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女王の飛来


 という訳で、私達は竜のボスを倒す事に成功した。生き残った竜達も、ボスが倒された事で降伏しておとなしくしている。なので、殺したりするつもりはない。


「うむ!よくやったな、お前達!褒めてつかわすぞ!」

「なんでてめぇが偉そうにしてんだ?」

「ひっ」


 幼女はルレイちゃんに睨まれると、私の背後に隠れて盾として来た。


「ま、まぁまぁ……」

「ちっ」


 私がルレイちゃんをなだめると、ルレイちゃんは舌打ちをしながらも頭を掻いて仕方ないと言った様子を見せてくれる。

 その様子に安心した幼女が、再び前に出た。


「ルンリロンドは、お主達の活躍によって死んだ。ランギヴェロンの下を離れ、好き勝手しようとした結果じゃ。それに従った者達には、相応の罰を受けてもらうつもりだが……妾の計らいでそこは軽い刑にしてもらえるように母上と交渉してやる」

「……」


 幼女の言葉に、生き残った竜達が安心したようにため息をつく。

 生意気な事ばかり言って、まるで子供のような幼女だけど、けっこう優しい所もあるようだ。


「その代わりこれからは妾の事を、崇めよ!妾の言う事は、なんでも聞いてもらうぞ!妾がしたいと言った事は、命懸けで叶えよ!よいな!」


 前言撤回だ。この子はただ、生き残った竜達を奴隷のように扱いたいだけのようだ。


「──なんだかよく分からない状況だけど、とりあえず勝ったって事でいいのかい?」


 とそこへ、村長さんがやってきた。

 どうやってあの崩れた門をくぐって来たのか分からないけど、馬車と馬も一緒だ。馬車にはハルエッキとサンちゃんが乗っていて、グヴェイルは遅れて歩いてやって来ている。皆無事だったようだ。


 遅れてやってきたグヴェイルの手には、男の足首が握られている。グヴェイルに引きずられ、ここまでやってきたようだ。

 その引きずられている男は、竜の男。私に泣きながら命乞いをし、ここに幼女や自分達のボスがいる事を教えてくれた男だった。


「そうですね。敵のボスはシズが倒し、他の竜達も降伏しました。私達の勝利です」

「よくやった。で、その女の子は?」

「妾の名は、ユリエスティ。ランギヴェロンの娘である!」

「ほう。娘までランギヴェロンを裏切っていたのかい」

「違う!妾はこやつらに囚われていただけじゃ!妾のせいで母上はこやつらに手を出す事が出来ず、好き勝手する事ができたのじゃ!」

「なるほど、そういう事かい……。こんな小さな軍団なんて、ランギヴェロンなら一息で吹き飛ばせるだろう。そうならなかったのは、アンタの存在があったからだね」

「そういう事じゃ。だから、妾の機嫌は損なわないようにするんだな。妾の機嫌を損なえば……母上が怒り狂うぞ」


 幼女がニヤリと笑いながら、村長さんや新しくやって来たハルエッキ達を見た。その目には挑発的な意味がこめられている。虎の威を借りるとは、こういう事を言うのだろう。

 私達を順に睨みつけていき、その中でグヴェイルに目を向けた時に動きを止めた。


「ヤクシー!お、お主大丈夫か!?」


 心配そうに声をかけ、男に駆け寄る幼女。どうやら竜達の中でも、この男は幼女にとって特別な存在だったようだ。


「……」


 駆け寄って来た幼女に対し、グヴェイルが腰の短剣に手をかけて攻撃を仕掛けようとするのを私は見た。

 たぶん、条件反射的な物だと思う。


「よしな!」


 それを村長さんが咎めて、グヴェイルは攻撃をやめる。


「ゆ、ユリエスティ様。ご無事でなによりです……」

「怪我をしておるのか?大丈夫か?痛いか?」

「大丈夫です。上手くは動けませんが、生きています」

「そうか……」


 未だにグヴェイルが足首を握っているので、男は変な格好のまま幼女に受け答えをした。


「そちらはどういう状況だったのですか?」

「外で待機してたグヴェイルが、竜に襲われた。どうにか一匹は倒したみたいだけど、敵の増援が現れてけっこうピンチだったらしい。そこにハルエッキやアタシ達が駆けつけて皆で協力して竜を倒して、アンタ達を追いかけて中に入って来たって訳さ。馬車は降伏した竜に運ばせたよ。さっさと合流した方がいいと思ってね。あの男は途中で拾ってきた」


 リズの質問に対し、村長さんが簡単に答えてくれた。

 あちらも竜を倒したみたいで、竜ってそんなに強くないのでは?と思ってしまう。でも確か、メス竜は強いとか言ってたな。ここにいるのは、皆オスだからそう感じてしまうだけかもしれない。

 ただ、あの竜……ルンリロンドはちょっと強かったけど。ここにはオスの竜しかいないと言っていたので、アレもオスだったはずだ。


「この男は妾の世話係の男でな。ルンリロンドに囚われた妾を心配し、ルンリロンドに賛同する体で妾についてきたのじゃ。だから、酷い扱いはやめてほしい」

「……」


 グヴェイルに幼女が訴えるものの、グヴェイルは無反応で男の足首を握り続ける。それなりの怪我を負っている竜に対し、あまりいい待遇とは言えない。むしろ乱雑な扱いだ。


「やめてあげて、グヴェイルにーちゃん」


 サンちゃんがそう声をかけると、グヴェイルはすぐに男の足首を離した。

 妹の声にはすぐに反応して言う事をきいてあげるとか、この男、もしかしたらシスコンかもしれない。


「これでランギヴェロンへの手土産は揃ったね。裏切り者どもの壊滅と、ランギヴェロンの娘の救出。十分すぎるだろう」

「あー……」


 村長さんが満足げにそう言うも、幼女はちょっと言いにくそうに目を泳がせた。


「も、もしかしたらだけど、母上にいきなり攻撃されるかもしれんし、そもそもその事を話しても相手にされん可能性もある。妾は全力でお主らをサポートするつもりだが、そこだけは覚悟しておいてほしい」

