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血から生まれ出た者達


 ランちゃんはここまで、本気を出していなかった。

 それは本気で災厄とぶつかっても不死の力で災厄が蘇ってしまうからで、時間稼ぎに重点を置いていたからだ。


 でも今は違う。


 災厄は不死の力を失い、討伐が可能となっている。作戦としては、古代魔法と呼ばれる凄い力を蘇らせようとしているリズの到着を待つ体なんだけど、ランちゃんは災厄が不死の力を失ったと聞いてスイッチが入ってしまった。


 本気になったランちゃんが、全力で災厄を斬りつけた。

 災厄の殺戮にも匹敵するような物凄い衝撃を生み出した斬撃は、当たってもいないのに周囲の竜族達をも吹き飛ばす程の威力を持っている。

 でも私はその場に踏ん張り、ランちゃんの姿を一番近くで見続けている。


「シズ!」


 ランちゃんが私の名を呼んだ。


 ランちゃんのこの攻撃を受けても、災厄は死んだわけではない。胸に風穴が開き、身体は少し焦げて触手が何本かただれ、身体のあちこちが少しすり減った状態ではあるけど、平気で生きている。

 更には空から落ちてきながらランちゃんのすさまじい一撃を2本の刀で受け止めて、今はせめぎあっている。


 その隙をついて災厄を斬れと、ランちゃんが私に言っているのだ。


「はいっ……!」


 私は駆け出して、千切千鬼を鞘から抜くと災厄に向かって突進を仕掛ける。

 すさまじい衝撃波によって進みにくいものの、なんとか進む事は出来る。


 私は2人の下に辿り着くと、ランちゃんの攻撃を防ぐのに手一杯の災厄に向けて千切千鬼を振り抜いた。


「──……」


 その際に、災厄と目が合った。私に向かって何かを喋りかけているようにも見えるけど、無表情でよく分からない。


 しかし災厄は、そこで驚異的な踏ん張りを見せて来た。

 それまで両手で受けていたランちゃんの攻撃を片手にして、もう片方の手に握った刀で私の攻撃を受け止めて来たのだ。


「っ──!」


 とても強く、とても重い一撃によって私の刀が逆に押し込まれてしまう。更なる衝撃波がうまれ、私とランちゃんと災厄をとりまく周囲はもう滅茶苦茶だ。私も自分で生んだ衝撃で吹き飛ばされそうになる。

 それでも地面に足を踏ん張って、なんとか災厄の攻撃を受け止める事には成功する。


「はっ、あああぁぁぁぁ……!」


 声をあげ、私の全身全霊をもってしてその身体を刀ごと真っ二つにしてやろうと力をこめる。

 それでも、災厄のその一撃を押し返すには至らない。


「くっ……!」


 そこで、ランちゃんが苦し気な声をあげた。同時に災厄とせめぎあっていた剣がランちゃん側に押し返され、逆にランちゃんが攻撃を受けているかのような格好になってしまう。

 てっきりランちゃんの攻撃を受けて余裕がないものと思っていたけど、そうではなかったようだ。災厄にとって私達の攻撃は、片手でどうにかなる程度らしい。

 本気じゃなかったのは、ランちゃんだけではない。災厄もまだ、力を隠し持っている。

 先程私に向かって何かを語りかけて来た災厄は、そんなような事を言っていたのかもしれない。


 やがて私の腕からも力が抜け始め、最初よりも刀が進もうとする力が衰えて来てしまった。

 千切千鬼が少しずつ押し返されてきて、私も逆に攻撃を受けているかのような格好となってしまった。


 このままでは、ランちゃんも私も競り負けて斬られてしまう。


「──失礼するで、シズ」


 その時だった。私の影の中から出て来たサリアさんが、千切千鬼の背を見えない何かで殴り飛ばして来て、それで一気に刀が災厄の攻撃を押し返した。


「っ!」


 私も残っていた全ての力を振り絞ると、災厄の刀に少しだけヒビが入った。そうなればあとはもう脆くて、次の瞬間、災厄が手にしていた刀が真っ二つに折れた。

 私の攻撃を防いでいた壁を超えると、千切千鬼は災厄の胸の部分に向かって振り抜かれ、災厄の身体が胸から上と、胸から下の真っ二つに分断された。


 災厄の胸から上が、くるくると宙を舞いながら飛んでいく。その場に残った下の方は、その場に倒れて動かなくなった。


「はぁ、はぁ!」


 全力を出しすぎたせいで、息が激しい。

 でも目は災厄を負っていて、油断はしていない。


「倒したのか……!?」


 大人になったランちゃんが、災厄を見つめながら誰とでもなくそう尋ねた。

 私としても、今回の攻撃は手応えがある。現に災厄は真っ二つになっており、不死の力を持っていないのだとしたら、生物なら確実に死ぬような状態だ。


『まだだよ、シズ。それくらいじゃあ、この世界を滅ぼそうとするこの化け物は死にはしない』


 頭の中に、クシレンの声が響いてきた。


 私も分かってはいた。前に戦った時も、同じように勘が働いてそう感じる事があったけど、今回も同じだ。


 その時、宙を舞っていた災厄の身体の断面から、黒い血が飛び出した。飛び出した血が大地に触れると、その場が真っ黒に腐って酷い臭気が漂う事になる。

 その真っ黒に腐った場所から、人の手が飛び出してきた。手は地面を掴み取ると、血の中から直角の角の生えた顔を出し、身体を出し、足を出す。


 災厄と同じ、無表情な黒い顔。頭に生えた黒い角と、全体的に色の薄い黒い身体以外は人と同じだ。服も着ているんだけど、やはり身体と同じように色は薄く、黒色だ。体つきは男のように見える。手には一本の長い剣が握られていて、その剣をウォーミングアップでもするかのように振り回している。

