表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/111

帰還


 ランギヴェロンが去って、ようやく一息つく事が出来た私達だけど、ユリエスティの元気がなくなってしまった事に気が付いた。あの生意気そうな態度はすっかりとなくなり、建物の陰に隠れるように座り込んでしまっている。

 そしてもう1つ、問題がある。


「……竜族の数、これで足りるのでしょうか?」


 リズが、生き残った竜族達を見てそう疑問を呈した。


 私達の仲間になると表明してくれたのは、総勢で13名の竜族の男だ。ここにユリエスティとヤクシーが加わって、合計15名となる。

 私や、外で竜族と戦闘になったグヴェイルが何名か竜族を殺してしまっているので、この数となった。

 戦力としてはあまりにも少なすぎる気がする。


「ランギヴェロンとの交渉で手に入れた戦力じゃない。それでいてこれだけ集まれば十分だろ。むしろ本当に竜族を戦力として迎え入れる事が出来て、まずはそれを喜ぶべきだよ。アレを見ただろう?自分の娘を救ってもらったアタシ達に向かって、あの態度だよ?信じられるかい?」

「確かに、そうですね。あの発言は、聞いていて気持ちが良い物ではありませんでした。それに、本当に怖かったです……」

「そう言う割に、好き放題言ってたじゃないかい。アレに対して堂々と発言するアンタの姿に、アタシは惚れそうだったよ。キスしていいかい?」

「いえ。遠慮しておきます」


 村長さんのキスを真顔で断ったリズが、私の方を見て来た。

 このタイミングで私の方を見られてもちょっと困る。だってまるで、私のキスを求められているようだから。


「……本当に、怖かったっす。あんな怖いの、初めてっす」


 未だに、ランギヴェロンと対峙した時の恐怖から抜け出す事の出来ていないサンちゃんがいる。

 座り込んで震える姿は、まるで雷に怯える子供のよう。


「だ、大丈夫でありますか、サンちゃん?」

「う、うん。大丈夫。大丈夫っす。で、でも、出来れば手を握っていて欲しいっす」


 怖いというのは、本当だろう。それにかこつけて、私達に向かってハッキリと好きだと公言しているハルエッキに向かい、そんなお願いをしてみせた。

 その願いを、ハルエッキは迷う事なく受け入れる。サンちゃんの隣に座り込み、サンちゃんの手を両手で強く握って励ます。

 リズはその様子を見てニヤニヤとしているけど、私としては何を見せられているんだという感じだ。手を握ったって、元気が出る訳じゃない。ただイチャイチャしたいだけなんじゃないの、この2人は。


 ……でも少し前に、私もリズの手を握って励ましたことを思い出した。


 手を握ると、元気出るよね。良い事だと思う。


「オレ達は、これからどうすればいいですか?」

「とりあえずは、ガランド・ムーンのリーダーがいるラーデシュまで一緒に来てもらう。そこでアンタ達が仲間になった経緯を話して、リーダーが認めたら正式に仲間入りだ。といっても、もう確定みたいなもんだからそんなに気張らなくても良い」


 竜族の男の問いに対し、村長さんが軽くそう答えた。

 竜族にとっては、得体のしれない組織の仲間になってしまった身で、不安は募るだろう。

 それにランギヴェロンとの交渉もあって、彼らは絶対に災厄を倒さなければいけなくなってしまった。あの様子じゃ倒さないと群れには戻してもらえなそうだから、プレッシャーは大きいだろう。


