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破壊の跡


 馬車は進みだしたものの、村長さんの様子が少しおかしい。神妙な面持ちで、何か考え込んでいるような様子だ。

 一方でサンちゃんは顔を赤くし、先程のハルエッキの戦いを思い出し続けてボケーっとしている。完全に、恋する乙女のそれだ。


「にしてもあの人間達、根性がねぇな。ハルエッキにビビって剣を納めるなんて、本当に情けねぇ」


 ルレイちゃんは先程の兵士達に怒っている。その怒りは彼らの根性に対してで、襲われたとかはどうでもいいみたい。

 私は、彼らが根性なしのおかげで比較的穏便に済んだのだから、別にいいと思うんだけど。


「いやいやいや、ルレイさん。そこはハル君がカッコ良すぎたせいっすよ!ばったばったと敵を倒すハル君、本当にカッコ良かったっすー!」

「ま、確かにハルエッキの格闘術は相変わらずすげぇな。身体は小さいのに力もある。奴の強さにはオレですら一目置いてるくらいだ。けどオレの方が強い!」

「む。やってみないと分からないっすよ。だってハル君の方が強いっすからね」

「は?んな訳ねぇだろ。オレの方が強いに決まってる」

「ハル君の方が強いっす!」

「上等だぜ!表に出ろハルエッキ!一戦やるぞ!」

「は、はい!?一体何事でありますか!?」


 いきなり荷馬車の中からルレイちゃんに怒鳴りつけられたハルエッキが、困惑している。


 サンちゃんとしては、好きな人の強さをアピールしたかっただけなんだろうけど、ルレイちゃんにそれはしたらいけない。彼女は負けず嫌いで、売られた喧嘩はすぐに買うタイプだ。ハルエッキに迷惑がかからないよう、退いてあげるべきだった。


「はぁ……騒がしい連中だねぇ。そろそろ、少しは緊張感を持ったらどうだい?」


 と、いつも緊張感のない村長さんが言い出した。


「先程の方々の情報。竜族が災厄に襲われたというのは本当なのでしょうか」


 リズもそれに呼応するかのように、真剣な眼差しで皆を見て問いかけた。


 真剣な状況だと理解したのか、ルレイちゃんはハルエッキに絡むのをやめると床に寝転んだ。


「嘘を吐く理由もないし、本当なんだろう。どれだけの被害が出たのかは分からないけど、アタシ達の目的を考えると状況はかなり悪い」

「そうですね。災厄によって被害を受けたとなると、復興で忙しい中生き残りをガランド・ムーンに分け与えてくれる可能性は下がります。更には災厄によって被害を受けた彼らは、スウェンの方々の言う通り、今殺気立っているはずです。下手に近づけば、災厄によって戦力が削られた竜族を襲いに来た火事場泥棒……と、勘違いされても仕方ありません」

「面倒な連中が、更に面倒になっちまってるって訳だ。面倒だねぇ。帰ろうか」

「それはダメです。災厄を倒すためには、竜族が必要なのですから」

「災厄を倒すって事に関して、アンタは退かないねぇ。若い頃のグレイジャそのままだよ」

「……本当に大丈夫なんすか?」


 リーダーが不安げで自信がないと、その自信のなさは部下にも伝染してしまう。

 村長さんの真剣に悩む様子を見て、サンちゃんも不安に伝染してしまったようだ。不安そうに村長さんにそう尋ねた。


「ふ。いざとなったら、逃げる。この辺の地形や逃げ道は、全員しっかりと見て確認しときな!くれぐれも竜族と戦おうなんて考えるんじゃないよ!特にルレイ!喧嘩を売られても絶対に買うんじゃないよ!」

「えー、オレかよー」

「そうだよ。これからアタシ達が向かう場所は、竜族の住処だ。そこで一匹の竜に喧嘩を売られて買ったとしな。千匹の竜に囲まれて、アタシ達は四方八方からブレスを受けて骨も残らず焼き払われるだろうよ」

