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武器を手に


 竜族とは、文字通り竜の族である。大空を自由自在に飛び回る、羽のはえたトカゲのような大きな生物で、その体は固い鱗に覆われている。そう教えてくれたのは、リズだ。

 私はこの世界に来たてで、この世界の常識がまだよく分からない。色々と知識は得てきてはいるけど、まだまだ知らない事はたくさんありそうだ。

 それにしても、次は竜か。ウプラさんの逸話で、その剣で固い竜の身体を砕いたという話があった。いるんだなとは思っていたけど、改めて竜がいる世界に自分がいるなんて、凄い事だと思う。


「ラーデシュの次は、竜族の所に行けって?さすがに冗談だろ?竜族ってのは、オレ達人間の天敵みたいな存在だぞ」


 おじさんが、そう言ってサリアさんに食って掛かった。

 おじさんの言う事が事実なら、私の知っている、空想の竜と合致する気がする。

 竜は、私が元居た世界では空想の中でのみ存在し、いつも人と争う存在だった。特にファンタジー系のゲームの中では定番の敵キャラで、主人公にとっての天敵だ。


「それは人族に限らんやろ。エルフにとっても、魔族にとっても天敵みたいなもんや」

「竜族は他との交流を嫌う。他の種族がその領地に侵入すれば、業火で焼き払われた上でその報復に、大量の竜が町に飛来する事となる。竜一体で、小国一個分の軍隊に相当すると言われていて、刺激するのはとても危険な存在だ」

「そうやね」

「その危険な連中に会いに行けと、アンタはアタシ達に言ってるのかい」

「勿論それには訳があります。災厄に近づきすぎた者にもたらされる、精神攻撃ってあるやろ。実はな、『竜の咆哮』がそれを打ち消す効果があるみたいでな。ウプラ達には竜族の戦士をガランド・ムーンの仲間に引き入れてほしいんや。出来れば、たくさんな」

「無理だ」


 話を聞く限り、竜とは会うだけでも危険な存在だ。いくら理由があるからと言って、そう簡単に近づいていい者ではない気がする。

 加えてそれを仲間に引き入れろとか、更に無理だ。無理すぎて、村長さんが無理だと即答した。


「その通りです、サリア様。新人であるこの者達にその任は務まりません。しかし、このオレならサリア様のご期待に必ずやお応えしてみましょう!」


 私達には無理だと言い、自分なら期待に応えられるというグラサイ。

 何故か分からないけど、私は無理だと思うな。この人を行かせたら、最悪の結果になる気がする。


「うん。また今度頼むわ」


 サリアさんはそう言って、グラサイを軽く流した。否定も肯定もしてないけど、明確に拒否している気がする。


「頼むよ、ウプラ。あんさん達なら、きっと上手くいく気がするんや」

「……昔、アンタが大丈夫と言って竜族の縄張りの近くを通り過ぎた時、襲われたよね。奴らは話も聞かず間髪入れずにアタシ達に炎を放って消し炭にしようとしてきやがった。奴らの狂暴性を、アンタは知っているはずだ。まずは手紙を出すなりして許可を得る必要がある。じゃないと、衝突して終わりだ」

「うん。せやから文は出したよ。返事はないけどな」

「それはダメって事だろう……」

「返事がないっちゅー事は、許可を得たようなもんやろ」


 呆れる村長さんに、サリアさんは笑いながら言う。

 それは許可を取った事にはならいと、私も思う。


「……災厄を倒すために、竜族の力が必要、なんですよね」


 するとリズが間に入ってそう尋ねた。

 そのリズの目は、輝いている。『災厄を倒すために必要な事──』。そんな魔法の呪文が、彼女を突き動かして盲目にさせている。


「せやね。災厄と戦うなら、必ず必要になる戦力や」

「なら、やります」

「正気かよ、リズリーシャ様!竜族は本当にヤバイって、オレでも知ってるぜ!?」


 私と同じで、常に無知系のポジションをとっていたウォーレンが、リズに食って掛かった。


「私達の目的は、ガランド・ムーンに入る事ではありません。災厄を倒す事です。災厄を倒すためなら、私はどんな事だってします。地獄にだって飛び込みますよ」

「……」


 リズが強くそう言い切ると、皆は黙り込んだ。

 リズはきっと、この中の誰よりも本気で災厄を倒そうとしている。だから、どんな危険な仕事だって受けてしまう。とても危うい事だと思うけど……でも、私はどこまでも付いていこうと思う。


「わ、私も……ついて行きます。地獄にも」


 リズに賛同すると、リズが嬉しそうに私の手を握って来た。


「……仕方ないね。でも例え失敗して竜族とガランド・ムーンと戦争になったって、責任はとらないからね!アタシ達のせいにはするんじゃないよ!」


 頭を掻きむしりながら、村長さんも竜の下にいく覚悟を決めたようだ。やけくそ気味に怒鳴りながらそう言った。


「リスクがある事は承知しとる。例えどういう結果になろうとも、ウプラ達を責めるつもりはないから安心し」

「なら、いいだろう……。という訳だ。ラーデシュの次は、竜族の所に行くっていう目標が出来ちまった。次の旅は、ここに来るまでの旅とは比べ物にならないくらいの危険が待ち受けている。覚悟しときなよ」