 出て来たのは一体だけではない。飛んで行った方の災厄から溢れる血からも、私の足元にある胸から下からも血が溢れていて、そこから続々と人が溢れ出て来る。


 出て来た人は皆、剣や槍に、盾等の武器を構えている。


「なんだ、この不気味な連中は……!」

「は、離れて、ください!」


 私はランちゃんとサリアさんと共に、足元から出て来た黒い人から一旦距離を取る事にした。


 少し離れて事態を眺めていると、出て来た中の一体が特異な行動をとった。

 地面に転がった災厄の胸上の方へと歩み寄ると、その身体を持ち上げてから自分の身体に被せるようにして装着し、飲み込まれ、1つとなったのだ。災厄を装着した黒い人は体格が変わっていき、先程まで私達が戦っていた災厄と同じ姿となった。


「──……」


『災厄の中に眠る、黒王族の戦士達の魂が具現化した物だよ。肉体は失ったけど、災厄の血を借りる事によってこの世に蘇った。君達が魔物や災厄の欠片と呼ぶ物も、災厄の血を借りて作られた物だけど、それと彼等は違う。あちらも黒王族の魂が入っているには違いないけど、ただの怨念の塊のようなもので力は弱い。対して彼等は、その昔実在した黒王族の戦士が、当時の肉体の形を取り戻して蘇った、本物の黒王族だ。紛い物の災厄の欠片とは訳が違う。生きていた頃と同じように動けるし、戦えて、血を欲している。災厄の中には数万の黒王族の戦士の魂がいて、自分の番を待っているんだよ』

「数万……!」

『とはいえ、不死を失った今災厄の血は有限だ。実際に出せるのはあと数百……いや、数千くらいかな』


 随分とアバウトだ。数百と数千ではまるで数が違う。


『ボクだって、災厄という化け物の中で眠る一個人に過ぎないんだ。全てが分かる訳じゃないんだよ。そんな事よりも、戦いと血に飢えた彼等は、当然君達の血を求めて襲い掛かる。殺されないように気を付けるんだ』


 彼らがどれ程の力を持っているか知らないけど、黒王族と呼ばれる種族ならきっと強いのだろう。私だって、角を手に入れただけで人並外れた力を手に入れる事になったのだから。


 というか不死の力を失ったというのに、真っ二つになっても復活するとか反則じゃないか。


『真っ二つになったくらいじゃ、災厄は死なないよ。それで殺したと思う方が間違っている。災厄を殺したかったら、跡形もなく、災厄のその全てを消し飛ばさないとね。丁度、先の戦いでやってみせたみたいにだよ。でも災厄も自分から不死の力が失われた事を理解しているから、前みたいに簡単にはやらせてくれないだろう』


 クシレンがこちらを見て何かを喋った災厄の言葉を翻訳してくれて、更には親切にもこんな事も教えてくれた。

 でもそういう事は、戦いが始まる前に教えておいてもらい。災厄に対し、全力で一刀両断したって倒したりは出来ないという事だ。余計な力を使ってしまった。


「どうなってんだ、シズ!こいつら、一体なんだ!?」


 ルレイちゃんが、慌てた様子で私に尋ねて来た。

 他の皆も、私の答えを期待してこちらに注目している。


「き、気を付けて!アレは黒王族で、敵です!災厄は、真っ二つになったくらいじゃ倒せなくて……全部ぐちゃぐちゃにして消し飛ばさないと、倒せないみたいです!」

「黒王族!?アレ全部、シズと同じ黒王族だって言うのかよ!?てことはもう化け物じゃねぇか!勝てんのか!?」

「全部ぐちゃぐちゃにしろとか、無茶を言うねー……。出来る訳がない。もう帰りたくなってきたよ」


 ルレイちゃんと、その影の中から姿を現したジルフォから、文句が溢れた。

 私に言われても困る。


「行けると思ったんやけどねぇ……。やっぱり災厄は一筋縄にはいかんわぁ。な、ランギヴェロン」

「……仕方あるまい。ならば、全部ぐちゃぐちゃにして消し飛ばせば良いまでだ」

「せやけど、ちょーっと厄介そうな連中やなぁ」


 サリアさんが見ながら言ったのは、復活し、武器を手にした黒王族達だ。彼等は皆やる気に漲っており、クシレンの言う通りなら戦いに飢えている。

 その中には災厄もいる。

 災厄の欠片や魔物はいなくなったけど、代わりにもっと厄介そうなものが生まれ出てしまった。


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