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眠れない夜


 その日の夜、私は眠れなくて真っ暗闇の平原の向こうにある、災厄の森を見つめていた。

 風はおだやかで、気温も丁度良くて心地良い。空を見上げればやっぱりたくさんの星が輝いていてキレイで、月も相変わらず4つある。

 この世界に来て、色々な物を手に入れる事が出来た私だけど、ここにきて初めて大切な物を失った。

 村長さんは本当に優しくて、時に厳しくて……私はいつの間にかそんな村長さんをなくてはならい物のように認識していたみたいで、喪失感はあまりにも大きすぎる。

 他の、ガランド・ムーンの仲間達もそう。あんなに明るく、楽しく一緒の時間を過ごした皆が、一瞬にして何人も命を落とす事になってしまった。


 サリアさんが言いたい事も分かる。自分に付いて来てくれた皆が、何の成果も残せず死んでしまったのだ。勝てると思って挑んだ戦いに敗れ、何も得られなかったのはショックを受けるに十分すぎる材料である。

 自らも片腕を失ってしまい、失意の底にある彼女を一体誰が引っ張り上げてあげる事が出来ると言うのか……。


 出来そうなのは、村長さんだけだ。残った力を振り絞って彼女を叱り、引っ張り上げようとしてその半ばで命を引き取ってしまった。


 あの後、サリアさんはウプラさんを抱いたまま子供のように泣き出してしまい、更なるショックを受けた様子で喋る事も出来なくなってしまった。

 その様子を見れば、誰もが彼女はもうしばらく戦う事は出来ないと思うだろう。


「シズ」


 森を眺めていると、リズがやってきて私の隣に座った。


「り、リズ……」


 私は村長さんの事や、ショックを受けた様子のサリアさんの事を想い、流しかけていた涙を慌てて拭った。


「眠れないんですか?」

「は、はい……」


 本当は、かなり疲れているはず。それなのに眠れないのは、やっぱり精神的なダメージが大きいからだろう。


「同じですね。……もし私がウプラさんを頼らなければ、ウプラさんはここで命を落とす事はなかった。そう考えると、責任を感じて眠れなくて」

「そ、それは──」

「分かっています。ウプラさんも言っていましたが、自分で選択した結果を他人に背負わせるなんておかしな事です。もし私がこんな事をウプラさんに漏らせば、頭を叩かれてしまうかもしれませんね」

