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臨機応変


 千切千鬼により、竜族の男たちはあまりにも呆気なく切り裂かれ、そして死んでしまった。この刀に堅い鱗なんて通用しない。全てをスパスパと斬ってしまい、竜族は大した抵抗をする事も出来ずに地面に転がる事となってしまった。

 竜の姿の死体が1つと、人の姿の竜族が3体。最初の竜以外は、変身する間もなく私が殺した。


「……コレが、黒王族の力」


 ハルエッキが、竜族を殺した私を見て呟いた。その呟きに反応してそちらを見ると、ハルエッキが私を怖がって一歩退いた。

 サンちゃんも、少し引いている。


「まったく、シズにだけは勝てる気がしねぇ……」


 ルレイちゃんもそう言うけど、私を怖がったりはしていない。むしろ歩み寄ってくると、肩に手をかけて密着された。そして肩を叩いて来る。


「竜族を瞬殺なんて、とんでもねぇな!前にシズとやり合った時は、シズが素手で助かったぜ!今やりあったらオレも速攻で斬られてあの世に一直線だ!」

「シズの強さに磨きがかかりましたね。その武器のおかげでしょうか」

「ああ、間違いねぇな。サリアばーちゃん、シズにとんでもない武器を渡しちまったみたいだ」


 私よりも、凄いのはこの刀だと思う。一体どういう切れ味をしているのだろう。こうなると、色々と試し切りしたくなってしまう。どこまで頑丈な物を切る事が出来るのか確かめるのは、この武器を手にする者として知っておいて損はないはずだ。


「浮かれるんじゃないよ。今アタシ達が相手にしたのは、オスの竜だ。竜族は元来メスの方が強く、その中でも特別強いメスが群れを率いる長となる。浮かれるのはメスの竜を倒してからにしな。もっとも、ここにはメスの竜はいないみたいだけどね」


 と、褒められてちょっとだけ照れている私に釘を刺したのは村長さんだ。

 つまり、オスの竜は雑魚という事か。褒められて調子にのりそうだったけど、その前に教えてもらってよかった。


「オスだろうとメスだろうと、この刀の前だとあんま関係なさそうじゃねぇか?」

「ま、そうだね。まさか武器を持っただけでここまで強くなるとは、思ってもいなかったよ」

「し、シズさんの強さは、よく理解したっす。けどこれからどうするっすか?竜族は今、かなり面倒な事になっているみたいっすけど……」

「確かに面倒だね。竜族を仲間に引き入れに来たはずが、竜族の勢力が分裂し、分裂した方の竜族をアタシ達は殺してしまったって訳だ」

「──あんな奴ら、殺されて当然、です」


 私は殺気のこもった声で呟いた。


 あの男達が私達に向けて言い放った発言は、思い返すだけでもおぞましい。コイツらは私達の事を、まるで自分達の道具のように扱おうとしていた。殺されても文句は言えない。


 過去に異性に暴力を振るわれかけた身として、それは許せない行動だった。


「別にアンタは間違っちゃいない。よく戦って、よくアタシ達を守ってくれた。だから、そんな怖い顔をするのはおよし。可愛い顔が台無しだよ」


 気づけば村長さんが近くに立ち、私の頭を少しだけ乱暴に撫でながらそんなキザな台詞を放ってきた。

 私今、そんなに怖い顔をしていたのだろうか。自覚はなかったけど、私の肩に手を回して密着していたはずのルレイちゃんが私から離れ、驚いたような表情を見せている。

 どうやら、していたみたいだ。


「……」


 でも直後にリズが私の腕に抱き着いて、私の目を見つめて来た。


「……え、えへへ」


 それで思わず笑いが漏れてしまう。だって、リズの目がキレイで、しかも腕におっぱいをつけて来たのでその感触がとても良かったから。

 そりゃあ、笑わずにはいられない。男達に対する殺気も一瞬にして吹き飛んで、幸せな気持ちになる。


「で、どうすんだばーさん」

「……アタシ達が接触したのは、ランギヴェロン。竜王と呼ばれる存在とは別の群れだ。ランギヴェロンと別の群れだと言うなら、殺しても構わないだろう。そもそもランギヴェロンは誇り高い人物だ。さっきの奴らがアタシらを繁殖のための道具にしようとしたような行動を、奴は許さない。竜族の恥さらしとして、いずれはランギヴェロンに殺されていたはずだ」

「先程の方々の話から推察すると、彼らの仲間に竜のメスはいません。数も大した事はないと思うのですが、どうでしょう」

「アタシもそう思う。大した数じゃない反乱分子どもが、ランギヴェロンの意志に反するような行動をおこそうとしている。それをアタシ達がとめてやって、反乱の危機から竜族を救ってやるっていう筋書きはどうだい?」

