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似ている二人


 ご褒美と言えば、皆なら何を要求するだろうか。

 私なら、そうだなぁ。サリアさんを見てみる。サリアさんは、超絶な美女だ。おっぱいはデカイし、その身体は蠱惑的で見る者の心を掴み取って来る。

 そんな彼女になんでも一つお願い出来るとしたら、私なら身体を要求させてもらう。エロい意味で。


 期待しつつ村長さんの要求を見守る。


「リズリーシャとシズだけど、アンタの所のガランド・ムーンにいれてやっておくれ」

「……ふむ」


 村長さんの要求は、そんなつまらない物だった。

 要求を聞いたサリアさんも、つまらなそうにしている。というより、拍子抜けだったという感じだ。


「それはうちの組織の事を理解した上で言っていると判断してええの?」

「勿論だ」

「……なんでも言う事をきくと言っておいてなんやけど、うちの組織は他人の紹介で人をいれるつもりはあらへんよ。本人の意思と、実力をもって判断させてもろとるから、その願いを受け入れるのは難しいどす」

「ならサリア自身で判断しとくれ。実力はもう、見たからいいだろう?この子達は国崩しの災厄の欠片を倒して見せたんだ。実力は間違いなく合格だろう」

「まぁ、そうやね。実力は問題あらへんよ」


 そう呟いてから、サリアさんが私とリズの方を向いた。


「どうしてうちの組織に入りたいと思ったん?」


 そして始まった、面接のような質問。その返答次第で、私とリズはガランド・ムーンに入る事が出来るのだろう。


「……私の夢は、災厄を倒す事です。私は災厄を倒すために、シズと一緒に町を出ました。しかし情けない事に私一人の実力では災厄討伐には遠く及ばなくて……その話をした時、ウプラさんからガランド・ムーンの紹介を受けたのです。災厄討伐に、一番近い組織。それがガランド・ムーンだと聞いています。今は夢の実現から遠い場所にいますが、ガランド・ムーンに入る事で夢の実現に近づけるはずです。夢の実現のため、ガランド・ムーンの目的達成のため、微力ながら組織にいれてもらう事は出来ませんか?」

「──ふふ」


 リズの夢を聞いたサリアさんが、柔らかく笑った。その笑いはどこか嬉しそうだ。


「やっぱりあんさんは、グレイジャの孫どすな。災厄討伐を夢見る者なんて、この世界でもうほんの一握りしかおらんよ」

「祖父を知っているのですか?」

「知っとるよ。かつてウプラとグレイジャとうちとで、世界を駆け抜けた事があるからね。さて、組織の事やけど、シズはんとリズリーシャはんが入ってくれるなら、大歓迎や。でもそのかわり、ウプラとそっちの人間の男二人にも入ってもらうからね」

「なんでオレ達まで!?」

「オレ達はアンタの言う実力不足もいいとこだろうが!」


 実力が必要だと言うなら、明らかに実力不足なおじさんとウォーレンまで入れるのは、どうかと思う。2人が合格なら、大抵の人は入れてしまうだろう。

 私と同じ事を思ったから、2人も文句を言っている。


「なんか、面白そうやから」


 その文句を、サリアさんは面白そうという理由で受け流す。


「……なんでアタシまで?」


 文句を言い出したのは、村長さんもだ。

 いや、文句というより、本当に不思議そうにしている。


「確かに老いたようやけど、戦いに必要なんは実力だけやない。導く者も必要どす。シズはんとリズリーシャはん、それにウォーレンはんとカークスはんには、必要な存在やと思うんや。なにより……うちはな、またウプラと一緒に戦いたいんや」

「……ふ、はは。アタシは老いたっていうのに、アンタは変わらないねぇ!見た目も、性格も!」

「それは誉め言葉として受け取っておくで?」

「ああ、褒めてるんだよ。分かった、いいよ。やってやろうじゃないかい」

「村長!?村はどうするんだよ!村の連中はアンタの帰りを待ってるんだぞ!?」

「なぁに。災厄を倒すまでの短い期間だけ、村を留守にするだけさ。アンタ達も独り身で恋人がいる訳じゃないんだ。アタシに付き合いな!」


 おじさんの懸念を、村長さんは笑い飛ばした。


 サリアさんが村長さんに火をつけてしまったようだ。村長さんは最初、歳だと言って自分はガランド・ムーンに参加しようとは思っていなかった。それが今では、やる気満々だ。そのやる気はおじさんとウォーレンも巻き込んでいる。