「さっきは自分が囚われているから、ランギヴェロンが手を出せないとか偉そうな事を言ってたじゃないか」

「そ、それはそのー……ちょっと見栄を張っただけじゃ」


 素直にそう認めるのは、偉いと思う。けどそれじゃあちょっと話が違う。


「ランギヴェロン様は、とても気難しいお方だ……。例えユリエスティ様が貴方達の功績を讃えても、ランギヴェロン様が認めてくださらなければ意味をなさない」


 そもそもこの男、ヤクシーが、ここの竜達を倒せば私達の功績になると言ったんじゃないか。その上で幼女、ユリエスティの存在も教えてくれて彼女を救出すれば更なる功績になると教えてくれた。


 ……いや、そうするように導かれたのか。


 彼にとって、第一の目標はユリエスティを救助する事。そのために私達に対して早々に降伏し、ペラペラと仲間の事に関して喋ったのだ。


「てめぇ、オレ達を利用しやがったな?」

「ひっ。ご、ごめんなさい!でも監獄の中に囚われるユリエスティ様があまりにも不憫で……!だ、だけど約束する!ユリエスティ様を救っていただいたご恩は、必ずお返しする!」

「妾も約束しよう。お主らにとって、悪いようにはせん。救われた恩は、返す」


 ルレイちゃんが、利用されていた事に気付いて睨むと、ヤクシーは不自由な体を動かして土下座をした。

 その隣でユリエスティも頭を下げて、2人でそう約束をしてくれる。


「それなら話が早い。アンタ達、アタシ達の仲間に入りな」


 村長さんが、呆気なくそう言い放った。

 そういえばそうか。竜を仲間に入れるだけなら、別に竜の女王様を通す必要はない。ここで楽に交渉が出来そうな竜がいるんだから、ここにいる竜達を仲間に引き入れる事が出来れば私達の目標は達成される。


「仲間?群れに入れと言う事か?」

「アタシ達はガランド・ムーンの者でね。災厄を倒すのに竜の咆哮とやらが必要なんだよ。ここへ来たのは、災厄を倒すため、竜の協力を得るためだ」

「災厄を、倒す……。あの恐ろしい化け物を、お主らは倒すつもりなのか?」

「……」


 私達は、ユリエスティに向かって頷いた。

 頷きをみたユリエスティの反応は、複雑だ。恐怖とも、希望とも見れる反応を示し、それからちょっと悲しそうに俯いてしまう。災厄と聞いて、この町が災厄に襲われた時の事を思い出してしまったのかもしれない。


「災厄を倒すって、本当か……?」


 一方で、話を聞いた竜達がこちらに向かって歩み寄って来た。

 彼らはルンリロンドに呼応してこの町に潜んでいた竜達だ。瓦礫の下に埋まっていたり、外で村長さん達に負けた生き残りだ。


「本当です。私達の組織はそのための有志を集めています」

「な、なら……オレも仲間に入れてくれ!」

「オレもだ!」

「オレも!あの化け物を倒すためなら、何でもするぞ!」

「……」


 答えたリズに男達が群がろうとしたのを、私が遮る事によって阻止した。男達は私に睨まれると、一歩退いてそれ以上の接近を躊躇う事になる。


「アンタ達は災厄が怖くないのかい?」

「怖いけど……この町を襲った災厄を倒すんだろう?オレ達はこの町を離れるのが嫌で、ランギヴェロン様の下を離れてしまったんだ。今更群れに戻ったって、犯罪人として処罰されるくらいなら、町を破壊した災厄をぶったおしたい」

「この山は、竜族にとっての聖地。この山を離れたくはないというお主らの気持ち、母上もそれなりに理解を示してくれるじゃろう。群れに戻る事は、可能であると思う。それでもお主らは群れには戻らないと言うのか?」

「……群れに戻るなら、どうせならこの町をぶっ壊した災厄討伐を手土産にしたいです」

「そうだ。手ぶらじゃ群れには戻れない」

「災厄を、倒そう!」


 竜達が勝手に盛り上がるけど、この竜達を仲間に入れてもいいものかと私は思う。だってこの竜達、私達を襲おうとしたんだよ。ちょっと危ない気がする。


「あっはっはっは!いいだろう、仲間に入んな!」


 しかし私の心配をよそに、村長さんが笑いながら彼等を歓迎してしまった。


 抗議の意思を示そうとした私だけど、それよりも異様な気配を感じ取って山にぽっかりと開いた穴を見上げる。

 なんだろう、この気配。体が自然と少し震えて、空気までもが震えている気がする。


「……み、皆の者、気をつけよ。母上が、来た」


 私と同じように気配を感じたのか、ユリエスティが若干震えながら皆に警告をした。

 私が見つめる先の空、その先から大きな物体がこちらへと向かってくる。凄いスピードだ。

 他の竜とは、格が違う。遠目から見ただけで、私はそう感じ取った。感じ取らされたというべきか。


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