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遅いご到着


 災厄と戦うと決めた私達だけど、それはそれで問題点がある。

 私達の戦力は、最初の3分の2程。3分の1は、死んでしまったか大怪我を負って動けない人達だ。本来なら片腕を失ったサリアさんも3分の1に含まれる程の怪我をしている。

 再起したサリアさんには、後方で皆の指示をしてくれれば良いかなと思っていたんだけど……本人は凄くやる気で、前線で再び災厄と対峙するつもりだ。それを止められる人はいない。


 減ってしまった戦力を補う方法はない。


「戦力を補充するにしても、私達は一度、災厄と戦って負けました。負けてこれだけの人数が死なずに済んだのは不幸中の幸いとも言えますが……新たに戦力を募集するにしても、一度負けた私達についてきてくれる方は、もういないでしょう」

「噂っちゅうのは、風みたいにあっという間に広まるからなぁ。うちも、これ以上仲間を集める自信はないわ。むしろ、こんな事になっても付いて来てくれる皆がいるだけで感謝やね」


 イデルスキーさんの家の中では、今後についての詳細が話し合われている。

 話し合いは主に、サリアさんとリズが中心だ。私やルレイちゃんに、ランギヴェロンとユリエスティもこの場にいて、2人の話し合いを見守っている。


「ふ。何を言っている。ここには竜族の王たる我がいるのだぞ?」

「は、母上。まさか竜族の戦士たちを……?」

「我が参加する事となった今、戦士たちを呼ばない理由はない。竜族の総戦力をもって、貴様等に協力してやる」

「は、母上!ありがとうございます!母上はやはり、妾の誇りじゃ!」

「う、ううむ!しかしそうくっつくでない。我の娘であるなら、常に冷静にしとやかにいろ」

「はい!失礼したのじゃ」

「……」


 ユリエスティに抱き着かれて嬉しいはずのランギヴェロンだったけど、自分の拒否の言葉におとなしく従ったユリエスティに、残念そうにしている。

 一瞬にして顔が暗くなり、この世の終わりみたいだ。


 私はその様子を見て、これからランギヴェロンの事はランちゃんと呼ばせてもらおうと思った。


「ら、ランギヴェロンの事は、これからランちゃんって呼んでもいいです、か……?」

「ら、ラン、ちゃん……だと?我の事を……?」

「さすがに無礼だぞ、シズ!は、母上の怒りを買うつもりか!?」


 私の申し出に、ユリエスティが慌てて間に入り、ランギヴェロンから私を庇うようにしてしかりつけて来た。


「良いんじゃないですか?ランギヴェロン様にはピッタリだと思います。ついでに、ユリエスティ様の事もユリちゃんと呼ばせていただいたらどうでしょうか。私はラン様と、ユリ様とお呼びさせていただきますので」

「り、リズリーシャまで……!」

「ら、ランちゃん……この我が……そ、そのように可愛らしい名で……?」

「あ、嫌なら別に……」

「ま、まぁ良い。特別に許可してやろう」

「良いのですか!?」


 許可したランギヴェロン改め、ランちゃんにユリちゃんが驚いている。

 自分で言うのもなんだけど、まさか許可してくれるとは思っていなかった。でも反応を見る限り、可愛い呼び名をちょっと気に入ってくれている気がする。


「竜族の戦士が駆けつけてくれるなら、戦力の方は心配なさそうやね。それはいつ呼べるん?」

「我が咆哮すれば、すぐに駆け付けるだろう」

「ランギヴェロンにも、頼もしい仲間がおるんやね」

「……うむ。サリア達にも負けず劣らずだ」


 サリアさんにランギヴェロンと呼びすてにされ、一瞬驚いたランちゃんだけどすぐにニヤリと笑い、そう返した。

 この2人も、互いの事を仲間と認め合った瞬間かもしれない。


「サリア様、大変です!お外へ急いでください!」


 そこへ、外からグラサイの慌てた声が聞こえて来た。

 ちなみにグラサイは家の中に入れないくらいデカイので、話し合いからは除外されている。ちょっとかわいそうだけど、仕方がない。さすがに人の家を壊す訳にもいかないし。


「騒がしいなぁ」


 そう言いつつ、サリアさんがゆっくりと席から立ち上がると、皆で家の外へと出た。


「あちらを……」


 外でグラサイが指さした方向には、こちらに向かってくる軍団の姿がある。目をこらしてよくみると、ルレイちゃんやサリアさんと同じ、耳が長くて金髪の集団がこちらに向かって前進してきている。


「エルフ、か。随分と遅いご到着やね」


 その軍団を見て、サリアさんは嫌味っぽく呟いた。

 本来ならエルフは、前の戦いで一緒に戦うはずだった。でも彼らは戦いに姿を現さず、とうとう私達だけで災厄と戦う事になってしまった。

 あの状況では一緒に戦っても、結局は無駄に戦力を消費する事になっていたかもしれない。だけど、一緒に戦ってくれるはずだったのに戦いに来てくれなかったという事実は消えない。


