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妖刀


 地面を転がり、壁にぶつかって止まった私はすぐに起き上がると、リズの方を見た。


 そこにはリズとおじさんの目の前に災厄の欠片がいるんだけど、災厄の欠片の様子がおかしくなっている。その身体が不自然にねじ曲がり、身体の中心に向かって収縮が始まっている。それから闇で出来た身体が周囲に飛び散って、キレイさっぱりその姿を消し去った。

 かと思いきや、飛び散ったはずの闇がすぐに集まって来て、今まで災厄の欠片がいた場所に集まっていく。しかし大きさは小さい。災厄の欠片の身体のように大きくはなく、細長い形を作り出している。

 闇が作り出したそれは、一本の刀だった。闇の中から突如として刀が出現し、地面にその先端を刺して立っている。


 災厄の欠片の身体の中から、刀が出て来た?よく分からないけど、そういう事だと思う。


「やべぇぞ、この状況!」


 しかしそんな事を気にしている場合ではなかった。私はおじさんの叫び声に我に返り、リズ達に向かって走り出す。


 災厄の欠片は、死んだ。しかし魔物達は健在で、大量の魔物がリズ達を包囲している。


 リズは、私を援護するための魔法を放ってくれた。自分の身を守るための魔法ではなく、私を援護する道を選んだのだ。そのせいで自分を守るための魔法の発動が間に合っていない。

 おじさんが必死に魔物達を威嚇しているものの、魔物達にその威嚇は通用しない。


「ぐあ!」

「カークスさん!」


 むしろおじさんに襲い掛かった魔物が鋭い手で攻撃を仕掛け、剣で攻撃をうけそこねたおじさんの腕から鮮血があふれ出した。すぐにリズが駆け寄って身体を支えるも、それで魔物の攻撃を防げる前衛がいなくなってしまった。

 私はその様子を見つつ、災厄の欠片が先程まで存在していた場所にまで辿り着いた。そしてそこに落ちていた刀を拾い上げると、リズ達を包囲する魔物に向かって思い切り振りぬく。


 本来の刀の間合いからは、遠く離れた距離である。でも、なんとなく出来るような気がした。そして、出来た。

 私が手に持つ刀から斬撃のような物が放たれて飛んでいき、そして離れた場所の魔物達を真っ二つに切り裂いたのだ。


「リズに……触るな……!」


 私は、かつて檻の中でリズと出会った時と同じ台詞を呟いた。

 警告と行動の順序が逆になったけど、あの時と同じようにリズに触れようとした魔物を倒す事が出来た。


『キイイィィ!』


 更に私は刀を振り回し、今度は私に向かって襲い掛かって来た魔物に向けて刀を振りぬく。刀によって直接斬られた魔物も、キレイに真っ二つだ。まるでバターを切っているのと同じような感覚で、本来硬いはずの鉱石の魔物が切断されていく。

 そうして切断しながら、私は無事にリズの下へと辿り着く事に成功した。


「シズ!」


 私は未だに、片腕が復活していない。なので、駆け付けた私に熱い抱擁で迎えてくれたリズを、抱き返す事が出来ない。無事な方の手には、刀が握られているから。

 でもリズの抱擁は凄く嬉しい。この世界で一番大切な存在からの抱擁は、私に力を与えてくれる。


 刀で更に周囲の魔物をぶった切りながら魔物を威嚇をするも、次々に襲い掛かって来ては私の刀の餌食となっていく。

 リズから抱擁で力を与えられた私の手によって、この大量の魔物達が全滅するまでにさほど多くの時間はかからなかった。


 やがて出来上がった、魔物の死体の山。その死体の山に囲まれて生きているのは、私とリズと、おじさんだけだ。


「た、助かった……のか」

「……はい。災厄の欠片を倒し、魔物も全滅したようです。お二人とも、すぐに手当てを!」


 戦いが終わると、私とおじさんはリズの前に座らされた。そしてリズの回復魔法によって、出血が止められる。

 リズの魔法、私は好きだ。とても暖かくて、心まで癒やされる。


「お、オレはいいが、魔族の嬢ちゃんの腕が……!」

「あ、大丈夫、です。その内生えてくる、と思います」

「はえる、のか……」


 切り落とされた指はふと気づいたら復活したので、腕もきっと生えてくる。心配してくれるおじさんにそう言ったら、おじさんは唖然としていた。


「それより、笛……」

「ぐっ!?す、すまん。どうやら必死に走り回っている内に、落としちまったらしい。オレのせいで全滅する所だったと、反省している」


 おじさんは私とリズに向かって頭を下げ、うなだれてしまった。


 どうやら本気で反省しているようだ。してもらわなければ困る。そのせいで、私達は死にかけたのだから。

 でも誰も死んでいない。むしろ全員生きていて、魔物達は全滅した。更には倒す事は不可能かと思われた災厄の欠片まで倒してしまった。全てが上手くいった。上手くいきすぎて、笑えて来る。


「ふ、ふふ……あは、あはははは!」

「何をそんなに笑っているのですか、シズ。そんなに笑われると……ぷっ、あはははは!私まで笑ってしまいます!」

「お、お前ら、本当に何故笑ってるんだ?人が真剣に謝ってるのに……」


 恐る恐る顔をあげたおじさんが、不思議そうにこちらを見ている。でも私とリズは笑うばかりだ。

 男の前で、しかも男のミスで大変な目にあったというのに、どうしてこんなに面白いのだろう。本来ならおじさんには責任をとってもらうために、切腹してもらう所だ。

 どうかしている。この世界に来てから、私は何かが変わってしまった。そう自覚しながら、私は笑い続けた。




 その後、笑いが落ち着いてから普通に落ちていた笛を見つけたので笛を吹き、すぐにルレイちゃんがやって来てくれた。

 ルレイちゃんに災厄の欠片を倒した事を伝えると、笑いながら喜び、そしてたくさん褒めてくれた。それから皆でキャンプ地に帰る事になる。

 おじさんはルレイちゃんに肩を貸してもらって歩き、私はリズに肩を貸してもらって歩く。私は別に肩を貸してもらう程ではなかったんだけど、合法的にリズとくっつけるので断る理由がない。

