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本気モード


 ようやく災厄の所へと到達した所だけど、その時、空を覆う光に変化が表れた。

 赤く不気味に輝く光は、災厄の殺戮が始まろうとしている事を意味する。となると後方にいる皆の事が心配だ。

 魔物は依然として湧き続けているけど、対処しながらも災厄の殺戮の範囲外に出る必要がある。それはとても難しい事だ。


 しかし私が心配する事は全くなくて、ふと気づけばその光景は広がっていた。

 いつの間にか、大勢の武装した兵士達が災厄を取り囲むように配置されていた。彼らはまだ配置途中なので、慌ただしく動いている。私達の後方から追いついてきた人間の兵士や、エルフ族やガランド・ムーンの魔族達が、災厄を包囲するために円形の陣を作ろうとしている。


 包囲網はどんどん伸びていき、やがて災厄を囲んで円が出来上がった。円を作る人々は、外側に配置された人は外を向き、内側は災厄の方を向いている。外側の人達が未だに襲い来る魔物達に対処し、内側は災厄に対する攻撃の支援が仕事だ。


「配置完了した!私達が魔物を食い止める!その間、時間稼ぎは頼んだぞ!」


 馬に乗ったウルエラさんが、剣を掲げながら私達に向かってそう声を掛けて来た。


 直後に、空から赤い光が降り注いできた。赤い光はやがて、地面に接する前に大きな光となって膨れ上がり、大地を破壊しつくしていく。

 でもその光の中に私達の仲間はいない。いるのは魔物や、災厄の欠片だけで、その全てを飲み込んで跡形もなく破壊していく。


「……」


 私はその瞬間に、黒王族から不死を奪うように心の中で祈った。


 たぶんだけど、今そう願えば災厄の欠片たちがもう蘇らない気がする。元々は災厄の一部である災厄の欠片も、その大本である黒王族から不死の力を奪えば、核をどうにかするまでもなく復活出来なくなるはず。

 頭で考えるよりなにより、私の頭の中でそう確定している。黒王族の王様になったおかげで、そういう勘というか、種としての本能みたいなものが備わったのだろうか。


 なんにしても、災厄の欠片や魔物さえ生まれなければ、あとは本当に災厄に集中するだけとなる。少しだけ、負担を減らす事が出来るはずだ。


『黒王族から不死の力を奪えば、当然君も不死ではなくなる。本当の戦いはこれからだというのに、不死の力を失った君にこの先降りかかる死は、すなわち本物の死となる。本当に今でいいの?』


 願うと、そんな声が頭の中に響いてきた。この声は、クシレンの声だ。


 声の出所を探して周囲を見渡すと、災厄がこちらを見ていた。

 竜が放つ炎に巻き込まれながら、平然とした表情でそこにいる。


「……構いません」


 今じゃないと、魔物によって更に多くの死者が出てしまう。これ以上の犠牲を増やさないためにも、魔物や災厄の欠片が一気に消え去った今が、一番いいタイミングだと私は思う。

 私はもうここまで辿り着けたし、これ以上先の不死は、もう必要ない。あとは普通の人間だった頃のように、普通に死なないようにするだけだ。

 人生のほとんどはそうして生きて来たのだから、大丈夫。


『……分かったよ。好きにするといい。ただ死なずに災厄を倒してさえくれれば、それでいい。君に課せられた役目を、必ず果たすんだ』

「はい」


 言われるまでもない。


 私は、リズと共にこの世界から災厄を消し去る。そのためにここにいるんだから。


 クシレンに即答したすぐ後、大きな風が吹き抜けた。

 それはただの風ではない。私や災厄から不死の力を奪い、風に乗せてどこかへ運んでいく。


 今この瞬間、私達黒王族から不死の力が失われた。


「おっしゃいくぜぇ!」

「……」


 周囲の光景を見て触発されたのか、ルレイちゃんが駆け出して災厄へと向かっていく。

 ジルフォもその後に続いて駆け出した。


 一方で、サリアさんとグラサイが先に災厄と接触した。グラサイの突進攻撃から始まり、それをかわしてみせた災厄に対し、グラサイの影から飛び出したサリアさんが見えない手で殴りかかって一撃を見舞った。

 でもその攻撃も災厄には見えているのか、片手に握った刀によって受け止められ、その上でもう片方の手に持った刀で反撃を受ける事になってしまう。


 その攻撃は、グラサイが災厄に向かって突進を繰り出す事によって防がれた。災厄は突進を受けて少し体が浮いて飛びかけたけど、すぐに踏ん張って立ち止まると、グラサイの頭に向かって刀を振り下ろした。


