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災厄に怯える世界で、夢見る少女と。  作者: あめふる
一章 災厄に怯える世界
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策略家


 歩き出してしばらくして、狙い通り小さな村に到達した。しかしその村は破壊しつくされており、当然のように人の気配もない。

 幸いにも井戸は生きていて、飲み水は確保できた。食料の方は建物の中にあったものは腐ってしまっていたけど、近くに畑があってその畑から野菜をとって水で洗い、食べる事が出来た。

 野菜は元の世界と変わらない物だ。トマトとか、レタスとか。味は少し違うけど、それでも空腹の私には気にならないほどに美味しく感じ、たくさん食べてしまった。


 喉の渇きと空腹を満たした私は、崩壊した家の前に設置され、奇跡的に難を逃れたイスに座りこんでちょっと休憩。崩壊した村と、月が4つある空を見上げて冷静に考えをまとめることにする。


 私は、異世界にやってきた。たぶんそれは確定している。そしてコレは夢ではない。これも確定。

 何故突然こんな場所に?よく考えると、この世界に最初にやって来た時、私を見て歓喜していたあの男。確か……『成功した』とかなんとか言っていた。状況と台詞から察するに、彼が私をこの世界に呼び寄せたのか?そう尋ねたいところだけど、目の前で死んじゃったのでもう答えてもらえない。答えてもらえないと言う事は、私がこの世界に呼ばれた理由も分からない。なのでそれは今の所、考えなくていい。

 目の前にある問題として、人がいないという物がある。崩壊した建物や村があるのを見る限り、人、あるいはそれに近しい文明をもった何かがいるはずだ。でもあんな巨体の化け物がいじゃうじゃいたのを考えると、その周りに住んでいる人々が無事で済む訳がない。ここに住んでいた人々は、あの化け物から逃げるためにこの村を去ったのだ。作物のでき具合等を見る限り、それはつい最近の出来事のように思える。

 という事は私が持つこの力は、やはり異常という訳だ。私と同等の力を持つ人がいたら、もうとっくに化け物達は退治されているだろうしね。


「……キレイだな」


 私が呟いた通り、本当に空がキレイ。こんなに星が瞬く夜を、私は見た事がない。そして月明かりに照らされる、崩壊した村も幻想的だ。


 この村に住んでいた人々は、きっとあの化け物達に襲われ、殺され、逃げ出したのだろう。とすると、この近くに人はいない。少なくとも数キロはいないと考えていい。まともな機関が存在するなら、遠くから化け物達の動きを監視し、化け物達が移動して別の村へ危害を加えるようなら先読みして避難勧告を出す。はたまた、迎撃出来るなら攻撃をする。今はそのまともな機関とやらも、人という存在すらどこにも確認出来ない。私はこの崩壊した村の中で、たった一人だけ存在している。

 だから、とりあえずはこの静かな時間を満喫しよう。人を探すのはそれからでいい。




 いつの間にか、眠ってしまっていたようだ。あれこれ考えているうちに、力尽きてしまったんだね。あと、この世界に来ていきなり色々な事があったので、自分が思っている以上に疲れていたのかもしれない。

 起きると変な態勢でイスに座っていたので、首やら肩やら腰が痛い。


「ぐおお……」


 痛くなった身体の節々を伸ばしながら、私は痛みに呻いて立ち上がる。そして軽く体操。しばらくしてなんとか動けるようになった。

 昨日はこんな痛みと比べ物にならない痛みを味わったというのに、こういう日常生活の痛みに苦しまされるのは、なんていうか滑稽だ。


 起き上がった私はすっかり明るくなった空を見上げる。そこには元の世界と同じように太陽があり、大地に熱と明かりをもたらしてくれている。

 もろに太陽の光を浴びたので、いい寝覚めだ。これで痛みがなければもっとよかった。

 さて。起きたのはいいけど、どうしたものか。

 少なくともこの近辺に人はいないという結論に至っているので、人の支援は受けられない。水は現状枯れることはないだろうけど、食料はいつか枯れてしまう。とりあえずは、やっぱり人を探さないといけないよね。


