活躍した方が強い
そこでは災厄と、竜族との戦いが繰り広げられていた。
竜族の中には人サイズの姿になっている人もいて、剣や槍などの武器を手に災厄に向かって攻撃を仕掛けている。空からは竜が炎を吐きながら降り注ぎ、災厄を焼き払おうとしている。
その火は周囲に燃え広がり、その場は灼熱の炎に包まれる事になっている。
災厄は最初見た時の首だけの姿だけではなく、普通の人よりもちょっとだけ背の高い、人の姿で皆と戦っていた。相変わらず頭に触手を生やし、手には2本の刀を持っている。
戦いは……やはり圧倒的だ。災厄はこれだけ大勢の竜族の攻撃をもろともせず、全ての攻撃を受け止め、受け流し、竜族を切り捨てていっている。
「コレが、災厄……!」
その戦いぶりを見て、ジルフォが唾を飲み込みながら冷や汗を流し、呟いた。
災厄に竜族達の槍が四方から襲い掛かる。
その槍を、災厄は手にした刀で切り捨てて、槍そのものを短くしてしまう。その上で槍の持ち主にも斬撃を加え、トドメに首を飛ばした。
それをほぼ同時に4人分繰り出している。
更には上空から炎を吐きながら災厄に噛み付こうとした竜に向かって刀を一振りすると、斬撃が生まれた。斬撃は炎ごと切り裂き、その先にいた竜の身体を縦に切り裂いて真っ二つにしながら通り抜けた。
更に、今度は地を蹴った災厄が姿を消した。すると、一瞬にして自分に襲い掛かろうと準備をしていた人の姿の竜族の背後に回り込んでいて、竜族の人を刀で5つ程に分解してみせた。
すぐに傍にいた別の竜族が斬りかかるも、その剣を刀でいとも簡単に受け止めると、睨んで反撃する準備に取り掛かる。
「調子にのるな、この化け物があああぁぁぁ!」
しかしその攻撃は、小さな女の子の姿のランちゃんの攻撃によって、阻止された。
ランちゃんの手には、金色のちょっと歪な形の剣が握られている。剣というより、石か何かを割って、削り出し、片方を研いだような感じで、でも見た目的には石でも鉄でもないように見える。
そこで思いついたのは、ランちゃんが竜の姿の時の身体についた、金色の鱗だ。たぶんアレは自分の鱗を加工したものなのだと思う。
その剣を手に、ランちゃんが仲間の竜族の男に襲い掛かろうとした災厄の背後から、斬りかかった。
しかし災厄は素早く振り返ると、その攻撃を1本の刀で受け止め、瞬間衝撃波が周囲に広がった。衝撃波によって、周囲を燃やしていた炎が一瞬小さくなって消えかけ、再び遠慮がちに燃え出した。中にはそのまま消えてしまった炎もある。
「っ……!」
そんな衝撃波を生むほどの攻撃を、災厄は片手で受け止めた。攻撃を繰り出したランちゃんは悔し気に睨みつけると、災厄のもう片方の手に握られている刀で反撃される事を恐れたのか、すぐに飛び退いて距離をとった。
『くらうが良い……!』
そこへ上空から滑空してきた竜の姿のユリちゃんが、災厄に突っ込んで体当たりを繰り出した。
しかし災厄はユリちゃんの体当たりを刀で受け止めると、少しだけ地面を滑っただけで止め切ってしまった。
竜の姿のユリちゃんは、言うまでもなく巨体でかなり重いはず。それが上空から勢いよく降って来たものを片手で受け止めて止めてしまうとは、いったいどれだけ力持ちなのだとツッコミたくなってしまう。
ユリちゃんも、止められて驚いたようだけど、すぐに攻撃を諦めて災厄と距離をとった。
ジルフォは災厄を間近に見るのは初めてのはず。
災厄と戦い、災厄がどういう物かを知っている私とルレイちゃんは、やっぱりなという感じで驚きはしない。
「すさまじい攻撃!さすが竜族と、その王だ……!」
「ランギヴェロン達竜族の攻撃、相当なもんやなぁ。しかしそれをもろともせん災厄、やっぱり厄介やねぇ」
グラサイとサリアさん達もやってきて、その戦いぶりを目の当たりをしたものの、やはり驚きはしていない。
「や、やはりアレを倒すには古代魔法が必要なのでは?無理して戦えば、今見たように我々の誰かが殺されるだけでしょう。それこそ、無駄死にです」