 次はサリアさんが見えない手で何かをしたのか、不自然に空中で止まってせめぎあう。だけどサリアさんは押され気味で、刀は徐々にサリアさんに向かって進んでいる。


「グラサイ!もうええ、一旦引くで!」

「はっ!」


 サリアさんの合図で、グラサイが災厄から手を引いて距離を取った。

 サリアさんも影の中へと身を隠し、2人の攻撃はそこで一旦止んだ。


 直後に空から竜族が降り注ぎ、災厄に炎を吐いたり、直接爪や牙で攻撃しにかかる。

 災厄はその攻撃に対処しなくてはいけなくなり、2人の追撃は不可能となった。


 私達の目的は、あくまで時間稼ぎだ。勿論倒しても良いけど、無理はしない。


『シズ』


 そこへ、空から竜の姿のランちゃんが下りて来て、人の姿に変わりながら私の方へと駆け寄って来た。


「やはり災厄は強い。我ら竜族の戦士達の攻撃をもろともせんとは、想像以上だ」

「だ、大丈夫、です。今災厄から、不死の力を奪いました。だから、たぶんもう災厄の欠片は復活しません。災厄に集中出来るから、少し楽になるかと……」

「不死を?良いのか?今このタイミングで災厄から不死を奪うという事は、貴様も不死でなくなるという事だ。貴様は戦いの要……貴様が死ねば、我等は総崩れとなるぞ」


 それはちょっと言いすぎな気がする。私がいなくとも、周りには凄い人たちがたくさんいるのだから。私がいなくとも皆でなんとかしてくれるはずだ。そう信じている。


 とはいえ、死ぬつもりはないけども。


「私は、リズが来てくれるまで絶対に死にません。災厄をこの先には行かせもしません」

「ふ……ふはは!不死の力を失っても、絶対に死なんというか!さすがだな、シズ!しかしだな、奴から不死を奪ったという事は、奴は今殺せば死ぬ状態にあるという事だ!ならばこの我が殺してしまっても構わぬな?」

「は、はいっ」


 凄みながら笑うランちゃんを見て、私は鳥肌がたった。

 この人は本気だ。本気で災厄を倒すつもりでそう発言している。

 そしてここまで本気を出していなかった事も伝わって来た。どうやら相手が不死という事で、力を押さえていたようだ。

 今この瞬間に、ランちゃんの目的は時間稼ぎから討伐へと変わった。


「──おらああぁぁぁ!死にたくなけりゃ避けろよ、竜ども!」


 そこへ、災厄を射程圏内に捉えたルレイちゃんが、弓を構えて矢を放った。

 風をまとった緑色に光る矢は、大きな風を巻き起こしながら災厄へと向かっていく。

 災厄に群がっていた竜達が、ルレイちゃんの警告を受けて一斉に退いた。

 矢は真っすぐに災厄へと向かっていき、その矢に気付いた災厄は両手に持った刀を振り上げた。


「ゼシアミラージュ」


 ルレイちゃんの後ろに続いていたジルフォがそう呟くと、ルレイちゃんが放った矢の軌道が変わった。まるで空間がねじ曲がったかのようにぐにゃりと曲がると、隙だらけとなった災厄の背後に回り込んで襲い掛かる。


 矢は、完全に災厄の隙をついた。刀を振り上げた災厄はなすすべなく背中から矢によって体を貫かれ、同時に発生した激しい風によって体が浮き上がり、激しくぐるぐると回りながら空高く舞い上がった。


 舞い上がった災厄に対し、空を自由に飛べる竜達が攻撃をしかけた。噛み付き、尻尾で殴り飛ばし、炎で焼き払い、そんな激しい攻撃を受けた上で私達がいる方の地上へと落下してくる。


 その落下地点ではランちゃんが金色に輝く剣を手にして構えると、その身体に変化が表れた。ランちゃんの身体が金色に輝くと、その身体が成長して大きくなっていく。今までは幼げな少女だったその姿が、あっという間に大人の女性へと成長した。服のサイズも同時に大きくなり、背は私を凌いでしまった。更に額に生えた角も少し大きくなっている気がする。尻尾も、普段の人の姿の時よりも大きいようだ。

 見た目としては、手足がスラリと伸びたキレイな女性だ。体型も全体的にスラリとしていて、凹凸の少ないモデル体型の女性がそこにいる。

 どうやらコレが、ランちゃんの本気モードの姿らしい。


「死ね。災厄」


 大人になったランちゃんが、静かに呟きながら降って来た災厄に向かって剣を振り抜いた。

 その瞬間、もの凄い衝撃で大地が揺れ、地面が割れ、風が巻き起こって通り抜けた。


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