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検問


 この世界に来てから、しばらくの時間が経過した。色々な経験もした。


 その中で、私は自分が段々と変わっていくのを感じている。まず男嫌いに関して、最初よりもかなり緩和されている。それは一緒の時間を過ごした男が、優しかったり面白かったりと、個性溢れる人間だったかもしれない。

 この世界には、こんな男もいるのだと。そう感じる事によって私の男嫌いが緩和された。


 家族に関しても、そう。私は自分の家族を恨んでいた。家族はいつか裏切る物だと考えていた。

 だけど、家族に関しては私が過去を封印している事が原因だ。新しい家族に関しては、語るまでもない。アレはゴミクズだ。

 でも……本当の家族に関してはどうか。私は本当の家族との思い出を、夢をキッカケにして少しだけ思い出してしまった。思い出すと、心が痛くなる。少し思い出しただけなのに、凄く痛い。


 一方で、少し思い出しただけなのに、家族とはこんなにも温かいものだったんだなと、そう思ってしまう。


 サンちゃんとグヴェイルのやり取りを前に嫌悪感を抱かなかったのは、これまた私がこの世界に来て変わったからだ。


「──す、好きになったのは、子供の頃野良犬から守ってもらった時っすね。その頃はまだあんまり話した事なかったけど、その時のハル君がカッコ良くて……思い出すだけで今でも胸がときめいちゃうっす」

「危機を助けられると、心がときめいてしまいますよね。私も似た経験があるので、よーく分かります」


 サンちゃんは場所を移動し、リズの隣に座っている。リズを挟んで、私とサンちゃんが座っている形だ。

 2人は道中コイバナで盛り上がっていて、とても楽しそう。


 2人はもう、すっかり打ち解けている。恋が2人を仲良くさせ、可愛い光景を作り出してくれている。


「ぐがー……ん。んぅー……ついたか?」


 ルレイちゃんが起きて、皆に向かってそう尋ねた。

 ラーデシュを出てから、それなりの時間が経過している。けどよく考えれば、目的地までってどれくらい離れているのだろう。


「着く訳ないだろ」


 ルレイちゃんの質問に対し、村長さんが呆れ気味に答えた。


「よく考えたら、竜族の……なんつったっけ。えー……ヴィ、ヴィヴィヴィ山?」

「ヴィレンビー山」

「それ!ヴィレンビー。て、ラーデシュからどんくらいなんだ?」

「まず、ラーデシュの位置は分かるかい?」

「ああ、知ってる。魔族の領地と隣り合った、平原地帯だ。昔は人間側の領地を魔族から守る要塞的な意味合いがあったとか、サリアばーちゃんが言ってた」

「その通りだ。ヴィレンビーはラーデシュから出て魔族領に沿って北に進んだ先にある。道中いくつか村があったはずだけど、今は存在しないだろうねぇ。竜族は山の中に都市を作り、そこで他種族の干渉を受けずに閉塞的な暮らしをしている」

「そこまでかかる時間は?」

「このペースなら、おおよそ一週間と言った所か」

「なげぇなぁ。まぁ寝てれば着くか」


 ルレイちゃんのおかげで、私が聞かずとも知りたかった事が聞けた。一週間、か。村長さんの村を出て、ラーデシュまでかかった時間とまた同じ時間がかかるって事か。長いなぁ。元居た世界なら、大概の場所は1日で移動する事が出来たから余計に長く感じてしまう。まぁない物に縋っても仕方がない。馬車に乗っていれば目的地に着くのだから、歩く必要がない分楽だと思おう。


 ルレイちゃんは質問が終わると、再びゴロゴロとし出した。さすがにこれ以上眠る気はないようで、横になっただけだ。


「……にしても、なんか仲良くなってんな」


 ルレイちゃんが、リズを挟んで座る私とサンちゃんを見て、そう呟いた。


「ちょ、ちょっと、ある話題で盛り上がって……」

「ふーん。……よっと。んじゃ、オレも混ぜろよ」


 サンちゃんの返答を聞くと、ルレイちゃんが片手を軸にして逆立ちをし、背中をそらして真後ろに足を下ろしてブリッジのような態勢をとってから、上半身を起こして立ち上がった。凄い運動神経だ。

 それから私の下へとやってくると、私の隣に座り込んだ。肩に手を回され、ベッタベタにくっついてビキニのおっぱいも腕に擦り付けられる事になる。


「む……」


 すると、対抗するようにリズが私の腕に強くしがみついてきた。


「あ、ああ……る、ルレイさん、それはマズイっす……」

「あ?何か変か?」

「へ、変とかじゃないっすけどー……」

「ならいいじゃねぇか!オレとシズは、ダチだからな!あはは!」


 リズと私との関係を理解しているサンちゃんが心配しているけど、ルレイちゃんは何も理解できていないように笑い飛ばす。たぶんルレイちゃんは、恋愛とは無関係の場所で生きて来たんだなと、しみじみ思う。

