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敗因


 竜の炎が、私に襲い掛かる。炎は石で出来た建物を飲み込むと、炎で石を溶かして溶岩のようにしてしまう。あまりの熱さに、周囲の気温が一気にあがった。まるで真夏……いや、サウナの中にでもいるようだ。

 私はその炎を回避しつつ竜の背後に回り込むも、竜は翼をはためかせて飛んでしまい、私の攻撃が届かないようにしてしまった。


「氷の剣よ。我が敵を打ち滅ぼせ。イェールキリング」


 リズが、すかさず氷の剣を放つ魔法を発動させた。氷の剣が地上から天へと向かって放たれ、竜に向かっていく。


『ガアアァァァァ!』


 しかし竜が咆哮すると、氷の剣は呆気なく勢いを失い、地に落ちた。


 今の咆哮を聞いた私は、思わず身震いしてしまう。頭の中で咆哮が渦巻き、反芻し、体の奥の奥まで響いて戦意を喪失させようとしてくる。

 だけどハッキリとした意識を持っていれば、なんとか打ち消す事は出来る。咆哮に何かしらの力を感じつつも、この程度で屈したりはしない。


 それから、私達の頭上で滞空した竜が私達に向かって再び炎を吐いて来る。今回の狙いは私ではなく、機動力のないリズだ。


「大地よ。我が呼びかけに応え、今こそ隆起せよ。フロアスーン」


 リズの前の地面が隆起し、炎からリズを守る壁となる。しかし炎はあまりにも高温で強力で、その壁では防ぎきる事は出来ないだろう。


「オレが行く!シズはアレをなんとかしろ!」


 私はリズの下に駆け付けようとしていたけど、ルレイちゃんが私の肩を押さえて駆け出した。

 彼女の足元で、風が巻き起こってルレイちゃんを加速させている。というか、少し浮いている気がする。その後ろ姿を見送りつつ、私はリズではなく、竜の方へと向かって駆け出した。

 リズは、ルレイちゃんならなんとかしてくれるはず。私はリズに攻撃を仕掛けている本体の方を討つ。


 竜は、炎が地面に届くように低空だ。今ならリズに目が向いていて、注意が逸れている。その隙に、私は近くの建物の壁を蹴って駆け上ると、屋上に降り立ってそこからまた思い切りジャンプして竜へと突進を仕掛ける。

 けど、その竜が炎を吐くのをやめてこちらを見た。


 ああ、私はまんまと誘い込まれたのか。すぐにそう察したけど、私は引き下がらない。というか、引き下がれない。私は竜のように、空中で自由に方向転換する術を持っていないから。


「シズ!」


 リズが私の名を呼ぶも、竜はそちらを見向きもしない。でも私はちゃんと見ている。心配そうに、私を見上げてくれている。

 竜は勝利を確信したように、私を見つめながら大口を開いた。その口の奥から火炎が溢れ出してきて、私に向かって放たれる。

 どうせ、焼かれても私自身は死なないだろう。私は不死身の黒王族だから。でも服が焼けるのは勘弁だ。だから、私はヤケクソのように炎に向かって刀を振りぬいた。


 すると、炎は私を避けるように2つに分裂し、私に直接降りかかる事はなかった。


『炎を、切っただと!?』


 竜が驚きの声をあげる。私自身も驚いた。炎って切れるんだ。


「余所見してんなよ、トカゲ野郎!」


 そこへ、ルレイちゃんが竜の背後から襲い掛かった。

 気のせいだろうか。ルレイちゃんが飛んでいるように見える。


 今思えばルレイちゃんは初めて出会った時、空から降って来た。それ以降も度々空から降って来て、私達の前に現れた。

 いま彼女の足元にはつむじ風のような物が巻き起こっており、それで空を飛んでいるようだ。ルレイちゃん、飛べたんだね。彼女の謎が、今一つ解けた。


 ルレイちゃんは竜を挑発しつつ、竜に向かって構えた矢を放った。その矢は光り輝きながらこれまた風をまとっており、竜の背中についた鱗に接触すると鱗とせめぎあう。同時に、暴風が発生した。その激しすぎる風に負けて、ただ空中にいるだけの私は上空へと飛ばされて行ってしまう。でも竜は平気そうにその場に留まって滞空を続けている。


『無駄だ。空の覇者である竜は、風をも飲み込む。風などには……負けん!』

「くそっ……!」


 やがて、ルレイちゃんが放った矢が消滅してしまった。鱗には傷一つつく事はなく、風に巻き込まれてもその場でビクともしなかった。

 ルレイちゃんは自分の攻撃が聞かなかった事に対し、ちょっと悔しそう。


「天より注ぎし怒りの剣。その鳴き声は地を這う者に恐怖を植え付け、剣は大地を破壊する。青き光は我が敵を打ち滅ぼす希望の光。あるいは憤怒の証。受けてみよ。天の一撃を。終焉の雷(カリングラーズ)