「……」


 村長さんなら、たぶんそうする。

 リズが悲し気に笑うので、私もつられてちょっと笑ってしまった。


「サリア様は、その責任を私の数倍……何人、何百人分も感じているのです。私ならきっと、耐える事が出来ずに潰れてしまうでしょう」

「わ、私も、です」

「だからせめて、サリア様よりは感じている責任が軽いはずの自分が頑張らなければいけないと……思います」

「……はい」


 リズが、縋るように私の手を握って来た。

 私もその手を握り返す事により、少しは色んな物が軽くなり、前を向く手助けをしてもらえた気がする。


「シズ!リズリーシャ!こんな所にいたのかよ!」


 そこに、ルレイちゃんがやって来た。私達を探していたようで、私達の姿を見ていつも通りの人懐っこい笑顔を見せてくれる。


「眠れないから二人の部屋にいったら、誰もいないから驚いてよ。探したぜ」


 ルレイちゃんが眠れないとは、それは大変な事だ。それだけの事がおきた後だと、改めて実感させられる。


「それでもし私達が眠っていたらどうするつもりだったのですか?」

「ちょ、ちょっと確認したい事があるだけだって。起こすかもしれないけど、これだけはどうしても聞いておきたかったんだ」

「確認したい事、ですか」

「ああ」


 ルレイちゃんはリズに強く頷いてから、私の方へと目を向けた。


「なぁ、シズ。一つだけ確認したいんだけどよ、本当に災厄を倒せるのか?」

「それは……」


 この世界に、絶対なんて事はない。

 本来私達は、災厄を前の戦いで倒せるはずだった。でも負けてこうして多くの仲間が傷ついている今、絶対に災厄を倒す事が出来ると保証していいのだろうか。

 そう自分に問いかけるも、村長さんの顔が浮かんで「あんたなら、絶対にやれるさ」と私の頭を撫でながら言ってくれた。

 想像の中での出来事だ。

 でも本当に頭を撫でられた気がして、事実は風が通り抜けただけだとは思うけど、私はその言葉と感触に後押しされてルレイちゃんを真っすぐに見返す。


「──た、倒せます。災厄から不死の力を奪う事が出来れば、私達は勝てます。今度こそ、絶対に、災厄に勝って皆で笑うんです」

「そっか。……よっしゃー!んじゃもう一回あの化け物に挑んでみるかな!」


 ルレイちゃんは気合をいれるかのように、平原に向かって叫ぶそうに言った。

 突然の大声にちょっと驚いたけど、いつも元気なルレイちゃんらしくて直後に笑ってしまった。リズも、笑っている。


「よく言った!では妾ももう一仕事するとするかのう!」


 気づけば、ユリエスティが私達の傍へとやって来ていた。

 今の会話を聞いていたようで、ユリエスティも大きな声を出しながら私の肩を叩いて言った。


 ユリエスティは先の戦いで負傷している。体には包帯を巻いており、とても痛々しい。本人は怪我を気にする様子は一切見せていないけど、村長さんが亡くなった事を聞いて大泣きしていたし、精神的にも身体的にもダメージは受けている。

 でも一応は元気そうだ。


「お前怪我は平気なのかよ」

「怪我を言い訳に休んでいる場合か!竜族の咆哮がなければ、お主らは災厄に操られて仲間同士で殺し合いを始めてしまうのであろう?ならば妾がいなければ困るであろう」

「最初は防げてたみたいだけど、後半は無意味だったよな?本当に効果あんのか?それとも声が小さかったのか?おかげでオレはシズに斬りかかっちまったじゃねぇか。もうあんなのはごめんだぜ」

「そ、それは妾に言われても困る。妾は途中で戦いから退いていたし、咆哮の効果についてはよく分からん……すまない……」

「いや、責めてる訳じゃねぇよ?お前はよくやってくれたと思ってるし、あの戦いっぷりはカッコ良かった!それに結局何かよくわからねぇ力が災厄にあったって事だ!だろ!?」


 ルレイちゃんが言った事は懸念すべき事だけど、若干ユリエスティ達竜族に対する嫌味も入っていた。いつもの調子ならユリエスティが強く言い返すと思うんだけど、そう出来なかったのは彼女もまた責任を感じてしまっているからなのかもしれない。

 竜の咆哮のおかげで仲間同士で戦うような事態は回避出来るはずだったのに、そう出来なかったという責任だ。

 でもそれは何か想定外の力が働いてしまったからであって、ユリエスティ達の責任ではない。ルレイちゃんも分かっていて言って、そう言い返されると思っていたから自分で自分の意見に反論してユリエスティを慰めている。


「確かに、最初は竜族の咆哮によって災厄による精神攻撃を防げていたはずなのに、後半は防げいませんでしたね。災厄が普通の人のサイズになって、あの黒い刀で斬りつけられた方が操られていたように思います。恐らくですが、斬られる事がトリガーになっていたのではないでしょうか」

「ああ……。災厄に斬られたら頭の中に色んな人の声が入って来て、周りの奴がすげぇ憎たらしくなってたまらなくなってそれで訳が分からなくなっちまって……怖かった」

「そ、その声、私も聞きました……。まるでこの世の全てを敵とみなすような、そんな声が頭の中に響いて、怖かったです。あれは昔戦いで命を落としたら黒王族の怨念みたいなもので、その怨念の憎悪みたいのが私達を戦わせた……のかもしれません。クシレンが、戦いで命を落とした黒王族に恨まれて、王である自分が災厄へと姿を変えられたと言っていたので……。で、でも私にはそれを止める力があるって言っていました」

「そういや、あの時シズがオレ達を止めてくれたんだったよな。どうやったんだ?」

「わ、分かりません……」

「……もう一度、詳しく教えてください。クシレンとどのような会話をして、どのような事を教わったのかを」


 リズが、災厄の正体について食いついてきた。私の肩に手を置き、私の目をじっと見据えて迫って来る。


 別に隠すつもりは勿論なく、落ち着いてから全て話すつもりだった。


 リズだけではなく、ユリエスティとルレイちゃんも興味深げにこちらを見ている。見ながら、話をちゃんと聞くために私を囲むように座り込んだ。


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