休息 2
軽く運動をしてから、早速湖の中へと足を踏み入れた私達はまずは浅瀬でその温度になれる事に努めた。今は真夏という訳ではないので、さすがに水が冷たい。水の中に踏み入れた足が、冷たさを訴えかけている。
「あははは!つめてぇなぁ!」
そう言いながらも、ルレイちゃんは水の中を進んでどんどん足がつかないところまで進んでいっている。冷たいという感覚が死んでいるのでは?とちょっと心配になってしまう。
でもそれよりも、もっと心配になる事が起きた。
「あぶっ、おぶっ、ごは」
足がつかないところまで辿り着いたのだろう。するとルレイちゃんが、水面を滅茶苦茶に叩いて必死に顔を水から出そうとするような仕草をし始める。だけど身体は浮き沈みを繰り返し、彼女から呼吸を奪おうとする。
つまりは、溺れてる。
「ルレイちゃーん!?」
私は水の冷たさも忘れ、慌ててルレイちゃんの下へとかけつけた。そして彼女を片手で支えて足がつく方まで誘導してあげると、すぐに自分で立って冷静さを取り戻した。
「はぁ、はぁ……助かったぜ、シズ。お前は命の恩人だ」
そこまでは大袈裟な気がする。ルレイちゃんがいたのは、足がつくかつかないかくらいの境目だったから、泳げなくとも自力でなんとかする事は出来ただろう。
でも余程怖かったのか、私にハグしてお礼を言ってくるルレイちゃんが可愛すぎる。私も抱き返すと、ルレイちゃんと密着する事になり、肌と肌が直に重なってとても気持ちが良い。
「むぅ……」
そこにやって来たリズが、頬を膨らませながら私の腕を掴んで来た。そして対抗するかのように、リズも私に密着してくる。リズのおっぱいの感触が、いつもよりダイレクトに伝わって来て私の理性を崩壊させようとしている。
正面からはルレイちゃんに抱き着かれ、腕にはリズのおっぱいが当たってる。本当にこの場が天国と化してきた。
「なんじゃ、エルフ。お主泳げんのか。ぷー。ダサいのう」
足がとっくにつかない場所で、ユリエスティが犬かきで泳いでいる。彼女の後方の水面には彼女の尻尾が浮ていてなんかちょっと面白い。
「あぁ!?泳げねぇ訳ねぇだろ!」
ユリエスティの挑発に乗ったルレイちゃんが、私から離れると一気に足がつかないほうへとダイブしてしまった。そしてやはり、その場でバタバタと暴れて溺れてしまう。
それで確定した。ルレイちゃんは、泳げない。というかもう確定はしてたけど。
仕方ないので、私は再びルレイちゃんの救出に駆け付けるのであった。
「はー、ちょっと冷たいけど、気持ちいいっすねー」
「……お主、その胸本当に凄いな。浮力でもあるのか?」
「そんなのないっすよー。ユリエスティ様も、泳げてるじゃないっすかー」
「それもそうか……」
サンちゃんは背泳ぎ状態で、その大きな胸をプカプカと水面に浮かばせて空を仰いでいる。
なんていうか……凄い泳ぎ方だ。別に特別な事ではないんだけど、とにかく凄い。
それを見て、ユリエスティも真似するように背泳ぎをしているけど、こちらは健全だ。いや、その小さな水着のせいで健全ではない。
両者とも、中々に過激な絵面である。
あっちの2人は普通に泳げるようだから、放っておいても問題ないだろう。
「ぷはっ。ど、どうだ?上手いか?」
「は、はい。だいぶ上達、してます」
私はルレイちゃんの手を掴んで、浅瀬で泳ぐ練習をしてあげている。まずは足をバタつかせながら沈まないようにしつつ、水面に顔をつけたりあげたりする呼吸の練習だ。基本中の基本である。
「頑張ってください、ルレイさん」
「どうでもいいけど……ぷはっ。リズリーシャは何してんだ?」
水面に顔を出しては下げて、言葉を区切りながらルレイちゃんが疑問を呈した。
ルレイちゃんに指摘されたリズは、背後から私に抱き着いた状態で一緒にルレイちゃんの練習を眺めている。
好きな女の子に抱き着かれながら、可愛い女の子の泳ぐ練習に付き合っている状態である。視線を変えれば、水面に浮かぶ大きなおっぱい。布面積が異様に小さな、竜族の幼女。やはりここは天国である。