 地上にいたリズが、魔法の詠唱をしていた。

 詠唱が終わると、杖の先端から轟音と共に雷が放たれて竜に直撃する。


「ひいぃ!」


 リズの魔法が放たれ、雷の音が響くと、近くで戦いを見守っていた幼女が驚いたように悲鳴をあげて頭を抱えてしまう。その反応は、ちょっと可愛い。


『グウゥゥオオオオォォ!無駄だ、下等種族ども!何をしても、貴様らはこのオレには勝てん!オレは、やがて新たな竜の王となる男だ!竜王の前に、ひれふすがいい!』


 リズの魔法が直撃したものの、竜は健在だ。少し体が焼けたけど、咆哮して再び周囲を威圧する。

 でも竜が見て睨んでいるのは、ルレイちゃんとリズの方だ。ルレイちゃんの風によって上空へと飛ばされた私の方は、全く見ていない。どうやら私の存在を忘れてしまっているようだ。


 私の方を見ていない竜が、リズに向かって口を開いた。そこから放たれようとしているのは、これまで吐いていた炎ではない。そこに空気が収縮していって集まると、一点の炎の塊が生み出される。


「よせ、ルンリロンド!貴様の無謀な夢に付き合った仲間ごと、吹き飛ばすつもりか!?」


 よく見れば、崩れた監獄の瓦礫から手負いの男達がはい出てきている。

 彼らは瓦礫に潰された事により怪我をしているため、戦う意思は見せていない。何が起きているのか分からないといった様子で、呆然と私達の戦いを見守っているだけだ。


 その彼らの身を案じる幼女の言葉を信じると、ちょっと離れている彼らも吹き飛ばすような攻撃を、この竜は仕掛けようとしているようだ。


『誇り高き竜であるなら、王のために死ぬ事は本望!皆心して、この愚か者どもと共に死ぬがいい!』


 なんて無茶苦茶な事を……。


「バカ者め……!皆ここから離れよ!逃げるのじゃ!」

『もう遅い!このオレを怒らせたツケを払わせてやる!』


 幼女の指示に、反応できた者はいない。竜の口元に現れた炎の塊が、リズに狙いを定めて放たれようとしている。

 そのリズの隣に、ルレイちゃんが降り立った。


「お前の敗因は、あの子供の言う通り、視野が狭い事だ」

『……?』


 竜から炎の塊を放たれる直前、ルレイちゃんが竜に向かって放った言葉に、竜が僅かに首を傾げた。


 その次の瞬間、竜が収束させていた炎の塊が真っ二つに割れ、その場で消滅した。切れたのは炎の塊だけではなく、竜の首もだ。首は胴体を離れ、残った胴体も3つほどに分断されて地に落ちる。

 やったのは、私。ルレイちゃんが巻き起こした風によって上空へと吹き飛ばされた私は、ようやく空から帰って来て竜の真上から襲撃。私の存在を忘れていた竜の不意をつき、刀で竜を切り刻んだ。

 少し硬かったけど、この刀の切れ味の方が勝ったようだ。ちょっと力をいれて振りぬけば、普通に両断である。


 私は地に落ちる竜の肉塊と共に地に降り立つと、念のために竜の頭をもう一刺しして刀を鞘に納めた。


「……ふぅ」


 大した労働ではなかったけど、私は額の汗を拭って勝利の儀式とする。


 ああ、でも、空を飛んでいるみたいでちょっと楽しかったな。また今度ルレイちゃんにお願いして、空に飛ばしてもらおう。


「お疲れ様です、シズ。私達の勝利、ですね」

「は、はい」


 リズが歩み寄って来て、勝利宣言をしてくれた。


「悔しいけど、やっぱ竜の鱗は頑丈だわ。シズみたいにスパスパ切れねぇな。というか刀が凄いのか?……ちょっと貸してみろ!」

「わっ」


 ルレイちゃんもやって来ると、私の腰の刀を抜いて竜の方へと行ってしまった。そして竜を刀で斬りつけ始める。

 けど、竜の鱗が切れる様子はない。何でだろう。


「……」


 ルレイちゃんが斬りつけて遊んでいる竜の死体に、幼女が歩み寄った。そして厳かな様子で竜の首の前に跪き、手を合わせて目を閉じる。仲が良さそうな様子ではなかったのに、死を悼んで祈りを捧げているようだ。


「くそっ、このっ。なんで切れねぇんだよ、シズはあんなに簡単そうにやってたのに!」


 祈りを捧げる幼女の傍で、ルレイちゃんが空気も読まずに竜の死体で遊んでる。

 さすがに良くないと思ったので、私とリズは背後からルレイちゃんの刀を持つ手を掴んで止めに入るのだった。


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