「今更災厄と戦いに来たのでしょうか。戦力の増加はありがたい事ですが、遅れた理由が気になりますね」

「災厄に臆した腰抜けか、あるいは他に理由があって遅れたか……気になる所やね」


 訪れたエルフの軍団を見た私達は、皆侮蔑の表情を浮かべていている。どうやら皆の中で、彼らの評価は戦いから逃げた腰抜けで決定しているらしい。

 私の中でも若干そういう事になっている。


「……あ、え?」


 しかし私がじっと見つめているエルフの軍団の先頭集団の中に、見知った顔がいる事に気が付いて私は声をあげた。

 赤髪をポニーテールにまとめあげ、馬に跨る凛々しい姿。間違いない。アレはウルエラさんだ。


「どうかしましたか、シズ?」

「う、ウルエラさんが、います」

「ウルエラさんが!?」


 私の報告に、リズは驚きの声をあげた。


「誰なんだ、それ?」

「私の家に仕えていてくれた、従者の方です。ちょ、ちょっと待ってください。ウルエラさんがいるという事は、まさか母上も……!?」

「えーと……とりあえず、見当たりませんけど……」


 ウルエラさんの後ろに、ちょっとだけ豪華めの馬車が続いている。その中に入っている可能性は十分ありそうで、私は言葉を濁した。

 よく見れば、人間はウルエラさんだけではない。他にも武装した人間がエルフに混じっており、その数は半々といった所か。


「なんやろね、この状況。本来エルフと人間は相まみえる事のない存在のはずやけど」


 人間が混じっている事に、サリアさんも気が付いたようだ。


「それをオレらが言うと、説得力がねぇな」

「うちらはええやろ。順序をふまえて互いを仲間と認め合った仲やし。でもあっちはちゃう。うちがいないエルフの中に、人間と交じり合う道を選ぶような度量のあるもんはおらん」

「ま、確かにそうだな」

「何が連中を動かしたのか、気になるなぁ」

「なんにせよ、奴らの腹積もりを聞かないといけねぇな。まず第一に聞かないといけねぇのは、どうして戦いに遅れたか、だ」

「我は腰抜けは好かん。奴らが腑抜けた理由で戦いに遅れたというなら、焼き払うぞ」

「おーいいねぇ。やっちまってくれ!」

「冗談言ってないで、迎え入れる準備をしましょう」


 リズはそう言うけど、ルレイちゃんとランちゃんは本気だった気がする。


「皆、道を開けてあげてなー」


 サリアさんがそう指示をすると、このイデルスキーさんの家までの道が開かれた。

 その道を、ウルエラさんと豪華な馬車、それにエルフの男が数名馬に乗ったまま通って私達の下へとやってきた。


「お嬢様!」

「ウルエラさん!」


 互いの姿を確認したリズとウルエラさんが、互いに駆け付けて熱い抱擁をかわした。

 美しい光景ではあるのだけど、私としてはちょっと複雑。もしかしてコレが、嫉妬心というやつなのだろうか。


「シズさんも!久しぶりだな!」


 そんな私の嫉妬心を吹き飛ばすかのように、リズを手放したウルエラさんが今度は私に抱き着いてきた。力強く、暖かい抱擁だ。

 残念ながら体の感触は、彼女が着込んでいる鎧のせいでよく分からない。


「──本当に、お久しぶりですね。二人とも少したくましくなった気がします」


 そう言いながら、ウルエラさんの後に続いていた馬車から銀髪の美しい女性が下りて来た。

 白銀のドレス姿で、大胆に開いている胸と背中は、谷間と白い肌を強調している。相変わらず色香が凄い。リズも将来、こんな風に色気で溢れる女性になるのだろうか。


「母上……!」


 その姿を見たリズが、輝く笑顔になった。


 対するメルリーシャさんも、まるで女神のように微笑んで娘であるリズを見返すと、両手を開いて来るように促した。

 その前から駆け出していたリズは、メルリーシャさんの胸の中へと飛び込んでウルエラさんとしたのと同じように、熱い抱擁をかわす。あちらはたぶん、ダイレクトに胸の感触を楽しめるはずだ。ちょっと羨ましい。


「アレがリズリーシャのかーちゃんか……サリアばーちゃんに負けず劣らずだな」


 別に対抗している訳ではないだろうけど、確かに溢れる色香的に2人は似ているかもしれない。


「こっちも、久しぶりやね、フォーミュラ」

「ふんっ……久しいな、姉上」


 サリアさんが久しぶりと挨拶し、サリアさんを姉と呼び返したのはウルエラさん達と一緒に私達の下へとやって来たエルフの男達の一人だ。

 エルフは皆金髪なんだけど、この男ももれなく金髪だ。美しく流れるようなサラサラの金髪を、赤色の紐で結んでいる。顔立ちはやや女性寄りで中性的なんだけど、肩幅は広く胸も厚く、声も低いので完全な男である。キレイな顔で騙される所だった。

 サリアさんに対し、やや反抗的な態度で挨拶を交わした男は、サリアさんと抱擁などはしない。むしろなんか嫌な感じである。


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