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反則


 揺れ動きだした地面の上で、私達はバランスを取りながら次に起きようとしている事態を待ち受けるしかない。


「なんだ、この揺れは!?」

「全員災厄に備えるんや!シズの言う通り、災厄はまだ生きとる!」


 ふと気づくと、災厄だった血が地面から浮かび上がり、空中に浮かび上がって球体を作り出している。そこからボコボコと肉が生まれ、再び災厄の首が出現した。

 空中に浮かんだ災厄の首が、私達を見下ろしている。

 更にはその首から、ボコボコと肉が蠢いて女性の胴体が出来上がった。その胴体から、無数の腕と足がはえ、手足は人の形だけど大きさがバラバラな異様な見た目の化け物となる。加えて異形の証として、体の所々に人の顔のような物が浮かび上がっている。浮かび上がった人の表情は、皆苦し気で、見ているだけで呪われそう。

 少し気になったのは、浮かび上がった人の頭に角が生えている事だ。魔族でも竜族の角ではなく、私の頭に生えた、真っすぐな角に似ている気がする。


「どういう事だ、サリアばーちゃん!災厄の核を潰せばオレ達の勝ちなんだよな!?核なんてどこにもなかったぜ!?」


 ルレイちゃんがサリアさんに向かって抗議の声をあげるけど、その抗議はサリアさんにすべきものではない。

 サリアさんだって、私達だってそう思っていたんだから、目の前で復活を成し遂げた災厄について説明なんて出来る訳がない。


「確かに、おかしいなぁ。核なんてどこにもなかった。もしかして、ラーデシュでシズ達が倒した災厄の欠片みたいに、他に災厄の核となる物があるんかな?」

「だとしたら、核となる部分から復活するはずです。しかし今災厄は、飛び散った自分の血から再生しました。……コレは仮説ですが、災厄の身体に浮かび上がっている人々の頭を見てください」


 リズに言われて、皆が災厄の身体を見上げる。


「あの角……魔族のもんじゃないなぁ」

「シズの角に似てる気が……て、もしかしてお前、災厄が黒王族だって言いてぇのか……?」

「真偽は分かりませんが、可能性はあります。でももし災厄が黒王族だとしたら、災厄は不死です」

「……」


 ルレイちゃんが、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 もし災厄が不死なら、倒す方法なんてどこにもない。

 不死なんてズルい。反則だ。


「敵が不死であろうとなんだろうと、関係ない!サリア様は負けん!災厄はこの場で、必ず倒される!うおおおおぉぉぉ!」


 グラサイが、興奮した様子で復活した災厄に向けて再び突進を開始した。


 グラサイの動きに呼応して、災厄の複数の手が動き出した。ある手は手のひらを上に向けて構え、ある手は何かを掴むような仕草をし、ある手は振りかぶる。

 振りかぶられた手が、突進をしてくるグラサイに向かって、虫でも潰すかのように振り下ろされた。


「ぬううぅ!?」


 グラサイはその手を頭と手で受け止めると、グラサイの足元の地面が割れてその場が凹んだ。


 続いて、上に向けられた災厄の手のひらの上に魔力がたまっていくと、そこに黒い球体が姿を現した。災厄はその球体を掴み取ると、グラサイや周囲の私達に向かって投げつけて来る。


「グラサイ!」


 サリアさんがグラサイの救援に向かおうとするも、そこに黒い球体が2人の間に降り注ぎ、一瞬にして周囲の空間を捻じ曲げてその中に吸い込んでしまった。

 周囲にもバラまかれた黒い球体は、ガランド・ムーンの仲間や、地面を一瞬にして吸い込み、そして消滅する。音もなく訪れる消滅は、恐怖だ。


「に、逃げろ!あの黒いのに触れたら──!」

「逃げろったって、どこに!?どうやって!?」

「とにかく逃げるんだよ!」


 仲間の魔族達が、災厄から距離を取り始める。黒い球体の数は多く、そしてボールのように災厄が投げつけて来るので、集団では避ける事が難しい。だから、離れるという選択は間違っていないと思う。