「だから何故オレ達まで巻き込む!?オレはもう、危険な事からは引退したんだよ!それにガランド・ムーンなんていう訳の分からん連中の集まりになんて参加したくない!」

「あ?今オレ達の悪口言ったか、おっさん?」


 おじさんの言葉に反応したのは、ルレイちゃんだ。ピクリと眉を動かし、不機嫌そうな顔でおじさんを睨みつける。


「うちらは訳の分からない組織なんかじゃあらへんよ。皆、ただ純粋にこの世界から災厄という存在を消し去りたいと思ってるだけや。カークスはんは、この世界から災厄がいなくなってほしいと思わへんの?」

「……いや、確かにそうは思ってる。だがオレは、人間以外の種族を信用していない。特に魔族には昔、仲間を殺されている。お前達の仲間には、魔族も大勢いるんだろう?」

「……」


 サリアさんは言葉は出さず、静かに頷いた。


「なら、そんな組織は願い下げだ」

「おい、おっさん。魔族は気の良い連中ばかりだぞ。昔仲間を殺されたかなんだか知らねぇが、そんなのお互い様だ。エルフも魔族も、その昔仲間を人間に殺された連中もたくさんいる。それをまるで自分だけが被害者みたいに言うんじゃねぇ」


 ルレイちゃんがおじさんを、至近距離で睨みつけながら言い放つ。初めて会った時のように、一気に殴り合いが始まりそうな空気になってしまった。


 ルレイちゃんや私と話す感じ、おじさんの差別意識は少しは薄らいだかなと思っていたけど、実はそうでもなかったらしい。そう簡単に、人は変われない。過去から逃げる事は出来ない。私もその気持ちはよく分かって、胸が痛む。

 でもなんか嫌だ。おじさんは私を魔族と勘違いしているけど、そんな魔族の私を助けようとしてくれたじゃないか。あのミミズの魔物に襲われた時の話だ。それにリズも、嫌々言いながらもしっかりと身を挺して守ってくれた。ルレイちゃんとも、最初は対立していたけど段々と親し気に接するようになった。


「お、おじ、おじさんは、私の事が嫌い、ですか……!?」


 突然、少し大きめの声で喋った私に、皆の視線が集まる。


「ま、魔族の嬢ちゃんは……嫌いな訳がないだろ。アンタのおかげで、オレはここまで命を救われて来たんだから」


 おじさんは私の問いに、頭を抱えながらそう答えてくれた。

 嫌いではないと、そう言ってもらえた事に私は安心して胸を撫でおろした。私も、男は嫌いだけどおじさんは割と嫌いではない。おじさんも、魔族は嫌いだけど私は嫌いではないらしい。似たようなものだ。


「それが答えじゃないのか、カークス坊や。魔族の中にも、アンタの仲間を殺した者とは違う者がいる。エルフも人間だってそうだ。坊やはもう、卒業しな」

「……すまん、ルレイ。少しだけ、考えさせてくれ」

「……おう」


 ルレイちゃんはおじさんと拳を打ち合うと、睨み合いをやめた。コレで仲直りという事みたい。


「ところで、シズは魔族じゃなくて黒王族だぜ?」

「は、はぁ?黒王族ってお前……あの黒王族か?伝説の?何言ってやがんだ。そんなのとっくの昔にこの世からいなくなったじゃねぇか」

「いやいや、なんで知らねぇんだよ。いくら魔族でも、首と胴体が皮一枚まで剥がれたら死ぬぞ。お前も見ただろう?」

「そ、それは確かに驚いたが……」

「それに腕見ろよ。もう復活してる。魔族の中には再生能力をもった奴もいるかもしれないけど、こんなにすぐには再生しないぜ?シズが魔族って事で済ませるには、色々と矛盾点がありすぎるだろ」

「あ」


 ルレイちゃんに言われて気づいたけど、私の腕がいつの間にか再生していた。手を閉じたり開いたり振り回したりして具合を確認するも、異常はない。その腕をおじさんもまじまじと見てきて、ちょっと気持ち悪くて私は腕で身を隠した。


「ま、そうだね。シズは黒王族だ」

「説明すると長くなるので省きますが……間違いなく黒王族です」

「……」


 村長さんとリズも私の正体をおじさんに伝えると、おじさんの開いた口が塞がらなくなってしまった。

 私が死んでる間、私の正体について説明されたのはサリアさんとルレイちゃんだけだったようだ。その前は特に説明する必要もなかったので、私もリズも言わずにここまで来た。


「……どうでもいいけど、オレだけ完全にどうでもよくね?」


 ウォーレンが小さな声で呟いた声が聞こえて来た。

 それは本当にそう。魔物との戦いの中で特に活躍もしていないし、存在感も薄い。でも彼に対して、誰もフォローはしてあげる事はない。声は聞こえてると思うんだけど。

 まぁ黙ってついて来いと言う事だ。たぶん。


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