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終わらない戦い


 私は千切千鬼を鞘から抜くと、災厄へ向かって走り出す。

 私に向かってくる黒い球体は、触らないように避けながらただひたすらに災厄へと迫りゆく。


 その間に、先に災厄に対して張り付いていたグヴェイルが、ついに災厄の首へと到達した。

 到達と同時に、グヴェイルが魔法で分身した。それも一人だけではなく、10人程のグヴェイルが出現して災厄の首に襲い掛かろうとする。


 しかしそれを待っていたかのように、災厄の頭に生えた触手達が、一斉にグヴェイルに向かって魔法を放った。

 触手の先端に出現した紋章の中から黒く細い光が発射されると、それが一瞬にしてグヴェイルの身体を貫いて消滅させる。

 恐ろしく速い光の攻撃で、近距離では避けるのが難しそうな物が数十発も一斉に放たれたので、増えたグヴェイルが全員消えてしまった。

 一瞬消えた中に本物のグヴェイルがいたのではと思ってしまったけど、本物のグヴェイルは災厄の顔のすぐ横の肩に立ち、2本の刀を構えていた。

 分身たちは、囮だ。災厄はグヴェイルにまんまと釣られ、前方に攻撃を集中させた。


 その隙に、グヴェイルが技を仕掛けた。

 2本の刀に魔力が集まっていくと、グヴェイルが握っている刀が幾重にもボヤけてみえて、自分の目が急に乱視にでもなってしまったかのような錯覚に陥る。でもそうではなくて、それは魔法による効果だ。


「──一騎当千」


 グヴェイルが技名を呟くと、その2つの刀を災厄の顔面に向かって振りぬいた。その瞬間、もの凄い数の斬撃が生まれる事になる。一度刀を振りぬいただけで、同時に数十の斬撃が生まれて災厄の横顔を斬りつけた。それが二度三度と繰り返され、オマケにグヴェイルの素早い動きで一瞬にして数えきれないくらいの斬撃が生まれた事により、災厄の顔面が細切れにされていく。

 数だけではなく、その斬撃の威力も中々の物だ。

 囮のグヴェイルに向かって魔法を放った触手も、斬撃にのまれて、魔法をうつどころか再生する間も与えられずに切り刻まれていく。


 まるで、千人の剣の達人が一斉に剣で斬りかかっているようだ。


「二度までも貴様に受けた屈辱、返すぞおおぉぉぉ!」


 とそこへ、グラサイが災厄の顔面に向かって突っ込んで来た。

 サリアさんと何かをして推力を得て、まるでロケットのように飛んでいく。

 それを阻もうと災厄のいくつかの手がグラサイに向かって黒い球体を投げつけるも、そこに緑色に輝く矢が飛んできた。

 激しい風を纏った矢は、風によってその球体をグラサイからそらし、あらぬ方向へと飛ばす事に成功した。


「はっはっは!出来たぜ、サリアばーちゃん!」


 逸らす事に成功して、矢を放った本人であるルレイちゃんがガッツポーズを作りながら歓喜の声をあげている。


 黒い球体による妨害を阻止され、次の黒い球体を用意する暇のない災厄は、腕でグラサイをガードするしかなかった。しかし突き出されたグラサイの角に腕が振れると、腕は呆気なく砕け散って阻止する事は出来なかった。

 ならばとグヴェイルに切り刻まれつつも、なんとか残っていた口を開くとそこから赤い光が漏れ出し、グラサイに向かって光線が放たれた。


 しかし突っ込んで来るグラサイに、その攻撃も無意味だった。完全に競り負けて、グラサイの勢いはとまらない。そのまま突っ込んでいき、そしてついには災厄の口から後頭部を突き抜けて、災厄の顔面に風穴をあけるに至った。


 更に、通り抜けたグラサイにロープが繋がれており、そのロープと繋がっているサリアさんが引っ張られる形で災厄の眼前へとやって来た。


「死に腐りな。災厄」


 次の瞬間、見えない何かに殴られた災厄の顔面が吹き飛んだ。

 グラサイと、グヴェイルの攻撃によって元々ボロボロだった災厄の顔面は、モロかった。


 更にそこに、ユリエスティを背に抱いたランギヴェロンが、上空から砕け散った顔面や肉片に向かって炎を吐いた。

 その炎は爆音を生み出し、吐き出された炎もユリエスティの物とは比べ物にならないくらい温度が高く、離れている私の方にまで熱が伝わって来た。

 炎は災厄の身体にまで燃え広がると、炎に触れた災厄の身体が焼け落ちていく。


 グヴェイルは飛び降りてその場から退避したので、巻き込まれずに済んだ。サリアさんはグラサイに引っ張られたまま後方に飛んで行っているので、こちらも無事だ。


 首のある上の方はこんな感じなので、私は残った災厄の足に向かって千切千鬼を振りぬいた。

 この刀の威力はもう十分知っているつもりだけど、それでも巨大な足をまるで紙でも切っているかのように抵抗もなく切断出来てしまうのには驚かずにはいられない。

 一本の足を切断させると、別の足が私を踏みつぶそうと襲い掛かって来た。襲い来る足を今度は縦に切断させると、私は切断された足の間をジャンプして通り抜けてから、その足の膝に着地。その場でそこから切断させた。