「恩を被せる事が出来れば、ガランド・ムーンにも協力してもらえるかもしれない。という事ですね」

「逆はダメなのか?その反乱した連中を、ガランド・ムーンに引き入れるとか」

「……」


 私はそんな提案をしたルレイちゃんの肩を掴み、睨みつけた。


 先程の連中の仲間なんて、どうせろくでもない連中に決まっている。あんなのを仲間にするなんて、私は反対だ。大反対だ。


「わ、分かった、分かったって。頼むからそんなに睨まないでくれよ、こえーよ!」

「規律を乱す者は、サリアも受け入れないだろう。やるとしたら、分裂した方。仲間に引き入れるとしたら、ランギヴェロンの勢力だ」

「本気でありますか?分派と言えど、竜族と戦うなど……。そもそも最初の予定は?竜族と戦いになったら、逃げるという……」

「いいかい、ハルエッキ。状況はその時その時で変わるんだ。好機とみたら、突き進む。そのタイミングを見失うんじゃないよ。それが出来なければ、大切な物も守れなくなってしまう」


 村長さんがハルエッキに優しく教えるように言うと、ハルエッキはサンちゃんの方を見た。どうやらハルエッキにとっても、サンちゃんは大切な存在らしい。つまり、両想いと言う事だ。

 もう付き合っちゃえよと心の中で思う。


 とその時、今私達が入って来た門の外から、衝撃音が響いてきた。外には馬と馬車とグヴェイルがいる。今私達が襲われた事を考えると、外でも同じように竜に襲われているのかもしれない。


「グヴェイルにーちゃん!」


 兄の事が心配になったのか、サンちゃんが外へ向かって駆け出してしまった。


「サンちゃん!」


 それを見て、慌ててハルエッキも後を追って行ってしまう。


「勝手な行動をとるんじゃないよ、まったく……。アタシは二人を追う。シズ、リズリーシャ、ルレイは()()の相手をしな。どうせさっきの連中の仲間だ。好きにして構わないよ」


 外から聞こえて来た衝撃音を聞きつけ、竜が一体、空を飛んでこちらへと向かってきている。村長さんはアレを私達に相手するように言うと、サンちゃんとハルエッキを追って行ってしまった。


「ここは私が」


 こちらに向かい来る竜に、リズが杖の先端を向けて詠唱を開始する。


「──天より注ぎし怒りの剣。その鳴き声は地を這う者に恐怖を植え付け、剣は大地を破壊する」


 リズの杖の先端に紋章が登場すると、そこからバチバチと電気が溢れ出始める。目に見える青白い電気は、キレイだけど少し怖い。


「青き光は我が敵を打ち滅ぼす希望の光。あるいは憤怒の証。受けてみよ。天の一撃を。終焉の雷(カリングラーズ)


 一瞬、視界が真白に染まった。リズの杖の先端から雷が放たれ、その激しすぎる光によって視界を奪われたのだ。

 更には雷を追って大きな雷の音も鳴り響き、雷でも落ちたかのような音と衝撃が周囲を襲った。


 実際は雷が落ちた訳ではなく、リズが雷を魔法によって放ったのだ。

 その対象とされたのはこちらに向かい来る竜で、放たれた雷の直撃を受けると叫ぶ間もなく黒焦げとなり、こちらに向かって落ちて来た。すぐ傍に落下したけど、私達に被害はない。


『ガアアァァァァァ!』


 しかし竜はまだ死んでおらず、黒焦げの身体を起き上がらせると地を這い、私の方に向かって突進してきた。

 それを止めてくれたのはルレイちゃんだ。竜に向かって緑色に輝く矢を放つと、その矢が竜の脚に突き刺さって動きが止まった。

 竜の脚は太く、鱗にも包まれてるのにあっさりと突き刺さる事が出来たのは、先程のリズの魔法によって鱗がはがれていたからだ。それでもこの太い脚に食い込む事が出来るなんて、細いのに凄い威力の矢だ。


 私の前に倒れこんだ竜が、こちらを睨んでいる。炎でも放つつもりなのだろうか。私を殺気のこもった目でみつめつつ、口から溢れ出る炎が少しずつ強くなっていく気がする。


「……」


 そちらがそのつもりなら、こちらもその気にならなければいけない。私はゆっくりと刀を引き抜くと、竜を睨みつけて殺す態勢を整える。


「……ま、待て、魔族の娘。降伏するから、殺さないでくれ」


 すると竜が怯んだ。私は刀を振り上げて、あとはもう振りぬくだけだったという所で突然の出来事だ。

 降伏の意図を示すためか、大きな竜の姿が消え去って人の姿へと変わった。現れた男は、銀髪の青年だ。額に角をはやし、やはり上半身は裸で筋肉質な体を自慢するかのよう。目は、竜の姿と変わらない。赤い瞳の中に縦線の黒目がある、人とは違う目だ。

 彼の全身はボロボロで、傷だらけである。特に足は血まみれで立っていられないのか、地面に座り込んでいる。

 どうやら姿を竜から人に変えても、ダメージは残ってしまうようだ。そりゃそうか。それで怪我が治るならそれはほぼ不死身だ。


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