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してしまったという事


 この廃墟の町に訪れたのは、ルレイちゃんの言う通り大勢の魔族だった。人の姿はしているけど、皆頭には角がはえ、体格も人を超えたり逆に小さな者もいる。角は動物の物と同じような感じで、種類は様々だ。ヤギの角だったり、鹿の角だったり牛の角だったりという感じに。どうやら魔族の特徴は、角のようだ。だから皆、私の頭に生えた角を見て魔族だと勘違いした訳だ。ちなみに角だけではなく、中には背中に翼の生えている人もいる。

 そんな軍団が、堂々と町の真ん中を歩いてやって来た。皆武装していて、迫力がある。


「……ぺっ」


 魔族の軍団を前に、おじさんが唾を地面にむかって吐き捨てた。

 おじさんは、エルフであるサリアさんは認めた。でも魔族に関してはまだ認められていないようだ。今の唾は、魔族に対する悪態である。


「まったく……子供みたいにオラついてんじゃないよ」

「あだっ」


 そんな悪態を咎めたのは村長さんだ。背後からおじさんの頭を叩き、おじさんが頭を押さえる。


「グハハハ!」


 そんな軍団を率いるように歩いてきた男が、高笑いをしながら私達の方へと歩み寄ってくる。

 男は、巨体の持ち主だ。ラグビー選手とか、そういうレベルじゃない。明らかに人を超えた巨体で、身長はたぶん3メートルくらいある。頭の上には闘牛のような先端が鋭く尖った角が2本生えており、刺さったら痛そう。手足はリズの身体くらい太くて、何をどうしたらそんなに筋肉がつくのかと聞きたくなるくらい発達している。髪の色は藍色で、背中はその髪の毛で覆われている。角は牛なんだけど、背中を覆う髪の毛は馬のたてがみのように見えなくもない。編み込んだりしたら、オシャレになりそう。


「久しぶりだな、ルレイ!」

「おう!相変わらずデケェな、グラサイ!」


 私の隣には、ルレイちゃんがいる。魔族の男はルレイちゃんに向かって歩いてきたので、ルレイちゃんの隣にいる私も当然のように巨体に至近距離から見下ろされる形となる。


「グハハハ!貴様な相変わらず小さいな!もっと食って、もっとデカくなれ!」


 魔族の男はいちいち高笑いをしてうるさいし、そもそもの地声がデカくてうるさすぎる。距離を縮めて喋られると、耳を塞ぎたくなってしまう。


「──それで、何故人間がここにいる」


 急に空気が変わった。それまでしていた高笑いはせず、魔族の男の目がギョロリと動いて私の横のリズを睨みつける。

 まるで、その目でリズを射殺さんがごとくの鋭さだ。そんな目で睨まれたリズだけど、でもリズは強い。その目を真っすぐに見返しながら、むしろ一歩前に出て男に自ら近づいた。


「お初にお目にかかります。この度ガランド・ムーンに新しく入る事になった、リズリーシャ・ユーリストと申します」

「ガランド・ムーンに、入る事になった?人間が?」


 魔族の男が、不思議そうにルレイちゃんの方をみて真偽を確かめる。


「ああ。ここにいる人間達は、間違いなくガランド・ムーンに入る事になった仲間だ。サリアばーちゃんが認めて、そう決めた」

「グハハハ!それは笑えぬ冗談だ!」


 ルレイちゃんの返答を聞いた魔族の男の目つきが、一際厳しくなった。笑い飛ばしてはいるけど、表情は笑っていない。むしろ殺気のような物を放ちだし、今にもリズに手を出してきそうな雰囲気となる。


「人間など仲間に受け入れても、ろくな事がない!人間は仲間をすぐに裏切り、卑怯で姑息で弱く、使えん!サリア様は何を考えているのだ!」


 どうやらこの人は、人間が嫌いのようだ。

 おじさんが他種族を嫌うのと同じように、この人は人間を嫌っている。


「本当にそうだぜ。サリア様は何を考えてんだ?魔族は狂暴で、理性のふっとんだ怪物だ。そんなのを仲間にしたってろくな事にならねぇよ」

「ああぁ?」


 魔族の男に対抗して、少し離れたところにいるおじさんがそんな事を呟いた。魔族の男はもちろん、おじさんの方を向く。その額には血管のような物が浮き上がっており、本気でお怒りのご様子だ。

 私としては、魔族の男がリズから目をそらしてくれたので一安心である。あとはおじさんに任せておこう。


「聞き間違いじゃなければ、お前今魔族の事をバカにしたなぁ!?」

「先に人間をバカにしてきたのはどっちだ?」

「人間はいいんだよ!人間はそういう生き物だ!」

「魔族だっていいんだよ!魔族はそういう生き物だからな!」

「あははは!こうなると思ったぜ!グラサイは人間嫌いで、おっさんは魔族嫌いだからな!」


 睨み合う2人を見て、ルレイちゃんが笑う。笑っている場合ではない。このまま殴り合いの喧嘩にでも発展したら、おじさんが死んじゃうよ。

 というかさすがに喧嘩を売る相手は選んだ方がいい。魔族のこの男は、おじさんよりも遥かにデカく、そして強い。おじさんなんか、指一本でどうにかなっちゃいそうだ。


「……」


 ていうか、よく見たらおじさんの足がちょっと震えている。

 魔族を前にして、昔を思い出して恐怖しているようだ。私も、一時期男という存在に対して同じような現象に陥った事がある。男という存在が怖くて、その存在を傍に感じるだけで震えてしまう。