 その行動から、首を失っても意志を持っている事が分かる。つまり、災厄はまだ死んでいない。


 それに気づいたランギヴェロンも、空中から引き続き災厄の身体を焼き払うために炎を吐き続けている。また、グヴェイルも私と同じように足を攻撃し始めた。


「うおおおおおぉぉぉ!」


 飛んで行ったサリアさんとグラサイも、グラサイがサリアさんをお姫様抱っこした状態で戻って突っ込んで来た。

 2人やランギヴェロンに向かって、災厄は無事な腕で黒い球体を作り出すと、それを投げつけてどうにか皆の行動を邪魔しようとしてくる。ルレイちゃんの援護でいくつかは飛ばされていくけど、でも全てという訳にはいかないのでちょっと厄介だ。


 下の方はグヴェイルやグラサイ達に任せておこう。

 私は切り落とした膝から、更に上を目指して災厄の身体を駆け上がっていくと、無数に生えている災厄の腕を切り落とし始めた。

 その際に、間近に災厄から浮かび上がる人の顔を見る事になる。苦し気で、しかし怒りも混じったその表情はとても不気味だ。まるで石化でもしているかのように動く気配なないけど、見ているだけで呪われそう。


 呪いを振り切るように、私は刀を振るう。

 遠くからもリズの雷の魔法が飛んできて、災厄を攻撃し始めた。そうして災厄はどんどん身体を削られて行き、やがて最初の首だけだった時と同じように、その姿を原型もとどめずに消すに至った。


 先程よりは、かなり倒したという感触がある。しかしやはり、核らしき物は見つからなかった。もしかしたらランギヴェロンの炎によって飲み込まれ、灰になってしまったのかもしれないけど、不安だ。

 先程もそう期待したら、復活してきたし。


 周囲を警戒して見ていると、それは静かに立っていた。


 触手の髪を伸ばした、しなやかな体の女性。全身真っ黒で、災厄の欠片の姿に似ているけどその顔は災厄の顔と同じだ。頭には私と同じ形の2本の角が生えており、手には2本の刀が握られている。

 背は普通の人よりもやや高めくらいで、先程までの災厄と比べればかなり小ぶりだ。


「っ……!」


 その存在に気付いたグヴェイルが、間髪入れずに斬りかかった。


 しかし次の瞬間、グヴェイルが手にした刀が砕け散り、気づけばグヴェイルが災厄の2本の刀によって、くし刺しにされていた。

 目で追うのが、やっとだった。災厄のその動きは、これまでとは比べ物にならないくらい速い。


「がっ……!」

「あ、あぁ……にーちゃん!」

「グヴェイルさん!」


 口から血を吐くグヴェイル。

 それを見たサンちゃんが、目に涙を浮かべながらもグヴェイルを救うために災厄に向かって駆け出した。


 災厄はくし刺しにしたグヴェイルを刀から振るい落とすと、サンちゃんの方を向いた。サンちゃんに襲い掛かるつもりだと判断した私は、慌てて駆け出した。

 やはり災厄は、サンちゃんに向かって駆け出した。凄いスピードだけど、ギリギリ付いていける。私は2人の間に入るとサンちゃんを庇い、災厄の刀を一本受け止めるももう一本の刀によって右胸の辺りを刺される事となってしまう。


 痛みと同時に、熱さが前進に伝わった。まるで内側から身を焼かれるような痛みが前進を駆け巡り、同時に頭の中に人の叫び声のような物が響き渡る。

 これは……叫び声というより、恨みの声?


「え、あ……シ、シズさん!このおおぉ!」


 サンちゃんは、明らかに災厄の動きについていけていない。災厄の攻撃を避けるそぶりもみせなかったので、たぶんそうだ。

 それでも私を刺して動きの止まった災厄に向かい、拳を突き出して災厄を倒そうとしてくれる。


「──……い、いやああぁぁぁぁ!」


 しかし一発殴りかかった所で、サンちゃんの動きが止まった。そして目から涙を流し、頭を抱えてその場で座り込んでしまう。

 サンちゃんの拳によるダメージは、災厄になさそうだ。全く効いておらず、ビクともしていない。

 そんなサンちゃんに向かって刀を振り上げた災厄の腕を、私は掴んで彼女を攻撃させないように動きを止めた。


 災厄は私の方を睨みつけるも、私には興味がないと言わんばかりに私から離れ、サンちゃんではない次の獲物を求めて駆け出した。


「ぐっ!?」


 その際に刀が胸から抜かれると、痛くて声を漏らしてしまう。

 災厄の腕を掴んでいた私の手は、振り切られた。


 そこから、災厄による虐殺が始まった。


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