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醜い物


「さ、サリア、様……?相変わらず美しい姿で何よりだが、その人間の男は……?」


 ウォーレンを抱いて出てきたサリアさんを見て、魔族の男が震えた声で尋ねた。

 明らかに、取り乱している。


「ああ、この子?昨日酔いつぶれてしもてなぁ。それでうちに抱き着いて離れんから、一晩お世話をしてあげたんや。可愛いやろ?」

「し、しかし!人間の男ですよ!?あの、人間ですよ!?」

「関係あらへんよ?だって、うちが仲間と認めたんやから。シズも、リズリーシャも、カークスも、ウォーレンも、ウプラも。ここにいる人間は、正式にうちが仲間と認めた人間や。文句があるなら、うちに言えばいいどす」

「っ……!」


 魔族の男は、黙り込んでしまう。人間を仲間にする事に対する文句よりも、サリアさんが抱いているウォーレンが気に入らないという様子だ。気に入らないというか、汗を流してとても取り乱している。

 もしかしたらこの男は、サリアさんが好きなのかもしれない。それで、サリアさんと一晩共にしたというウォーレンに嫉妬している。そんな感じか。


「あ、あれ?ここどこだ?」

「お目覚めどすか?昨晩は、うちの胸の中で気持ち良さそうに寝とったな?」

「は、は?サリア、様!?ど、どうしてオレ、抱っこされてんだ!?ていうか裸!どういう状況だ!?」


 サリアさんの腕の中で目覚めたウォーレンは、パニック状態に陥って暴れ出すと、サリアさんの腕から飛び降りて地面に立った。そして、皆が注目している中でその醜い体の全てを曝け出す事になる。


「はぁ……」


 まるでミミズのように醜いそれを見てしまった私は、ため息を吐いた。ミミズを見たら私は落ち込むけど、ウォーレンのそれも中々の衝撃だ。正直言って、ミミズ以上の衝撃だったかもしれない。

 慌てて股間を隠したものの、遅すぎる行動だ。この場にいる皆が、それを目撃してしまった。


「あっはっはっは!」


 それを見て、ルレイちゃんが爆笑している。


 リズは少し顔を赤くして、初心な反応を見せている。可愛い。とても可愛い反応だ。他の皆もそれぞれ別の反応を見せてはいるけど、その姿を見て笑ってしまっている者が多い。

 ウォーレンのその行動のおかげで、それまでギスギスとしていた空気が少し和んだ気がする。本人は意図してはいないだろうけど。


「ま、そういう訳やから、皆新しい仲間をよろしゅうな」


 その空気を利用してサリアさんがそう言うと、全てが丸く収まった。気がする。

 ウォーレンに対する、魔族の男の視線が厳しすぎるけど、たぶん大丈夫だろう。あと、私の彼を見る目も厳しい。あんな醜い物を見せた彼には、いつか報いを受けさせたいと思う。




