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災厄に怯える世界で、夢見る少女と。  作者: あめふる
一章 災厄に怯える世界
6/111

一緒に逃げてくれますか?


「──それで、聞いてくださいよ。信じられますか?あのクソ王妃のやつ、私の大切なピアスを引きちぎって踏みつけて壊したんですよ!?右耳はなんとか死守しましたが、信じられません!昔祖父からいたいだいた大切な形見なのに!」

「そ、そうなんですね……」


 女の子は、私の予想を超えて元気になった。


 聞くに、彼女は無実の罪でこの牢獄にいれられているらしい。なんでも、実験中に災厄の欠片とかいう化け物に襲われてしまい、村が壊滅するも逃げ延びることに成功。しかし逃げ延びた先で、実験によって災厄の欠片を呼び寄せてしまったたという無実の罪を擦り付けられてしまい、処刑される事になったのだとか。

 元々は王国に努める、それなりの地位の天才魔術師だと主張している。本当かどうか分からないし、そもそも魔術師ってなんだ。魔法を使う人の事だよね。魔法といえば、誰もが一度は使ってみたいと思った事のある夢みたいな物だけど、この世界には魔法があるのか。

 女の子の話を聞いていると、話が所々で脱線してしまう。


 まぁ女の子の話を鵜呑みにするなら、この子は無実の罪でここにいるらしい。元々天才魔術師が故に周囲から嫉妬される事が多く、王妃様にも目をつけられていて今回の一件で罪を擦り付けられたと。

 ちなみに彼女は装着されている首輪のせいで、魔法が使えないらしい。どういう仕組みか知らないけどそれを付けている限り魔法が使用できず、更に無理に外そうとすれば首が吹っ飛ぶみたい。恐ろしい。


「私が今まで、どれだけ王国に貢献した事か……!それをよりによって、この国を──世界を救うかもしれない実験を災厄の欠片に邪魔された上に、あのクソババアにも邪魔されるなんて!」


 女の子……リズリーシャさんは、力なく牢獄の壁に拳を打ち付け、その悔しさを壁に対してぶつけた。

 今、彼女の目は死んでいない。むしろ憎しみの炎が宿っており、生気に満ち溢れている。ほんの数分前まで、ほぼ死んでいた人間とは思えない復活劇を果たした。


 でもやっぱ、こっちの方がいい。あの死人のような目は可愛い女の子には似合わない。


「……ありがとうございます、シズ。話を聞いてくれて、少しスッキリしました」

「い、いや。私は何も……」

「誰も、私の話を聞いてくれませんでした。私がどれだけ無実を訴えても、部下も、友達も、見張りも、裁判官も、家族すらそんな事はないと突っぱねたのです。誰も私の話を聞いてくれない中で、シズは聞いてくれたんです。だから嬉しかった」

「……」


 私は本当に、ただ話を聞いただけだ。状況は何も変わらず檻の中。

 だというのに、リズリーシャさんは目に涙を浮かべて喜んでくれている。


 この子はきっと、本当に一人きりだったのだろう。何を言っても誰も話を聞いてくれず、絶望し、こんな暗い牢屋に閉じ込められ、死ぬのを待つだけだった。

 私なんかが話を聞いただけで、涙を浮かべて喜ぶくらいに追い詰められていたのだ。


「死ぬ前に、貴女と会えてよかった」

「し、死ぬ前?」

「言いましたよね。私は明日、処刑されます。そして処刑される人間は、前日に死なない程度に痛めつけられるのがルールです」

「い、痛めつけられる……?」

「──よぉ、リズリーシャ様ぁ」


 私の疑問に答えるかのように、私達が閉じ込められている檻の前に数名の男達がやってきた。ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべている彼らの目的は、その視線だけで分かる。彼らはこれから、リズリーシャさんに暴行を加えるつもりだ。


「明日は処刑の決行日だ。あんたにはコレから、オレ達の相手をしてもらう。明日の昼まで、あんたはオレ達の玩具って訳だ。何か言う事は?」

「私は……無実です」

「がっはっはっは!」


 無実だという訴えを、男達は笑い飛ばした。そして檻のカギが外され、男達が檻の中へと入ってくる。2人だと広く感じた牢獄は、あっという間に手狭になってむさくるしくなってしまった。


「んで、なんだコイツは。魔族か?」


 私の方を見て、一人の男が尋ねて来た。


「町の外で見張りが見つけて拾って来たらしい」

「それはいいが、何でリズリーシャ様の檻に入ってるんだよ」

「さぁ?」

「……ま、いい。ついでだ。この魔族も可愛がってやろう」

「そうこなくちゃ!一人じゃオレ達全員の相手はキツイだろうからな。よかったな、リズリーシャ様」

「この方は関係ありません。貴方達程度の相手は私だけで充分です」

「健気だねぇ、リズリーシャ様!なんか死んだみたいな目をしてるって聞いてたもんで、あまり期待してなかったんだけどこれなら楽しめそうだ!オレはあんたのそのキレイな顔面を、ずっとグチャグチャにしたいと思ってたんだぜぇ?その夢が今日叶って、いーい気分だぁ」

