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仲間を信じて


 災厄に向かって私達が進みだしてから程なしくして、災厄から光が放たれた。その光は空を木の枝のように覆い、私達の上空を侵食する。そして空の光の中から、魔物達が降って来た。

 細長いひし形の殻にこもった魔物だ。リズの町でも見かけた事のある魔物で、中身は触手の化け物である。


 それが、次から次へと降り注いでくる。


「魔物を撃退しつつ、前進を続けよ!決して止まらずにオレに続くのだ!」

「ピイイィィ──イ」


 グラサイが速足になると、その目の前に魔物が降って来て、殻の中から触手が飛び出してきた。しかし降り注いだ魔物に対してグラサイは四つ足になると、猛牛のように突進を開始。その鋭く尖った角を魔物に向けたまま突っ込んでいき、魔物に衝突の衝撃を与えると同時に角でしゃくりあげ、魔物の身体を一瞬にしてバラバラにしてしまった。


 自らが出した指示の見本を見せるように、その足は止まらない。魔物を倒しつつ、グラサイは災厄に向かって進んでいく。

 グラサイに遅れないように、私達もその後についていく。


「……」


 周囲では、降って来た魔物によって潰されてしまった魔族がいる。更には魔物の触手に捕らわれ、その毒によってもがき苦しむ魔族の姿もある。

 出来れば助けに行きたい。けど、私達を囲むように布陣している全ての仲間を助ける事は出来ない。むしろもし私がここで助けに行ったら、災厄との直接の戦いに遅れる事になる。そうなれば作戦は台無しとなってしまい、命を落とした仲間に報いる事も出来なくなってしまう。

 もどかしいけど、進むしかない。


「シズ!」

「っ!」


 とそこへ、私達の真上から魔物が降り注ごうとしている事に私とリズが気が付いた。すぐに走るスピードを緩めながら千切千鬼に手をかけ、撃退の準備を始めたけど、私が手を出す必要は全くなかった。


 後方から飛んできた小さな影が、拳を突き出して魔物に向かって飛んでいくと、魔物を拳で殴り飛ばして吹き飛ばしてしまったのだ。その小さな体のどこにそんな力があるのだろうと、不思議になってしまう。


「皆さんには手を出させません!止まらず走ってください!」


 私達に降り注ごうとしている魔物を撃退したのは、ハルエッキだ。彼はまだ空中にいて、その下にいる私達に向かってそう声を掛けて来た。

 私は彼に向かって頷きつつ、リズを抱いて少しだけ全力で走ると、すぐにサリアさん達に追いついた。

 今気づいたけど、サリアさんは降り注ごうとする魔物や、魔物と戦う仲間達に見る目も向けていない。ただただ、災厄のみを見据えている。

 きっと、仲間を信じているんだ。仲間が自分達に課された仕事をこなし、私達を災厄の下まで連れて行ってくれると。

 私には真似できそうにない。私には今まで、そんなに信用出来る人はいなかったから。


 でも今は違う。今は、リズやルレイちゃんに、村長さんといった仲間を信じる事が出来る。ユリエスティに、ハルエッキやサンちゃんも信じられる。ついでにおじさんやカークスもだ。

 私も仲間を信じて、前を向こう。そして仲間が一番望む、災厄討伐を成し遂げる事に集中しよう。


「もっと来るで、グラサイ」


 サリアさんが小さな声で呟いた。その声は、到底グラサイにまで届かない声量だ。


「グハハハハ!お任せください、サリア様!このグラサイは魔物ごときに負けません!」


 しかし前を走るグラサイが、まるでサリアさんの声が聞こえていて、それに答えるかのように笑いながら叫んだ。


 その直後に、地面が割れて大きな穴ができ、そこから巨大なミミズ型の魔物が飛び出してきた。それも一匹ではなく、無数にである。

 ミミズは私達が向かう先や、後方、側方、真下から飛び出してきて、私達の分断を図ろうとしている。

 更には空から降り注ぐ魔物にも変化が見えた。魔物は一旦私達から逸れた場所に降り注いで着地すると、地面からこちらへと向かってくるようになった。空からの襲撃も続いている。