 ラーデシュを訪れた魔族達は、サリアさんとルレイちゃんの家の周りでキャンプを張り出して、閑散としていた町が少しだけ賑わいを取り戻した。


「──ちゅー訳で、コレが全部やないけどガランド・ムーンの本隊が、魔族を主力としたこの隊や。それでコレが、本隊を率いる魔族のリーダー、グラサイ・ムルシアンや」


 先ほどの魔族の大男が、私達の前に立って服を着たサリアさんに改めて紹介される。

 場所はサリアさんの家の前の、外だ。紹介されたグラサイという男は、デカすぎて建物の中に入れないから。


「……」


 グラサイは腕を組んだまま、喋らない。そしてずっとウォーレンの方を睨み続けている。


「……」


 その視線に、ウォーレンは勿論気づいている。怖いおじさんに睨みつけられ、すっかり委縮して小さくなっているその姿は、ちょっとかわいそう。

 でもサリアさんと色々してしまった訳だし、その代償と思えば安いものだろう。


「グラサイに喧嘩を売ったのが、カークス。昔仲間を魔族に殺された、魔族嫌いの男でな。それで魔族に対する当たりは一際強いんや」

「……」


 おじさんは、頭を掻いて誤魔化すようにその紹介を受け流した。

 グラサイももうおじさんにさして興味はないようで、とにかくウォーレンを睨み続けている。


「で、そっちのかわええ男の子が、ウォーレン」


 しかしウォーレンが紹介されると、その目つきが一際悪くなった。額に浮き上がった血管は、もうはちきれてしまいそう。


「そうか。よろしくな、ウォーレン……!」

「よ、よろしくお願いしますぅ……」


 ようやく喋ったと思ったら、振り絞るような低い声で、内容はともかく声でウォーレンを威嚇している。

 ウォーレンはそれに対して目も合わせずに小さな声で返し、2人の自己紹介は終わった。


「それで、そっちがウプラ。うちの古い友人でな。うちと組んでいた事もあって、その実力はお墨付きやで」

「サリア様と!?どうりで……」


 何がどうりなのだろうか。確かに村長さんは、信じられない力を持っている。けどグラサイの前でその力は見せていない。何も情報がないはずだ。


「だから、それは昔の話だ。今は見ての通り、老いぼれたか弱い乙女だよ」

「謙遜はよせ。貴様の身の振るまい方で、タダ者でない事くらいオレには分かる」


 村長さんの強さを、姿を見ただけで見破ったグラサイはちょっと凄いと思った。

 それに対し、村長さんは鬱陶しそうに手を振って応える。これ以上つっつくなという意味だ。


「そんで、そっちの二人が、リズリーシャと、シズや」


 最後に隣り合って立っている私とリズが、サリアさんによって紹介された。


 どうでもいいけど、サリアさんは私達の名前の後に、『はん』を付けなくなっている。それは仲間と認められてからだと思う。

 些細な事ではあるけど、仲間と認められたみたいでちょっと嬉しい。


「……一人は魔術師だな。強力な魔力を感じる」

「先ほどは失礼な物言いをして、申し訳ございません。お察しの通り、私は魔術師です。魔法には多少自信があります」


 リズが申し訳なさそうに頭を下げながら、グラサイに自己紹介をした。


「分かっている。わざとオレに襲わせ、実力を示そうとしたのだろう?」

「その通りです」

「分かってたなら挑発に乗るなよ……」

「分かってても挑発されたら乗らずにはいられん」


 ルレイちゃんに突っ込まれるも、グラサイの返答はこうだった。

 まさに脳筋思考で、その見た目と合致する。

 というかリズ、わざとだったんだ。どうりでらしくないと思った。でもなんか、妙に似合っていたというか……あんな風に私がリズに言われるのを想像すると、ゾクゾクする。なんだろうこの気持ち。


「……そっちの娘は、一体何者だ?」


 そして改めて私の方を見てきたグラサイが、神妙な面持ちで尋ねて来た。


「し、シズ、です……」

「名はもう聞いた。角は生えているが、魔族ではないな。いやそれよりオレの突進を押さえたあの力は、何だ。そっちの……ウプラが貴様程の力を持っているならまだ分かる。だが貴様は違う。貴様の振る舞いはその全てがまるで素人で、武人とは思えん。それでいて、あの力だ。オレが今まで見てきたどの強者ともまるでタイプが違うが、間違いなく強者」

「聞いて驚け、グラサイ!シズは泣く子も黙る、あの黒王族なんだぜ!」

「……」


 ルレイちゃんが呆気なくバラすと、グラサイが驚いた表情を浮かべた。それから、心なしか私からちょっと離れて距離を取り、ビクビクとし出す。


「ん。どしたグラサイ」

「こ、黒王族……!確かに話に聞いた通りの見た目だ。黒髪に、闇のように黒い目と、二本の真っすぐに生えた角……。正しく黒王族!ひぃ!」


 グラサイは頭を抱え、私と目が合うとその巨体に見合わない可愛らしい悲鳴をあげた。

 完全に、私にビビリ出している。体の大きな男がビクビクしていると、何だか気持ちが悪い。


「魔族は特に、黒王族に関しての伝承が多いからなぁ。子供も大人も、黒王族の伝説を嫌という程言い聞かされて来たせいで畏怖の対象となっとるんや。ちなみにシズは、リズリーシャが異世界から呼び寄せたんやで。主人のリズリーシャに噛み付こうとしたら、シズに噛み付かれるから気を付けるように」

「っ……!」


 グラサイはサリアさんの警告に、黙って勢いよく縦に頷いた。

 これでリズが、グラサイに襲われたり嫌がらせをされる事はなくなった。される予定があったのかも分からないけど。


「ふ。まるで夜中幽霊に怯える子供のようだな」

「なんだと!?」


 ビクビクとしてはいるものの、おじさんのバカにするような言葉にはすぐさま反応を見せた。


「グラサイ?」


 しかしサリアさんに睨まれると、慌ててその怒りを引っ込めて突っかかるのをやめた。

 一方でおじさんの方も、村長さんにちょっとだけ怒られている。黙っとけって。


「紹介が終わった事やし、話を進めるで。ここに戻ってきたっちゅー事は、災厄の欠片は倒せたみたいやな?」

「ええ、勿論!ついでに周辺の魔物も殲滅し、サリア様の下へ帰ってまいりました!」


 自分の功績をサリアさんにアピールするかのように、大きな声で言うグラサイ。


「ようやったね」

「サリア様こそ、さすがです!この町、ラーデシュにいた災厄の欠片は他とは違う!それをルレイとたった二人きりで倒してしまうとは、このグラサイ感服いたしました!」

「倒したのはうちやないで。この町を魔物から解放したのは、ウプラ達や」

「なんだと……!?いや、しかし黒王族も一緒ならそれくらい出来ても当然か……」


 そう聞いて、グラサイは驚いた顔をした。直後に私の存在を思い出し、その驚きはなくなる。


「グラサイ達の方も災厄を倒せたみたいやし、そろそろ他の連中も戻ってきそうやなー……」


 サリアさんは笑みを浮かべながら呟くように言うと、周囲を見渡してからやや時間を置いてから口を開く。


「それじゃ、シズ達には竜族の所にいってもらおかな」


 口を開いたサリアさんは、そんな事を言った。


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