遊びの誘い方
私達は、サリアさんに言われたとおりに竜族を仲間に入れて連れ帰る事が出来た。
その日は村長さんがサリアさんに詳しい経緯を話し、その後正式に竜族が仲間に迎え入れられる事となった。
最初は、突然の竜の飛来に驚いていた魔族達だけど、サリアさんから竜族が仲間になる事を伝えられると大きな歓声がわき、彼らは歓迎される事となる。私達とちょっと反応が違うのが気になる。まぁ竜族の仲間入りが、それ程インパクトが強い事という訳だ。
一仕事を終えた私達は、休むようにとサリアさんから指示された。
竜族を仲間に引き入れるという難題をこなした私達に対する、特別休暇である。
「短い間でしたが、ありがとうございました。皆さんとの旅は、楽しかったです」
「うちもっす!機会があれば、また是非一緒に旅に出たいっす!」
旅が終わった事で、サンちゃん達とは別れる事となった。
サンちゃん達のおかげで、魔族の事が少しだけ理解出来た気がする。
魔族も人も、あまり変わりない。彼らは普通に誰かを好きになり、普通に恐怖も感じ、楽しい事があると笑う。
初めての魔族との交流としては、上出来だと思う。
……まぁ、私はあまり話していないけど。話していたのは、主にリズや村長さんだ。私はそれを陰で見守り、話をフラれたら答えただけである。向こうはきっと、私の事を陰キャだと察したはずだ。
「こちらこそ、色々なお話が出来て楽しかったです。またご一緒する機会もあるでしょうし、その時はよろしくお願いしますね」
リズが、別れを惜しむサンちゃんとハルエッキに対し、ニコやかに対処する。
一方で、私とグヴェイルは若干浮いている。
そう言えば、旅の中でグヴェイルが話したのってほんの数回しか見なかったな。この人もかなりの陰キャなんだろうな。いや、彼に比べたら私の方がまだマシなのかもしれない。私は話をフラれたら普通に喋れるし。
「……竜族との戦い、凄かった。今度、是非手合わせを願いたい」
「は、はい」
そんな事を考えていたら、急にグヴェイルから話しかけられた。そして褒められた。
反射的に答えると、グヴェイルは満足したのかすぐに背を向け去って行ってしまう。
「にーちゃんに認められるなんて、凄いっすよシズさん!」
「……グヴェイルさんは、魔族でも指折りの戦士です。そんな方に手合わせをお願いされるなんて、さすがです」
すかさずサンちゃんとハルエッキがそう言って褒めてくれる。褒められると、ちょっと嬉しくて照れてしまう。
というあグヴェイルって、そんなに強かったんだね。私は彼が戦っている姿を見なかったので、分からなかった。というか彼も私が戦っている所を見ていないはずじゃ……。一体どこで見ていたんだろう。
「シズがつえーのは当たり前だろ!シズはこのオレよりも強いんだからな!ハルエッキよりも、グヴェイルよりも強いこのオレが言うんだから間違いねぇ!」
「わ」
ルレイちゃんが私の肩に手を回し、抱き着きついて自慢するようにそう言った。
「いやいや、ルレイさん。ハル君とグヴェイルにーちゃんの方が、強いです」
「あ?オレの方が強いに決まってんだろ!」
「決まってません」
「上等だぁ!ハルエッキ、かかってこいやぁ!」
旅の初めの頃と同じようなやり取りが、繰り返される。サンちゃんもルレイちゃんも、負けん気が強すぎるよ。
「お、落ち着いてください、ルレイさん」
「落ち着いてられるか!あっちで対決すんぞ!」
私から離れたルレイちゃんが、ハルエッキの腕を掴むと歩き出して行ってしまう。
「ちょ、ちょっと!ルレイさん、あんまりハル君にくっつかないでくださいっす!」
そんな2人を、サンちゃんが慌てて追いかけて行った。最後に、サンちゃんはお辞儀をし、ルレイちゃんも思い出したように軽く手を振ってくれる。ハルエッキはルレイちゃんに拘束されているのでそんな暇はない。
その場に残ったのは、私とリズだけとなる。村長さんはサリアさんと今後の事で詳しい話があるといって、この場にはいない。馬のお世話は魔族の人達に任せてあるので、そちらも心配する必要はない。久々の2人切りだ。
「そういえば、ウォーレンさんとカークスさんはどうしているのでしょうか」
「……」