 私も、触ったら終わりな大量の黒い球体の中では、リズと一緒に避けるだけで精いっぱいだ。グラサイの下へと救援に駆け付ける余裕がない。


 更に、何かを掴み取るような仕草をしていた災厄の手に、黒い塊が集まっていって剣の形となった。

 その剣は、空を飛んでいるユリエスティ達竜族に向かって振りぬかれた。振りぬかれた剣は複数だ。それに、巨体に見合わずとても速い一撃だった。


『クハッ……!』


 突然の攻撃は避けるのがとても難しく、竜族の中でも一際美しい金色の竜の身体を斬りつけた。


「ユリエスティ……!」


 災厄の剣によって斬られたユリエスティが、血を流しながら地上に向かって真っ逆さまに落下を始めた。

 この高さで落ちたら、どうなるのだろう。さすがに痛いでは済まないのではないだろうか。でもあの巨体を受け止めるのはさすがに無理がある。

 しかし私が受け止める必要はなかった。私の代わりに、高速で飛んできたユリエスティよりも大きな竜が、落下をしているユリエスティをその背で受け止めたのだ。


「アレは……ランギヴェロン!?」


 その竜を間近で見た事のあるルレイちゃんが、驚きの声をあげた。


 そういえば、ランギヴェロンも決戦に来てくれると言っていたっけ。それは私達のためではなく、大切な娘であるユリエスティのためだ。

 その大切な娘のピンチに駆け付けて助けてくれるとか、ちょっとカッコイイ。


「ランギヴェロン様は味方です!今は災厄に集中してください!」


 何事かと空を見上げてしまった皆に向け、リズがそう叫んで促した。


「……」

「にーちゃん!」


 そんな中で、災厄の攻撃を素早い動きでかいくぐり、その足元に辿り着いた者がいる。グヴェイルだ。

 グヴェイルは無数にある災厄の黒い足の一本を駆け上がっていき、災厄の首を目指して進んでいく。その際、ついでと言わんばかりに災厄の身体に短剣を斬りつけて傷を作っていくけど、その傷はすぐに塞がれて治るのに一瞬の時間しか要さない。

 先程よりも、再生能力が格段にあがっている。


「ぬうううぅぅおおおぉぉぉぉ!」


 一方で、災厄の手によって潰された後、黒い球体に襲い掛かられて視界が遮られていたグラサイが、災厄の巨大な手を押しのけて雄たけびをあげた。


「災厄!よくも、よくも貴様あああぁぁぁぁ!」


 グラサイは、額に血管を浮き上がらせて怒りの形相を見せている。巨大な手を押しのけたられたのは、怒りから来る火事場の大力というやつなのかもしれない。

 でも何にそんなに怒っているのだろうか。


「冷静は失ったらあかんよ」

「しかし……しかし、サリア様の腕が……!」

「うちの腕一本くらい、それ以上の働きをしてきてくれたグラサイのためなら安いもんや」


 気づけば、グラサイの下へと駆け寄ったサリアさんの腕が、一本なくなっていた。

 いつ?一体どこで?確かサリアさんは、別に黒い球体には飲み込まれていなかったはず。それなのに何故サリアさんの腕がなくなっているの?そして動けない状態で黒い球体に接近されたグラサイの身体が無事なのも若干納得がいかない。無事なのは良かったけど、本来であればよくて怪我くらいしていそうなものだけど……。


 方法はよく分からないけど、なんとなくサリアさんがグラサイを庇った結果だという事は察せる。


「それよりグラサイ。頼みがあるんやけど、ちょっと投げ飛ばしてもええ?」

「……無論です。オレはただいまよりサリア様の腕となりましょう!どのようにもお使いください!」

「ランギヴェロンはんと、シズも協力してなー。ルレイは黒い球体をなんとかする係や。全員で攻撃を仕掛けて、あのデカイのを潰すでー」

「オレがなんとか出来るのかよ、コレ!」

「分からんけど、風かなんかで吹き飛ばしてな」

「……分かったよ、やってやらぁ!」


 腕が無くなってしまったというのに、サリアさんは呑気な声で皆に向かってそう声を掛けた。

 私は聞こえたけど、空中でユリエスティを抱えて飛んでいるランギヴェロンに今の声量で届いただろうか。


 ランギヴェロンの方を見ると、目が合った気がする。たぶんコレは通じたな。彼女は目も耳も良いから。


「私も出来る限りの援護はします。気を付けて」

「は、はい。リズも、気を付けて」


 とはいえ、この場にリズを残していくのは不安だ。


「サンちゃん!リズをお願いします!」

「りょ、了解っす!」


 だから、リズはサンちゃんと、サンちゃんについてやってきたハルエッキに任せる事にした。

 すぐに私もリズをその場に置いて、黒い球体をかいくぐりつつ災厄へと接近を図る。


 空からはランギヴェロンが迫り、地上からは私が接近して、グヴェイルは既に災厄の胴体にまで到達している。

 更に後方では杖を構えるリズと、弓を構えているルレイちゃんがいる。


 ここからが本番だ。


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