 でもそんな無知なルレイちゃんも、可愛いと思う。おっぱいも小さいながらいい感触だし、私はいつでも大歓迎。

 ……ただ、リズの視線がちょっと怖い。


「そういやシズよ。お前、刀の使い方って知ってんのか?」

「刀の使い方……?」

「そうだよ。オレと戦った時も、災厄の欠片と戦った時も、お前ずっと素手だったじゃねぇか。だから、武器の扱いは大丈夫なのかと思ってな」


 ルレイちゃんの視線が、私の横に置かれている『千切千鬼』を向きながらそう尋ねられた。

 確かに私は武器の扱いとかは知らない。前の世界でも、この世界に来てからも武器を持ったのは初めての経験だ。


「わ、分からない、です」

「刀の扱いに関しては、グヴェイルが詳しい。奴に聞くといいぜ」


 気軽そうにそう言われるも、私は男に教わりたくはない。だいぶ慣れて来たとはいえ、そこまで距離を詰める気はないので嫌だ。


「だ、大丈夫。私、大体分かります」

「そうなのか?さっすが黒王族だぜ!」


 嫌なので、私はルレイちゃんのアドバイスを断った。

 一応、時代劇とかで刀の扱い方は見ている。だから、大体は分かる。分かるけど、出来るかと聞かれれば出来ないと答える。

 まぁサリアさんも言っていたけど、素手で戦うのにも限界がある。サリアさん曰くとても頑丈だという事なので、戦いの最中で両腕が砕けて戦闘不能になる事も避けられるかもしれない。

 こんなに細いのに、本当に大丈夫なのだろうか。ちょっと不安だけど、それはこの先に待つ戦いの中で明らかになるだろう。


「──み、皆さん、大変であります!」


 そこへ突然、馬車を操るハルエッキが幕を開き、大きな声で荷馬車に乗っている私達に向かって訴えかけて来た。

 その訴えを聞き、すぐに村長さんが立ち上がると幕から外に出て御者席に座った。


「……どこの連中だ?」

「自分の目には、人間に見えますね。検問でしょうか」

「こんな所で検問なんてする意味がないだろう。……何が目的かは知らないが、数はそう多くない。全員戦う準備をしておきな。もし連中がアタシ達に危害を加えようとするものなら、反撃するよ。なるべく静かに、穏便にね」


 村長さんの呼びかけに、私達に緊張が走った。私も幕から顔を出して覗いてみると、道の先に人の集まりが出来ていて、道が塞がれている。そこにいる人々は鎧を着こんでおり、腰には剣も確認出来て武装している事が確認出来る。傍には簡易的な建物が建てられていて、ちょっとした拠点まで作られているようだ。

 向こうもこちらに気付いたのか、慌ただしく動き出して私達に向かって手を振り、こちらに来るようにと指示をしているようだ。今ここから逃げ出そうとしたら、彼らはたぶん追いかけてくるだろう。そうなると更に面倒な事になる。

 なのでその指示に従うかのように、ハルエッキによって荷馬車はゆっくりと武装集団の方へと向かって進んでいく事になる。


「こっちだ!ここで止まれ!」


 武装した兵士の1人の指示に従い、馬車が止められた。止まった馬車にはすかさず兵士が駆け寄って来て、取り囲んで来る。

 といっても、やる気がなさそうにダラダラとした動きで、緊張感はない。とりあえずいきなり襲われる事はなさそうで、一安心だ。


「人間と、魔族?珍しい組み合わせだな。どっちかが奴隷なのか?」


 武装している兵士の中の、年長者っぽい男が私達の荷馬車を引く馬を撫でてあやしながら、村長さんに尋ねた。たぶんこの人が、兵士達の隊長なのだるう。一人だけ腕章がついていて、分かりやすい。

 魔族と人間の組み合わせでどちらかが奴隷に見えるのは、この世界ではセオリーらしい。ただ、聞き方的に割とどうでもよさそうだ。


「いいや。アタシらは仲間だ。アンタらはどこの所属だい?」

「ルウェン鉱山王国の者だ。確かに現状条約はあってないような物になっているが、少しは気にした方が良いのではないか?ここは一応、人族の領域だぞ。魔族に堂々とうろつかれては困る」

「忠告は受け取っておく。それより、ルウェンはもっと東寄りの国だろう。こんな所まで来て一体何をしてるんだい?見た所、検問という訳でもないだろう?」

「その通りだ、ご老人」

「……」


 老人と言われて、村長さんが黙った。これ多分、ちょっと怒ってる。反論しようとしたようだけど、拳を握ってぐっと抑え込んで務めて穏やかに会話を続ける。


「我々はここで、人間や魔族がこの先に進まぬように見張っている」

「ほう。それは何故だい」

「その前に聞きたい。貴殿らは何故この先に進もうとしているのかを」

「竜族に会いに行く途中さ。アタシ達はガランド・ムーンに所属する者でね。災厄を倒すのに竜族の力が必要なんだよ。それで直接会って、助力を願い出ようと思ってね」

「が、ガランド・ムーン……!?人間も入ってるのか!?」

「いや、待て。確か今は、ラーデシュの魔物と戦闘中って噂だ。魔物との戦い中に、こんな少人数だけで竜族の所に行くってのはおかしい」

「じゃあ……嘘?」


 村長さんの話を聞き、周囲のやる気がなさそうだった兵士たちが一気にざわめきたった。

 ガランド・ムーンが有名な組織だと、よく分かる現象だ。

 しかし彼らの会話に聞き耳をたてると、私達が嘘をついている事になってしまったようだ。嘘だと思われても別に困る事はなさそうだけど、疑われるのは気持ち良くはない。


「お前達が本当にガランド・ムーンの者かどうかなど、どうでもいい。一つだけ確かなのは、竜族に会いに行くと言うならここを通す事は出来ない。ガランド・ムーンの者は尚更だ」


 ざわめく兵士達の声を遮るように、年長者の兵士が強めにそう言い放ってきた。

 竜族に会いに行くのがダメで、ガランド・ムーンに所属していると尚更通してくれないって、どういう理由があったらそうなるのだろう。私は荷馬車の中で首を傾げるのであった。


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