せっかくの2人切りだと言うのに、リズが2人の事を心配するような事を言った。
言われて思い出したけど、2人はここに残ってグラサイ指導の下、仕事を覚えているんだっけ。私としては、そんなのは放っておいてリズとの時間を大切にしたい所である。
「し、シズ様。リズリーシャ様……」
とそこへ、ヤクシーがやって来た。竜族の他の男に肩を貸してもらった状態で、歩く事もままならないと言った様子だ。その傷を負わせたのは、ルレイちゃんやリズである。でもいきなり襲い掛かって来た彼の自業自得なので、そこは言いっこなしだ。
ラーデシュへ来る道のりも、彼は他の竜の背中に乗せられてやってきた。ユリエスティも一緒の竜に乗って来て、彼女の世話係だというヤクシーは、逆に世話をされていたっけ。
「どうかしましたか、ヤクシーさん」
「オレはこれから、魔族から治療を受けに行く。それでちょっとした頼みがあるんだが……ユリエスティ様をお願い出来ないか?」
そういえば、ユリエスティはランギヴェロンとの会話の後、元気がなくなっていたっけ。あの生意気な態度は身を潜め、ずっとしょんぼりとしている。
今も、言われて目を向けるとユリエスティはボーっと地面を見つめている。ミミズでもいたのだろうか。だとしたら元気が出ない気持ちも分かるけど、そうじゃないんだよね。
「何故それを私達に?」
「竜族はオスが多く、メスは少ない。ユリエスティ様はこれまで、同年代のメスという存在がいなかった。落ち込んだ時は、同じくらいの年頃の同性と遊ぶことにより、気が紛れるものだろう?」
それには同意できるけど、同じくらいの年頃というには私達とユリエスティはちょっと年が離れている気がする。彼女は私達よりも、どう見たって幼いだろう。
でもその辺は種族ごとの感覚によるのかもしれない。
「……分かりました。それとなく話しかけてみます」
「すまない。よろしく頼む」
リズの返答に満足したヤクシーは、会話を終えて去っていった。
「……親に自害しろと言われる子の気持ち、私にもちょっとだけ分かります」
リズは一時期、母親であるメルリーシャさんに裏切られるような形で処刑されそうになっていた。でもそれはメルリーシャさんが作った表の顔で、裏ではリズを助けるために画策し、本気で心配していた。
演技だと分かって安心できたリズだけど、表の顔しか知らなかったときは相当ショックを受けていたと思う。初めて出会った時の、リズの暗い表情を思い出すと今でも心が痛む。
そうか。ユリエスティも今、あの時のリズのように傷ついているのか。
「い、今のあの子、初めて会った時のリズみたい、です」
「そうですか?」
「……」
「自分ではよく分かりませんが……シズがそう言うなら、そうなのでしょう。そう聞いて、ますます放っておけなくなってしまいました。一緒に、ユリエスティ様を元気づけてあげてもらえませんか?」
私が頷いて答えると、リズはそんなお願いを私にしてきた。
「り、リズがしたいなら、私もそうしたいです。でも、元気ってどうやれば……」
私ならたぶん、リズやルレイちゃん等の女の子に、何か特別なご奉仕をされれば元気がつく自信がある。でも人それぞれの趣味嗜好があるので、特別なご奉仕を彼女にした所で彼女が喜ぶとは限らない。
私達はまだ、ユリエスティの事を何も知らないのだ。
「……しばらくお休みですし、せっかくだからどこかに遊びに出かけるというのはどうでしょう」
「あ、遊びに?」
「はい。町に買い物に出かけるとかは無理そうなので……湖に泳ぎに行くのはどうでしょう。王国にいた頃は、母上とよく湖に出かけて流行りの水着を着て泳ぎの練習をしたりしていたんですよ」
リズとメルリーシャさんが、水着で……。想像しただけで天国が出来上がってしまった。
「ダメ、ですか?」
「……行く。行きます。絶対行きます。わ、私、ユリエスティを誘ってきます」
「は、はいっ」
「な、なんじゃ、なんじゃ!?」
リズの水着姿が見たくて、私は落ち込んだ様子のユリエスティに勢いよく駆け寄った。
ユリエスティが驚いて逃げ出そうとするも、私は彼女の手を掴んで逃げられないように拘束。そして彼女の目を文字通り目の前で見据える。
「み、水着。泳ぎに、行きましょう。えへへ」
完璧な遊びの誘いだ。