「下衆な夢ですね。もう少しまともな夢はないんですか?例えば、キレイな奥さんを貰って子供を作りたい、とか。……ぷっ。失礼。その顔ではキレイな奥さんなんて、夢を見る気にもなれませんよね」

「挑発のつもりか?安心しろよ。あんたがオレ達を楽しませてくれる間は、あっちの魔族には手を出さねぇ。せいぜい頑張るんだな」

「っ……」


 男の手が、リズリーシャさんに向かって伸ばされる。毛深い男の手は、森で出会った化け物を連想させる。


 明日処刑される者は、前日に死なない程度に好きにしていい、か。

 それってつまり、1日限定のストレス発散の道具にされるって事だよね。くだらなくはあるけど、罪を犯した者に対しては割とアリなのかもしれない。だってただ死ぬよりも辛い目に合うって事でしょ。

 例えば殺人の罪で死刑になる人がいたとして、その死刑囚を残された被害者の家族が処刑前日にボコボコにする。少しは心が救われるんじゃないかな?と思う。そこに倫理とか道徳的な物はないけどね。

 でも1日限定っていうのは少し甘いかな。どうせなら死刑が決まった日から死刑が執行されるその日まで、ずっと地獄を見せてあげれば良いと思う。1日っていうのは、ちょっと中途半端だ。

 まぁどちらにしろ、私が元居た世界では絶対に許されない事だ。さすが異世界。私が元居た世界では通常出来ないことを平気でやってくれる。


 でもさ、リズリーシャさんは多分本当に無実なんだよ。そんな彼女に暴行を働くとか、どうなのよ。そもそもリズリーシャさんみたいな美少女を、こんな下衆な男達が好き勝手しようというのが間違いだ。


「──触るな」

「あ?」

「リズリーシャさんに、触るな」

「魔族のクソガキ、てめぇの番は後だ。引っ込んでな」

「私の番がいつかなんて、関係ない。リズリーシャさんに触ったらお前達を殺す」

「あー、分かった、分かった。お前らは魔族を相手してやれ。人間様に、二度と生意気な口がきけないくらいに可愛がってやるんだ」

「シズ……!」


 私にも、指示を受けた男達の手が伸びてくる。

 リズリーシャさんの身体は、震えている。私と話して少しは元気が出た彼女も、これからその身にふりかかろうとする出来事を怖がっているのだ。なのに私の方を見て、私を心配してくれている。

 彼女はきっと、とてもやさしい優しい子なのだろう。もっとその優しさに触れていたい。元気に、楽しそうに話すリズリーシャさんを、もっと見ていたいと、そう思った。


 何もなくて、空っぽの私だけど、せめて自分が好きな可愛い女の子くらいは守っていきたい。だから私は、リズリーシャさんに向かって伸びて、男の指先が少しだけリズリーシャさんの顔に触れた瞬間にその腕を掴み取った。


「は?こいつ、いつの間に……!」


 掴み取った腕を強く握りしめると、腕がトマトのように潰れた。握った所から先が腕から離れて床に落ちる。


「ひっ、ギャ──……」


 間髪いれずに、私は悲鳴をあげようとする男の顔面に向かって拳を繰り出した。

 男の顔面は、私の拳がぶつかった瞬間に跡形もなく吹き飛んでなくなってしまった。腕の先と首から上をなくした男の身体が、力なく床に倒れこむ。


「コイツ……!」


 一斉に私を取り押さえようとしてくる男達。でも私は、私に向かって手を伸ばしてくる男達に対し、順番に拳を繰り出して殺していった。

 やはり、脆い。脆すぎる。森の中で遭遇した化け物以上に、面白いくらいに死んでいく。

 この人達は、私にとって虫を払うのと同じくらいの力で殺す事が出来てしまう。


 気づけば檻の中は血まみれになっていて、血でできた水たまりには男達の死体が沈んでいる。壁や天井にも血がついていて、それが重力によってポタポタと垂れる音がするけど、こんな惨状がおきたわりに静かに事を済ませる事が出来た。

 大きな声をあげようとする男から順番に殺していったからね。しかも全てはほんの数秒で終わってしまい、だから騒ぎにもならない。


「シズ。貴女は……」

「わ、私は、リズリーシャさんに死んで、欲しくなくて……」

「……いいいんですか?私が嘘を吐いてる可能性だってあるのに。それに何より、こんな事をして貴女の身まで危ぶまれる事になってしまいました。貴女の家族だってそうですよ。もう、取り返しはつきません」

「そ、それは別に、大丈夫、です。私この世界に家族がいる訳じゃないし、知り合いもいないので……。だから追われることになっても、平気、です」

「では貴女自身の身は?」

「自分だけなら、たぶん、なんとでもなります」


 なんてったって、私はすんごい傷を負っても死にませんので。


「……分かりました。なら、一緒に逃げましょう。いえ……一緒に逃げてくれますか?」

「……」


 私はその問いに、縦に頷いてイエスと答えた。


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