 さすがに日常生活を送る中で慣れて、震えることはなくなったけど今のおじさんはその時の私のようだ。


 怖いのに、恐怖の根源である魔族に喧嘩を売るなんて、どれだけの勇気が必要な事なんだろう。

 私にも、あの時これだけの勇気があったら、もしかしたら何かが変わっていたのかもしれない。でも過去には戻る事が出来ないので、せめて今のおじさんの勇気を称えよう。心の中で。


「まったく……口だけは達者な男だね。でもアンタのその勝手な発言は、アタシ達全員も巻き込んじまう事を考えてるかい?ハッキリ言って、今アンタが絞り出した勇気は蛮勇と呼ばれる物だよ」

「そ、それは……すまん……」


 村長さんに咎められて、おじさんがしょんぼりとした。


「グラサイもその辺にしといてやれよ。おっさんは人間だけど、良い奴だ。他の連中も、な。だからサリアばーちゃんが認めたんだぜ」

「それはそうかもしれないが、魔族をバカにする人間は許せん!例えそれが仲間であったとしても、魔族に対する敬意を払うべきだ!」

「敬意を払って欲しければ、相手にも敬意を払う必要があると思います。カークスさんに賛同する訳ではありませんが、今の貴方には私も敬意を払う気にはなれません」


 リズは決して怒っている訳ではない。穏やかに、さも当然のように、堂々と正論を言っただけである。


「……生意気だ。生意気すぎる。言っておくが、オレは例え相手が雌であろうと容赦はしない。殺してやろうか?」


 リズみたいな女の子に対して、魔族の男が拳を見せつけながら脅して来た。

 それはあまりにもダサすぎる。ふと気づいたけど、他の魔族たちはこの魔族の男には賛同していない。むしろ私と同じように、そのダサい台詞に頭を抱えて笑ったり、呆れかえっている者もいる。

 どうやら、この魔族の男だけが特別喧嘩早いだけのようだ。ちょっと安心した。


「お、おい。本当にその辺にしとけって、グラサイ」


 さすがに空気が悪すぎて、慌てだしたルレイちゃんが魔族の男を説得し出した。


「ふ……そうだな。人間如きを相手にして熱くなるのは、誇り高い魔族として愚かだ。オレ達魔族には、人間と違って理性があるからな!だから、許してやろう!」


 ルレイちゃんの説得で、魔族の男はその矛を納めた。

 先ほどおじさんに言われた事を気にして、意識して冷静をアピールをしているけど、額には血管が浮き上がったままで我慢している事が丸分かりだ。どんだけ短気なんだろう。


「ふふ。我慢出来て偉いですね。そのまま従順なペットのように、引き下がって隅っこでおとなしくしていてください。暑苦しいので」


 リ、リズさん?どうして喧嘩を売るような発言をしたのかな?


 見てよ。魔族の男がリズを睨みつけ、そして四足歩行になって鋭い角を突き出しながらこちらに向かって突進してきたよ。リズが喧嘩を売ったせいで、ギリギリ耐えていたのが耐えられなくなり、本当にリズを傷つけようとしているようだ。

 でも当然、私が間に入って魔族の男の角を掴み取って押さえつけ、突進を止めた。その際に地面を踏ん張ったため、地面が砕けてちょっと慌てたけど、なんとか止められた。良かった。


「……!?」


 闘牛のように突っ込んできた魔族の男が、止められた事が信じられないといった様子でこちらを睨みつけている。

 でも私が思うに、この突進は全力ではなかった。かなり力が抜かれていて、本気でリズをどうこうしようとしていた訳ではないと思う。ちょっとした、脅しみたいな感じだろうか。それにしては迫力があったし怖かったけど。


「──元気なのはええけど、その辺にしとき。これ以上続けるならうち、怒るで?」


 介入したその声を聞き、魔族の男が慌てて引き下がった。


 そして皆の注目を集めた声の主、サリアさんに皆の視線が注ぐ事になる。

 その姿を見て、驚いた人は多いはずだ。おっぱいの谷間が丸出しで、体のラインがクッキリと映った羽織り姿だったからだ。美しいには美しいけど、更にその腕に抱いている人間の男、ウォーレンに驚く事になる。

 ウォーレンは素っ裸で、一応サリアさんが大事なところは隠してくれているけど、非常に危うい。汚い物が見えてしまいそうで吐きそう。


 そう言えば昨日、酔ったウォーレンをサリアさんに預けたまま解散となったんだっけ。そして今、ほぼ裸の2人がいる……それはつまり、してしまったという事か。


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