 実は昨日、家の中から靴を拝借しておいたのだ。ボロボロの薄っぺらい革靴だけど、ないよりはマシという事でそれを履いた私は森の中へと足を踏み入れる。

 そして向かうは、人が住んでいる場所だ。


 んで、迷った。


 歩いても歩いても森で森の出口が見当たらない。人もいない。一体ここはどこですか。

 こんな事なら昔スマホで動画を見ていた時オススメで流れてきた、『道具がなくても方角を確かめる方法』の動画を、見ておくんだった。元の世界の常識が、この世界に通用するかどうかは別としてね。


 それから私はとにかく歩いて歩いて、歩きまくった。幸いにしてこの身体はなんだか知らないけど頑丈だ。この世界に来てから身体は軽く、身体能力も格段に上がっている。ちょっとジャンプすれば木を超えた高みまで飛ぶ事が出来て、そんな高さから落下して地面に着地しても骨が折れたりしない。

 とりあえずジャンプして上空から見る事が出来るので、山がない方を目指して歩く事によって一つの方角に向かって歩く事が出来る。

 そうして確かめながら歩いていく内に、森を超えた先に何やら大きな建造物が見えてきた。大きな壁に囲まれ、天に向かって伸びる塔。あれは、そう。お城だ。その周りには小さな家々が囲むように建っており、一連の建物の周りに更に壁が建って囲んでいる。

 あそこになら間違いなく人がいる。だって煙突から煙が出てるし、それに建物が崩壊している様子もないから。私はそこから駆け足でそのお城の方へと向かった。


 辿り着いたのは、崩壊した村を出てから3回目の夜を迎えた時であった。

 せっかく手に入れた服は薄汚れてきていて、身体もけっこう汚れている。森の中の木の実を食べて食いつないできたけど、空腹感も凄い。水分は木の実の果汁を吸う事で割となんとかなった。食べ物が豊富な森でなんとか助かったような形だ。

 近くまで来ると、大きな町だという事がよく分かる。壁はどこまでも続くかのように並び、町の中を守っているようだ。これじゃあ攻めるのは苦労しそうだと、攻める側の気持ちになって感慨にふけってしまう。

 壁の向こうは火の灯や、人の声が聞こえてくる。それに食べ物の匂いもする。実際遠目にこの壁の中に、門をくぐる事によって入っていく人を見ているので、間違いなく人がいる場所に辿り着いた。

 コレで助かる。


「ん、うん。あーあー。よしっ」


 私は咳ばらいをし、なるべくフラついてとても弱った様子を演出しながら、壁の中へと通じる門へと近づいた。

 門の前には鎧を着込んだ見張りの男が、数名いる。腰には鞘に納められた剣があり、武装もしている。

 この世界の文明レベルは、建物や武器を見て何となくわかった。多分中世くらいだね。それじゃああの化け物達を倒すのは難しいだろう。爆弾で吹き飛ばす事も出来なそうだし。


「嗚呼、眩暈が……」


 私は門に近づくと、頭を抱えながらフラついて地面に倒れた。

 でも実は演技である。実際少しはフラつくけど、この身体は頑丈で元気だ。でも弱い自分を曝け出す事により、情を得られると踏んでの行動である。男は弱っている女性を見ると手を差し伸べずにはいられない生き物だからね。

 どうよこの作戦。私って、策略家に向いているのかもしれない。


「ん。どうした!?大丈夫か!?」


 ほら、早速男が釣れた。

 見張りの男が血相変えて私に駆け寄ってきて、心配して声を掛けてきてくれる。


「す、少し、眩暈がして……。え、えと……あの……森の、な、中をその……」

「なんだって?声が小さくて聞こえないぞ。もう少し大きな声で言ってくれ」

「そ、その……えと……眩暈が……して……」

「何だ!?弱って声も出せないのか!?」

「……はい」

「やはりそうか!どこから来たのか知らないが、その格好をみれば苦労してここへ辿り着いたことがよく分かる。手をか──」

「……?」


 地面に倒れる私に、男が手を差し伸べようとしてその手が止まった。

 彼の手には松明が握られている。その松明で私の身体全体を照らした時に止まった気がする。もしかして大事な所が見えてしまっているかと思って心配したけど、見えていない。


「──魔族っ!」


 目を見開いて驚いた男が、剣の鞘に手をかけて後ずさった。

 私は一つ、失念していた。今の私の頭には角が生えていて、人間ではないという事を。

 そして相手は人間だ。頭に角などはえていない、ただの人間。異なる種族が衝突しあって仲が悪いという可能性を、考えておくべきだった。


 まぁもう遅い。


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