「何もなければ、少し休憩して出発しよう」

「は、はい。オレ達はいつでも行けます。それで、提案なのですが……よろしければ、竜の姿となって皆さんを運びましょうか?」

「いいね、それ!」


 その提案に、村長さんは即喰いついた。


 そうして私達は、竜族の背中に乗せられて空の旅をする事となった。馬車と馬もしっかりと竜族の背に乗せられ、または足に掴まれて、快適な空の旅の始まりだ。


 何体かの竜に分けて乗せられた私達は、ここまで来るのに時間と苦労をかけたのに、その道を一瞬にして通り過ぎていく。


「きゃあ!?」


 私と同じ竜の背に乗っているリズが、悲鳴をあげた。竜が揺れて、怖かったようだ。生身で乗っているので、体であびる風も強い。

 でも私がしっかりと抱きしめて、その上で竜の鱗を掴んでいるので飛んでいく心配はない。


「こ、怖い、ですか?」

「少しだけ……でもそれ以上に、気持ちがいいです!」


 リズが前を向き、その美しい銀色の髪が風によって流される。

 これは確かに、気持ちが良い。まるで空を飛んでいるようで……というか飛んでいるんだけど、その飛び方は飛行機とは違う。生身で風を受け、風をきって大空を羽ばたく感触は、飛行機では得られない。

 前の世界で、よくカップルでジェットコースター等の絶叫マシンに乗っているのを見かけたけど、一緒に乗ろうとするその気持ちが今分かった。好きな人の隣で、好きな人の手を握りながらの乗車は、気持ち良さに嬉しさや幸福感が加わって、もっと楽しい。


『前方に、人間の検問所が見える。どうすればいい』


 竜が、私達に向かってそう尋ねて来た。


 言われて前方下方を見ると、ここに来る途中に止められた検問所が見えた。


「低空で飛んで、驚かしてやりな!」

『いいのか?』

「いいさ!連中は竜族を畏怖の対象を通り越して、神聖視してる!何もしてきやしないよ!」


 別の竜の背中に乗っている村長さんが、そんな指示を竜達に出した。

 その指示を受けて、竜達が一斉に低空飛行となる。接近してくる竜に気付いた下の人達は、大慌てだ。けどどうする事も出来ずに見守る事しか出来ない。その少し上を、竜達が通り抜けていく。


 来た時と違って、私達を止める術は彼らにない。通り抜けた際に、隊長と思わしき人が私の方に気付いた気がする。けど全てはほんの一瞬で終わり、確認する時間は当然なかった。


 それからまたしばらくすると、荒廃した都市が見えて来た。ラーデシュだ。

 関所を超えたからもうすぐだとは思っていたけど、まさかのもうついてしまったという訳だ。私達が一週間かけた道のりを、この竜達はたったの一日で……いや、一日も経っていない内に走破してみせたのだ。

 遮る物が何もない空路って、陸路と比べてやっぱり速いんだなと、しみじみ思う。


『狙われているぞ!』


 竜が慌てて、叫ぶように言った。確かに、ラーデシュの方から暖かい光を感じて、リズが放つ魔法のような気配を感じる。

 さすがにガランド・ムーンの魔族の上を、突然竜が飛来するのはマズかったかもしれない。


「もう遅い!このまま突っ込んで、着地しな!」

『来るぞ!全員しっかり捕まっていろ!』


 竜が叫ぶと同時に、地上から私達に向かって魔法が放たれた。火や氷が一斉に私達の方へと向かって来て、それらを回避するために竜がクルクルと回って空中を縦横無尽に飛び回る。

 せっかくサリアさんに言われた通りに竜を連れて来たというのに、攻撃で出迎えとは酷い。

 でも、攻撃はそれだけですぐに止んだ。その隙を見て、竜達が一斉に降下を初めて地面に着地する。

 着地したのは偶然にもサリアさんとルレイちゃんの家の近くで、その際に竜が巻き起こした風で魔族達のキャンプがいくつか吹き飛んでしまった。それにお構いなしに、次々と着地する竜達。

 周囲を魔族達が取り囲み、武器を構えて敵対の意志を見せるものの、私達の姿を見て大半が武器を納めてくれる。一応私達はもう彼らの仲間で、少しだけだろうけど顔は認識されているから、そのおかげだ。


「──思ったより、早いお帰りやなぁ」


 私達をそう言って出迎えてくれたのは、サリアさんだ。相変わらず派手でキレイな着物を身にまとい、着物に負けず劣らずの美しい美しい顔で出迎えてくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