「私はシズと一緒にいたいだけですので、お気になさらず。それよりも、ルレイさんは早く泳げるようになってください。このままではユリエスティ様にまたバカにされてしまいますよ」
「わ、分かってるっての……」
「そうじゃぞー。こーんな簡単な事も出来んようでは、災厄退治などもってのほかじゃからなー」
「くそっ。見てろよすぐに泳げるようになってやらぁ!」
ユリエスティの挑発に乗るように、ルレイちゃんの動きが激しくなる。
泳げない人をバカにするのはどうかと思うけど、ユリエスティにちょっとだけ元気が戻った気がする。初めて会った時の他人を見下すような生意気な態度が戻り、心なしか顔つきもリラックスした様子だ。
女の子はやっぱり、元気なのが一番だ。連れてきてよかったし、この天国の構成に一役買ってくれている。
「えへへ……」
この光景を前に、思わず笑いが漏れてしまった。
「シズ?そんなに私に抱き着かれるのが嬉しいのですか?」
「はっ、ん」
リズが色っぽく、私の耳元で囁くように言ってきた。それがなんだか心地良いような、くすぐったような感覚で、思わずルレイちゃんの手を離してしまった。
「ぶぶぶぶ……」
結果として、ルレイちゃんが水の中へと沈んで行ってしまった。彼女が沈んだ場所から泡が上がって来て、水面に出て破裂する。
ここは浅瀬なので、私は割とのんびりだ。自力でなんとかなるだろうと思って手を貸さないでいると、やはり勢いよく起き上がったルレイちゃんが水面から顔を出した。
「げほっ、げほっ……!」
そして苦し気に息を吸う。なんか、割とピンチだったのかもしれない。鼻からも水を流す姿を見ると、すぐに手を貸してあげるべきだったかもとちょっと後悔する。
「だ、大丈夫ですか、ルレイさん?」
「……ああ、おかげさまでオレは、すげぇ元気だ」
ドスの効いた声で答えつつ、彼女の体調を心配するリズを睨みつけるルレイちゃん。
そしてこちらへ駆け寄ってくると、私とリズの間に入って引きはがしてきた。
「リズリーシャは向こうでサンリエフ達と泳いでろ!」
「い、いいえ!私もここで、ルレイさんがちゃんと泳げるようになるのを見守っていたいです!」
「ダメだ!お前は向こうにいろ!」
「し、シズの独り占めはこの私が許しません!」
「いつもくっついてんだからたまにはいいだろが!いいから、向こうで泳いでろ!オレが泳ぎの練習に集中するためにもだ!分かったか!」
「う、うぅ……」
リズが縋るような目でこちらを見て来る。私もリズと一緒にいたいなぁ。でも先程のような事があったら、ルレイちゃんが練習に集中出来ないのも事実。
……ここは心を鬼にし、かつ自分にも厳しくいこう。
「こ、ここはルレイちゃんの言う通り──」
「シズぅ」
「──や、やっぱり皆で練習しましょう!」
「は?皆ってのは、サンリエフと、竜族のガキもか?」
「そ、そうです。皆です」
「他の連中は泳げるじゃねぇか。練習する必要なんてねぇだろ」
「で、でも、皆でやった方が、た、楽しい、です」
私がそう訴えると、サンちゃんが背泳ぎで私達の下へとやってきた。
「うちも賛成っす。やっぱりこういうのは、皆でやるから楽しいっすからね」
「仕方ないのう。妾も付き合ってやるから、さっさと泳げるようになるが良い」
続いてユリエスティもやってきて、そう言ってくれた。
本当はただリズと一緒にいたくて必死に出た言葉だったけど、皆がそう言って賛成してくれた。
「し、仕方ねぇな……」
皆がそう言ってくれて、ルレイちゃんもちょっと嬉しそう。
「あ、でもシズは私のですからね」
「お前だけはちょっとあっちに行ってろよ……」
「嫌です。だって皆で、ですからね」
ルレイちゃんに呆れ気味に言われるも、リズは再び私にくっついて来て、先程の出来事を悪びれる様子もない。
こういう小悪魔的な一面も、リズの魅力の一つだ。そして何より、抱き着いてくれて幸せな気持ちになる。