ジルフォは、竜族の激しい攻撃をもろともしない災厄を見て、ちょっとビビっているようだ。
ここまで来て急に情けない事を言い出した。
「何言うとるんや、ジルフォ。うちらは最初から、倒すつもりなんかない。時間稼ぎだけできればええって言うとるやろ」
「時間稼ぎも無理だと言っているのです!あの攻撃を受けてもろともしない化け物ですよ!?貴方達もそう思うでしょう!?」
と、ジルフォが私達に訴えかけてくる。
「臆したか?ならば一人で逃げるが良い。あとはオレ達でやり遂げて見せる」
「オレ達の夢は、この世界から災厄を消し去る事だ。ここで逃げたら夢は二度と叶わねぇ。無理とかじゃねぇ。やるしかねぇんだよ。あんたもその覚悟をもってここに来たんじゃねぇのか?違うならグラサイの言う通り、さっさと逃げろ。いても邪魔だ」
災厄を見て怯えだしたジルフォに対し、グラサイとルレイちゃんが辛辣に言い放った。
でもその通りで、怖いならいられても邪魔になるだけである。さっさと帰って欲しい。
「……う、うるさい!やりますよ!この、エルフ族最強のジルフォが、災厄をここで食い止めて見せます!」
「エルフ族、最強?」
「し、失礼。二番目でした……」
自分を鼓舞するために最強だなんて言ったんだろうけど、サリアさんに聞き返されて慌てて訂正した。
「さ、お喋りはこれくらいにして、うちらも災厄と戦うでー」
などとのんびりな口調でサリアさんが言った、その時だった。
数体の竜族の目がこちらを向いて、私達に対して敵意をむき出しにしてこちらに突っ込んで来る。その竜族達は竜の姿をしていて、どうやら正気を失っているようだ。
「……やめて」
私は皆の前に立つと、静かにそう言い放った。
すると、正気に戻った竜族が慌てて方向転換し、私達への攻撃を取りやめた。
上手くいった。前もだけど、災厄に操られた人は私の声に応え、正気を取り戻してくれる。
災厄に触れる前におかしくなってしまった人は、竜族の咆哮によって正気を取り戻せるし、災厄に触れて入り込んで来た声に対しては私が正気を取り戻させる事が出来る。
そこは、前回よりも完璧だ。
「万一オレが操られた時も、頼むぞシズ!うおおおおぉぉぉぉ!」
グラサイが、叫びながら災厄へと向けて突進を開始した。猛牛の如く、頭にはえた角を災厄に向けて遠ざかっていく。
しつこいようだけど、私達は災厄と戦うのはコレで二度目だ。前回はこっぴどくやられて、負けた。その時の傷が皆まだ癒えておらず、特にグラサイは全身包帯だらけなのに、あまりにもいつも通りに元気で、今回もまた猛然と災厄へ向かって突っ込んでいく。
ジルフォ程とは言わないまでも、もうちょっと怖がっても良いんだよと声を掛けたくなってしまう。
「うちもグラサイについてくから、そっちもよろしくなー」
「おう!」
「は、はい」
サリアさんはそう言うと、私の影の中へと沈んでその姿を消した。
「オレ達も行くぞ!ジルフォは怖かったらついてこなくてもいいからな」
「い、行くと言っているでしょう!一応言っておきますが、ボクは貴女よりも強いですからね!?」
「あぁーん?オレの方が強いに決まってんだろ。お前は気づいてないかもしれねぇけど、今じゃエルフ族二位の座はオレだ」
「ボクです」
「オレだ」
まだ、睨み合いが始まってしまった……。
いつもの負けず嫌いのルレイちゃんと、それに乗っかって言い合いを始めるジルフォも、まるで子供だ。
「じゃ、じゃあ、災厄と戦って活躍した方が強いという事で……」
「はっ。いいじゃねぇか、それ。聞いたな、ジルフォ!」
「い、いいでしょう。このボクがルレイごときより弱い事など、あるはずがない事を証明してあげますよ」
ルレイちゃんは乗り気で、ジルフォは若干強がりのように聞こえる。やはり、災厄と戦う事をちょっと怖がっているようだ。
でも逃げる気はないようなので、その実力を見せてもらおうと思う。サリアさん相手に泣きべそかきながら逃げ回っていたジルフォがどれ程強いのか、楽しみだ。