 キャンプ地に戻ってサリアさんや村長さんにも災厄の欠片を倒した事を報告すると、2人にもたっぷりと褒められた。


「よくやったじゃないか、シズ!さすがはアタシが見込んだ女だよ!」


 特に村長さんには、抱きしめられて頭を撫でられ、熱く褒められてしまった。


「そ、村長さん、こ、腰は……?」

「んなもんとっくに治ったよ!アンタ達の報告を聞いて、前より好調さね!」

「いや、ホンマにようやったねぇ。まさかこんなに早く、呆気なくやってまうとは予想外やったよ。しかも、ウプラの力もなしでときたもんだ。若いのに大したもんだね」

「いえ……ほとんどシズの力で、私は何もしていません。それに、敵の弱点を教えてくれたのはウプラさんです。その導きがなければ勝てませんでした」

「遠慮する事はあらへんよ?年長者に褒められたら、素直に喜んどき。あんさん達は、本当にようやってくれたよ」

「……」


 サリアさんはサリアさんで、リズをたっぷりと褒めてくれている。褒められて、リズはちょっと嬉しそう。


「おっさん、怪我は平気か?」

「ああ、大丈夫だ。これくらいの怪我、冒険者時代に嫌という程してきたからな」

「す、すげぇな。おっさん、本当に冒険者だったんだ。……すげぇ」


 おじさんの方は、ウォーレンに褒められている。ウォーレンのおじさんを見る目は輝いており、彼のおじさんを見る目が少し変わった気がする。

 実際は笛をなくしたり、情けなく叫びながら魔物から逃げていただけだけど……まぁよくやったとは思う。戦いを思い返して、そう思った。


「ところでその刀……災厄の欠片の中から出て来たいうとったな?」

「は、はい」


 リズを褒め終わったサリアさんが、地面に刺してある刀を指さして尋ねて来た。

 なんとなく持って帰って来たその刀は、間違いなく災厄の欠片の中から出て来た物……だと思う。


「……妖刀かい?それもかなり危ない物だろう」

「そうやねぇ。たぶんやけど、『千切千鬼(せんぎりせんき)』やと思う」

「千切千鬼って……伝説級の代物じゃないかい!なんでそんな物が災厄の欠片の中に!?」

「ラーデシュにマニアがいたんやろ。災厄の欠片が何かの拍子に千切千鬼を飲み込み、災厄の欠片に変化を及ぼした……。面白い考え方だと思わへん?」

「……」


 村長さんは、サリアさんに同調はしない。でもそんな考え方もあるかといった様子で、難しい顔をしている。


「千切千鬼って、なんだ?なんかカッコイイな!」


 目を輝かせて聞いたのは、ルレイちゃんだ。ウォーレンもちょっと興味ありげな目をしている。


「……昔話に出てくる、刀の事だよ。昔々、毎夜血を求めてひとりでに動き出す刀があった。刀が求める血は、鬼の血だ。鬼を見つけては鬼を斬り、千の肉塊にして殺戮を繰り広げた。千切千鬼によって殺された鬼の数は、千。その全てが千個に切り刻まれて、千切千鬼と名付けられたんだよ」

「この刀、ひとりでに動くのか!?」

「あくまで昔話の中でだ。実際は刀がひとりで動くなんて事ないと思うね」

「そうやね。昔の人は、話を盛って残そうとするからね。ちなみにその昔話では鬼と言われとるけど、鬼っちゅーのはエルフの事やよ。多くのエルフを殺したせいで、エルフによって刀退治がされて妖刀千切千鬼は倒されましたとさ……コレが昔話の内容や。刀は実在するし、話も残ってる。千切千鬼がどうやって倒されたかは知らんけど、壊されたとは言われておらん。もう二度とエルフが殺されんようにと、大昔に人族に依頼して封印してもろたという話も聞いたことがあるけど、真実は分からへん」

「……でもそれじゃあ、どうして災厄の欠片はエルフのお二人を避けていたのでしょうか。千切千鬼がエルフの血を欲しているなら、それにとりついていた災厄の欠片は喜んでエルフのお二人に襲い掛かりそうですが」


 さすがリズ。頭が良い。

 そんな質問を投げかけられたサリアさんが、優しく笑う。


「エルフ達の手によって倒されたから、エルフが怖くなってしもうたんちゃうかな。エルフは仲間がやられたら、相手を徹底的にこらしめるからね。運良く壊されんで済んだけど、壊された方が良かったと思えるような目に合わされたんやろ」


 ちょっと怖い事を、笑いながら言う。それを刀から人に置き換えたら、かなり怖い。

 しかし千切千鬼は、一体どのような目に合わされたのだろうか。エルフが近づいただけで逃げ出すとか、相当なトラウマを植え付けられているように思える。


 その答えは、タイムマシンがなければ出てこなそうだ。


「さて、それじゃあ本題の、ご褒美タイムといこうかね」


 刀の話はそこで村長さんが遮って終わった。


 ご褒美タイムとは、災厄の欠片を倒したらサリアさんになんでも一つお願い事を聞いてもらえるという話である。


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