黒王族と私達の間に入ると、拳と大きなおっぱいを突き出して相手を挑発する。


「サンちゃん……!」


 彼女は災厄との戦いの中で、ハルエッキに襲い掛かってしまった事にショックを受けた様子だった。

 怪我は軽い擦り傷が出来た程度で、身体はほぼ万全だ。

 けど、再び仲間に襲い掛かってしまう事を恐れている様子で、後方に配備される事になっていたはず。それがこんな最前線にいて、少し驚いた。


「自分もいます!」


 続いて、ハルエッキも駆けつけてサンちゃんと並んで立った。


「二人とも、自分の持ち場はどうしたん?」

「魔物がいない今、自分達に出来るのはサリア様達の邪魔をする者を排除する事です。雑魚は自分達にお任せください」

「は、ハル君の言う通りっす!うちだって、やる時はやるっす!」


 サンちゃんは冷や汗をかき、ちょっと無理して頑張っている様子が伺える。

 怖いけど、でもやってこれたのはきっとハルエッキのおかげだと思う。愛の力がサンちゃんを励ましたのだ。

 なんて、ちょっと恥ずかしい事を思ったけど、きっとその通りなんだと思う。


 この2人は、将来絶対に結婚するね。


「──……」


 私達に向かって歩き出していた黒王族2人が、仕方ないと言った様子で立ちはだかった2人に向かって駆けだした。そして手にした剣を2人に向かって切り出すと、2人は回避しながら反撃を試み、攻撃を仕掛け合いながらその場から離れていく。


 3人の黒王族が私達の傍から離れると、残りの黒王族は6名となった。

 その6名の間を、何かが素早く通り抜けた。正確に言えば、通り抜けようとした。


 彼らの不意をついて攻撃を仕掛けたのは、グヴェイルだ。高速で地を駆け攻撃を仕掛けたものの、グヴェイルの接近に気付いた黒王族の剣によって簡単に攻撃を防がれてしまった。

 ならばと2本の短刀を振り回し、同時に見えるくらいの高速斬撃をいくつも繰り出す。


 しかし、その攻撃はグヴェイルの攻撃を止めた黒王族のたった一振りの斬撃により、全てをかき消された。

 横一閃に振り抜かれた黒王族の剣は、グヴェイルの胸のあたりも掠めたもののグヴェイルが咄嗟に一歩退いたことにより回避する事に成功。どうにか無傷ですんだ。


「……」

「ぐ、グヴェイル……!」


 しかしそこは敵のど真ん中だ。

 グヴェイルは黒王族達に包囲されてしまい、身動きがとれなくなってしまう。


 黒王族達の強さは、ここまでで少し分かった。1人1人が相当な実力の持ち主であり、災厄の欠片や魔物達を相手するのとでは訳が違う。

 そんな実力者達に包囲されたグヴェイルの身が危ない。


 しかし、私の心配をよそに黒王族達はグヴェイルに攻撃を仕掛けようとはしなかった。

 そしてグヴェイルの攻撃を受け止めた1人の黒王族が、適当な方向を指さしてからグヴェイルに背を向け、移動を開始した。

 どうやらグヴェイルに、ついてこいと言っているようだ。彼が望んでいるのは、グヴェイルとの一対一の戦いらしい。だから他の黒王族達は手を出さなかったのだ。


 まさかこんな展開になるとは思っていなかったグヴェイルは、驚き、警戒しつつもその黒王族について歩き出す。

 そして私達から少し離れた場所で、一対一の戦いを開始した。


 残った5名の黒王族達だけど、その内の3名は適当に歩き出すと、周囲の仲間達に襲い掛かり始めた。そちらは竜族やウルエラさん達に、エルフやガランド・ムーンの魔族達が対応する事になる。


 残りは、2名。だけどこの2名が私には、とても不気味に感じる。


 他の黒王族と比べ、手にした武器が特殊だ。片方は大きく長い槍を持って地面にたて、胸を張って威風堂々とした姿を見せている。もう一人は湾曲した片刃の剣と、盾をそれぞれの手に持って身を低くして構え、ずっと臨戦態勢をとっている。


「アレはただもんやない。……うちとランギヴェロンで、残りの黒王族を相手しよか。災厄はシズ達に任せてもええ?」

「は……はいっ」


 災厄の相手とは、重役だ。私達には荷が重すぎるかもしれない。でもサリアさんが信じて任せてくれているのだ。その期待に応えられるよう、頑張らなければいけない。


「む、無理ですよ、サリア様!ボク達だけではとてもではありませんが災厄の相手など務まりません!」

「貴様等だけではない。他に仲間はいくらでもいる。援護が必要なら訴えろ。弱気になるな。弱気は身を亡ぼすぞ」


 無茶を訴えるジルフォに対し、ランちゃんが静かに冷静にそう諭した。


「はっ。いいじゃねぇか!オレが相手してやるぜ、災厄!まだ胸に風穴開けてやるから覚悟しろよ!」

「……アレはボクの魔法のおかげだという事を忘れていませんか?貴女の真っすぐすぎる攻撃など、ボクがいなければ災厄には届きもしないのですよ。感謝してください」

「なんでもいい!とにかく災厄をぶっ殺すぞ!」

「まったく……仕方がありませんね……」


 無理とは言いつつも、協力して災厄の胸に風穴をあけた事が自信に繋がったのか、ジルフォもルレイちゃんに触発されて災厄を睨みつけた。


「うちらもなるべく早く合流するから、それまで頑張ってな。ほな、行こか」


 サリアさんがのんびりとした口調でそう言うと、黒王族の方へと向かって歩き出した。続いてランちゃんも歩き出し、2人で並んで歩いていく。

 その背を見送りつつ、私達は先にいる災厄を睨みつける。


 皆、強力な力を持った黒王族達を相手に頑張ってくれている。

 戦いが始まってから、どれくらいの時間が経過したのだろうか。とても長い間戦っている気がするけど……でも実際はまだ、ほんの少ししか戦っていないに違いない。

 戦いはまだ、始まったばかりである。


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