「……ガランド・ムーンの次は、竜族か。とんでもない事になって来てしまった。まぁここまで来たら、もう逃げるつもりもない」

「全員やる気満々かよ……あー分かった!オレも行く!」


 村長さんがやる気になったのなら、行かなければいけない。おじさんとウォーレンも、遅れて覚悟を決めてついてくると意思表明をした。


「いいや。カークスとウォーレンは、留守番や。竜族の所に行くのは、シズとリズリーシャと、ウプラ。それにルレイとー……魔族のもんも数名同行させよか」

「オレも?」

「せっかくの機会やから、同年代の女の子と交流しとき。それに外の世界を見て、見分を広めるチャンスでもあるどす。遊びではないけど、楽しんでき」

「お、おう!よろしくな!」


 ルレイちゃんも旅に同行する事になり、私は歓迎だ。リズも笑顔で迎え入れている。


 一方で、ウォーレンとカークスは不安そうにしている。サリアさんに留守番と言われ、じゃあ2人は留守番して何をするのかという話だ。


「そんな子猫みたいな顔をせんでいいよ。二人には、後方支援の仕事を覚えてもらいたくてな。ウプラ達が竜族の所に行っている間、しこんだる。グラサイが」

「オレがですか!?」

「ダメ?」

「……いえ。このグラサイ、全身全霊をもって、この二名に仕事を覚えさせてみせましょう。グハ、グハハハハ!」


 グラサイは、高笑いをしてみせた。その笑いには悪意も込められており、その悪意を感じ取ったおじさんとウォーレンの表情が強張っている。


「おー、凄い気合やなぁ。頼りにしとるで、グラサイ」

「お任せください!」


 更にサリアさんが追い打ちをかけて、グラサイのやる気がみなぎっている。

 コレ、おじさんとウォーレンにとっては最悪の展開に近いと思う。よりによって、教えるのがグラサイかー……。虐められなければいいけど。あまつさえ、殺されたりしなければいいけど。

 まぁたぶん、きっと、恐らく大丈夫だろう。


「い、嫌だぁ!オレはリズリーシャ様達と一緒に行くからな!絶対に行く!」

「まぁそう言うな、人間。残って、オレと仲良くしようや」

「っ!」


 ウォーレンが、グラサイの大きな手で頭を捕まれて固まった。ここで下手な発言をすれば、恐らくウォーレンの頭が無くなる。それが分かっているから、ウォーレンは黙る。


「うちとも、仲良くしよな?」

「ひっ、ひぃぃぃ!」


 そこへサリアさんが色っぽく下手な発言をすると、グラサイの手に力が入った。ウォーレンの頭が、潰されて縮まっていく。


「ああ、それと、シズ」

「は、はい」


 ウォーレンの事はほったらかしで、サリアさんが私の方を見て、私の名を呼んできた。

 なんだろう。別に悪い事はしてないけど、怒られるのかなとドキドキしてしまう。


「これを持ってき」


 そう言ってサリアさんが私に向かって差し出したのは、鞘に納められた刀だった。


 ──千切千鬼。


 災厄の欠片の中から出て来た刀だ。鞘がなくて危ないし、拾った物で私の物でもないのでサリアさんに預けていたけど、鞘に納められた状態で私に向かって差し出された。


「合いそうな鞘を、コレクションの刀から探しておいたんや。ちゃんとした鞘は吐くっといたるけど、とりあえず今はコレで我慢してな。これなら安全に持ち運べるやろ?」

「……」


 私は刀に興味はない。だからサリアさんに預けていたんだけど、返ってきてしまった。

 黙って受け取るも、武器を使う機会なんてあるのかなと思う。私は武器を持たず、自分の肉体のみでこれまで戦って生き延びてきたのだから。


「武器は、ちゃんとした物をちゃんと持った方がええ。特にシズみたいに強い力を持つ者には一級品以上の物が必要や。戦闘スタイルにもよるやろうけど、シズは武器を用いて戦った方がええと思う。戦闘中、素手で攻撃を受け止めて骨を折って、戦えなくならんようにするためにもな」


 確かに、武器があれば攻撃を受け止める事が出来る。腕やらを犠牲にする必要はない。でも代わりに武器がダメになってしまう気がする。こんな細い刀、サリアさんの攻撃を受けたらポッキリといってしまわないか。


「こ、これでサリアさん、の攻撃を受け止めたら……」

「ああ。千切千鬼は折れへんよ。その刀は、名刀中の名刀や。シズの力と釣り合っていると思う。せやからこれは、シズが持っておくべきや。千切千鬼も、エルフに持っていられたくはないやろ」


 そう言い切られると、受け取るしかない。私は差し出された刀を握りしめ、サリアさんから受け取った。


 なんだか、今日見た夢の内容を思い出すな。


 私の小さな頃の夢は、世界中の皆を救うヒーローになる事だった。更にハイパーメガソードという玩具の刀を父にねだり、その刀を使って戦う気でいた。

 刀を受け取り、この刀でこの世界を救うための戦いに身を投じようとしている。この状況が、まるで小さなころの夢が叶ってしまったようだ。この世界は、私の夢をいくつも叶えてくれる。

 いや、それはまだ気が早いか。叶ったというのは、災厄を倒して本当にこの世界を救ってからの事を言う。


「ひいいぃぃ……!」


 そう考える私の傍で、ウォーレンの頭が縮まり続けている。


「……ふふ」


 それがなんだか面白くて、笑ってしまった。

 本当に、この世界はなんなのだろう。


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