 空と、地面と、地中。その全てで私達は襲撃に対応しなくてはならなくなった。


「グハハハハ!」


 それでもグラサイは止まらない。笑いながら、正面に待ち受けるミミズに向かって突っ込んでいく。

 私はミミズを見て、もう既に満身創痍である。気持ち悪いその姿を見てしまい、一週間は落ち込む覚悟で、でもそれを見続ける。ここで、この状況で顔を背けるなんて事は、出来ない。


 ミミズ達がグラサイに向かい、胴体の先端にぽっかりと開くようについている口を一斉に開いた。すると、謎の粘液まみれのその大きな口が、周囲の物を吸い込み始めた。元々ミミズに向かっていた私達は、その吸い込みに巻き込まれるかのように飛んで行ってしまいそうになる。

 私達は、一旦足を止めざるを得なくなった。このまま前に進むと、体が浮かんでその口に吸いこまれてしまうからだ。


 しかしグラサイはむしろ吸い込まれるのを望むかのように地を蹴ると、その巨体を浮かび上がらせてミミズに吸い込まれて行ってしまった。


「おおおおおぉぉお!」


 しかしグラサイを吸い込もうとしたミミズの身体が、グラサイに突撃されて貫通した。周囲にミミズの液体が飛び散り、肉も裂けて吹き飛ぶと、ミミズの身体が花のように汚く咲いて周囲を汚した。

 あまりにも気持ち悪すぎる光景である。吐きそう。


 グラサイはすぐさま私達の進行方向にいる他のミミズにも襲い掛かる。

 その姿はまさしく、獲物がいなくなるまで突進を続ける猛牛だ。

 でも出来ればもう少しキレイに倒してもらいたいと思うのは、我儘だろうか。


「さすが、グラサイのおっさんだぜ!このまま災厄もぶったおしちまってもいいぞ!」


 ルレイちゃんが、グラサイの戦いっぷりに賞賛の言葉を贈った。

 その声は、今度こそグラサイには届いていない。今の彼は、興奮気味だ。例えルレイちゃんの声がもっと大きな物であったとしても、今の彼には届かないだろう。


 声は届かなくとも、暴れるグラサイのおかげで道が開けて、私達は進行を再開した。


 後方では相変わらず他のミミズの対処に追われていて、空からは絶えず魔物が降って来る。側方からもゴリラ型の魔物が猛然とこちらへ迫っているのが見える。

 けど私もサリアさんを見習って、そちらは仲間に任せて前へと進む。


「妾達竜族の出番はまだか?まさか、このまま出番なしで終わらせるつもりではあるまいな?」

「今はまだ、災厄による精神攻撃の範囲外と考えられます。ユリエスティ様達はもう少しだけ我慢です。でも活躍の場はちゃんとありますよ」

「分かってはおるが……こう熱い戦いを見せられると、竜族の血がうずくのじゃ。それにシズに負けてイライラが募っていてな。暴れたい」


 それまではおとなしくついて来ていたユリエスティが、人の姿のまま走りながら、ニヤリと笑って口から軽く火を吐いた。その表情は本当に若干興奮しているようで、幼女ながらちょっと怖い。


「暴れる機会なら後程やってきます。だから今は、おとなしくしていてください。貴方達竜族は、作戦の要なのですから」

「……仕方がないのう」


 ユリエスティは不満げにしながらも、リズの言葉に納得してくれたようだ。


 とはいえ、グラサイの暴れっぷりは本当に凄い。たった1人で前方に立ちはだかる魔物達を次々になぎ倒し、その突撃は止められそうにない。このまま突撃をし続けて、本当に災厄も倒してしまうのではないかと思ってしまうくらいに、頼もしい。

 グラサイ以外にも、ハルエッキも活躍している。得意の格闘術で拳を繰り出し、小さな身体で魔物を倒して回る姿は圧巻だ。その傍にはサンちゃんもついている。ハルエッキに負けじと、こちらも拳や蹴りを繰り出す格闘術で魔物をなぎ倒している。2人で息の合った連携も見せていて、カッコイイ。

 他の魔族達も、私達に魔物が寄り付かないように必死に戦ってくれている。


 皆の協力があって、私達は魔物と戦う事無く、災厄までだいぶ近づくことが出来た。


 もう災厄は、すぐそこである。


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