「はっ。そうなる前にぶっ殺してやらぁ!」

「だから、それをやめろって言ってんだよ!」

「あいだぁ!」


 寝転がっているルレイちゃんが、村長さんに頭を殴られてしまった。

 完全に無防備だったので、かなりいい音がした。その音は、おじさんやウォーレンが殴られた時よりも響いていい音だった気がする。別に中が空洞と言いたい訳ではない。


「ま、どうなるかは分からないけどなんとかなるだろ。サリアはそう思ってアタシ達を向かわせたのさ。その期待に応えられるよう、努力する事だね」


 それからしばらく馬車は進み、数日が経過した。

 道中ではいつも通り、馬車で女組が寝泊まりをして、外で男2人が寝泊まりをする。でもさすがに女5人で寝泊まりするには手狭だ。寝れなくはないのだけど、ルレイちゃんが外で眠りたいというので4人になり、そこは解決した。

 ご飯は村長さんが作ってくれる。村長さんの美味しいご飯は、旅の楽しみでもある。というかメインになりつつある。これなしではもう旅は始まらない。そんな感じだ。

 周囲の景色は、だいぶ変わっている。緑あふれる景色から、緑のない岩肌むき出しの風景に変わった。いつの間にか標高もだいぶあがっており、気温も下がって来てとても寒い。サリアさんから渡された物資の中には防寒着もあるので、全員それを着込んで寒さに耐えている状況だ。

 さすがは山だ。進めば進むほど、平地の過ごしやすい気候と違って季節は冬に近づいていく。


「……妙だね」

「どうかしましたか、ウプラさん」

「もう竜族の領域に入っているはずだ。奴らが厳戒態勢を敷いているというなら、とっくに出迎えがあってもいいはず。だけどそれがない」

「災厄による被害が、深刻なのでしょうか……?」

「そうかもしれないが、スウェンの連中が竜族の活動が活発だと言っていただろう。活発だというのに警備はしないのか?変だろう」


 向こうには向こうの事情があるだろうし、別にそこは気にしなくてもいいと思う。

 でも村長さんは、気になるらしい。村長さんは竜族に関して少し知っているようなので、何も知らない私には感じえない物を感じて言っているのだろう。


「……警戒は怠らないようにしましょう」

「ああ。何か異変があればすぐに知らせるようにしとくれ」


 そこからは、ルレイちゃんが荷馬車から顔を覗かせて周囲を広く見渡す事になった。更にハルエッキの隣にはサンちゃんが座り、こちらも周囲を警戒してくれている。

 でも特に何もない。竜というとティラノサウルス的な物に翼の生えた、大きな化け物を想像する。けどこんな長閑で平和な空を、そんな物が飛んでいる姿は全く見る事が出来ない。

 あまりに平和すぎて、そもそも本当に竜がいるのかどうかという疑いを持ち始めてしまう。


 私の勘も捨てたものではなくて、そこからまた数日程進んでも竜とは遭遇せず、そしてそのまま辿り着いてしまった。


 竜族が住まうという場所には、巨大な門があった。それはラーデシュで見たような門とは比べ物にならないくらい大きな石の門で、その門全体に角の生えた化け物──頭の中で想像した通りの立派な竜の姿が彫刻されている。

 その門は片方が破壊されていて、人の力では到底開く事が出来そうにない門を通る事が出来てしまう。

 馬車は一旦外に置いておき、馬車と馬はグヴェイルに任せておく事にした。他の皆で崩れた門の瓦礫を超えて、その中を見て、私達は絶望する事になる。


 門の奥には、町が存在した。石で出来た建物が並んでいるけど、しかし大半が破壊されている。天井から落ちて来た岩や、そもそもクレーターのような物が出来てそこにあったと思われる物が消滅している場所もある。しかし何よりも凄かったのが、それらを飛び越えた先だ。

 そこにはポッカリと巨大な穴が開いていて、町が続いていたはずのそこを丸々と消滅させ、美しい空を見せている。ここは切り立った山の一部のはず。それを何かが起きて町と山を丸ごと消滅させて、この光景を作り出したと思われる。


「……災厄の殺戮」


 リズが呟いた。

 私もそれは経験した事がある。災厄が起こすという殺戮は、その場にいる生物は勿論、物体までも吹き飛ばして跡形もなくしてしまう。あの悲劇が、この場所でもおこったのだ。


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