弱点の場所
ルレイちゃんが駆け付けてくれたことにより、私達の周囲から一瞬にして魔物と災厄の欠片が姿を消した。見回りをする必要もない。ルレイちゃんが傍にいる限り、私達は安全だ。
ウォーレンとおじさんは腰が抜けたように地面に座り込み、村長さんも痛めてしまった腰をねぎらうように座り込んでいる。周囲は村長さんの攻撃や、災厄の欠片によって破壊された戦闘の跡地となっており、この地を訪れた時とはだいぶ風景が変わっている。
「で、どうだったんだ?なんか収穫はあったか?それとも、倒したか!?」
「え、えと……とくには、何も……」
「何もー?何してたんだよ、お前らは。まぁさすがにそんなにすぐに倒されると、散々苦労してるオレとサリアばーちゃんの面目がたもてねぇからな。少しくらい苦戦してくれた方がいいってもんだ。苦戦しろ。んで、倒せ!」
ルレイちゃんが、テンション高めに私の背中を叩きながらそう言って来る。更には私の肩に手を回して密着までしてきて、スキンシップは中々に激しい。
ルレイちゃんも、中々の美少女だ。しかもビキニ姿で露出が激しくて、抱き着かれるとおっぱいの感触が……小さいからあまり感じられないけど、女の子らしい良い匂いがしてくる。
こんな女の子にくっつかれるなんて、幸せを感じずにはいられない。
「収穫なら、なかった訳ではありません。ですよね、ウプラさん」
ルレイちゃんに抱き着かれている方とは反対側で、リズが私の腕を抱いてグイグイと引っ張りながら村長さんに訴えかけるように言った。
こちらは、リズのおっぱいに腕が挟まれてとても心地が良い。リズの良い匂いもしっかりと感じ取れる。こちらも幸せだ。でもどうしてこんなにくっついてくるの。
「ああ。あの災厄の欠片には、核がなかった。普通倒された災厄の欠片は、核から復活する。でもあの災厄の欠片は別の場所に復活しやがった。それはつまり、別の場所に核があるという事だ」
「別の場所?」
「どこにあるかは分からない。けど、災厄の欠片の体内に核がない事だけは確かだ」
「そいつを見つければ、災厄の欠片を倒せるって事か」
「そう言う事だね」
復活した所を見れば、もしかしたら見つけられるかもしれない。そのためにはもう一度災厄の欠片を倒して、復活させなければいけない。
でも村長さんは腰が痛そうだし、もう一度同じように攻撃してもらうのは無理そうだ。
「……」
災厄の欠片の、核がありそうな場所、か。一度潰したことがあるけど、核はけっこう小さい。廃墟の中に隠してあるなら、それを見つけるのは困難だ。いや、そもそも廃墟の中にポツリと置かれているなんて事はないだろう。そんな風に置かれていたら、私達の周囲に都合よく出現する事も、ルレイちゃんやサリアさんから逃げる事も出来ない。核は恐らく、移動している。
そこで一つ、思いついた事がある。災厄の欠片が現れる前に遭遇した、私を見て逃げ出した魔物の事だ。昨日も今日も、そいつが現れてから災厄の欠片が姿を現わしたのは、偶然とは思えない。
「あ、あの、えと……」
「どうかしましたか、シズ?」
「……災厄の欠片の、核、もしかしたら、魔物が持っている……かもしれません」
「詳しく聞かせておくれ」
「き、昨日も、今日も、災厄の欠片が現れる前に、私を見て逃げ出す魔物がいたんです。その魔物の動きが少し怪しくて……今思えばアレが核を持っているのかな……と思って……」
「そういえば、私も見ました。昨日シズと一緒に、遭遇した魔物ですよね。確かに違和感のある動きで、人を見て逃げ出す魔物なんて初めてで呆然としたのを覚えています」
「……なるほどね。確かにそいつは怪しい。じゃ、そいつを見つけて倒してきな」
「そ、村長さん、は?」
「アタシは戦力になりやしないよ。このままルレイと一緒に退散させてもらう。あいたた……」
あの一撃によって、村長さんはすっかりお婆さんになってしまった。腰を押さえながら立ち上がった村長さんに、ウォーレンが手を差し伸べて転ばないようにする姿は、完全に介護者である。
「ばーさん、大丈夫か?」
「誰がばーさんだい。アタシはまだまだ若いよ」
「そんなんでよく言うぜ……」
「ウォーレンはアタシに手を貸しな。カークスはシズとリズリーシャと残って、魔物を倒してから戻って来るんだよ」
「どうしてオレだけ!?」
「さすがに乙女二人だけに任せて、自分達はとっとと安全地帯に撤退するとか男が廃ると思わないかい?アタシの代わりに、若い二人を支えてやるんだよ。支えられなくとも、囮くらいは出来るだろう。そういう訳だから、任せたよ。いた……痛いよ、ウォーレン!もう少し丁寧に扱いな!」
「あだっ!」
歩き出し、身体を支えてくれているウォーレンを、村長さんが叩いた。腰が痛いと訴える割に、元気そうだ。逆に介護する人が大変そう。
「じゃあな」
そんな村長さんとウォーレンに続いて、ルレイちゃんも軽く挨拶をして行ってしまった。
残ったのは、私とリズと、おじさんだけ。この3人で、もう一度災厄の欠片や魔物と対峙する事となってしまった。
それは別にいいのだけど、おじさんはいなくても別にいいかな。どうせならリズと2人きりの時間を作りたい。
「はぁ……」
残されたおじさんが、ため息を吐いた。おじさんは、だいぶ苦労していそうだ。いつもこうして村長さんに振り回されているんだろうね。
そもそもおじさんとウォーレンは、私達をガランド・ムーンのいる場所に送り届ける事が任務だったはず。それがいつの間にか災厄の欠片を倒すための戦いに巻き込まれているんだから、ため息も出るだろう。
「……本当にその魔物を倒せば、災厄の欠片が倒せるのか?」
「それは分かりません。今は可能性の段階なので……。カークスさんには、引き続きいざという時に笛を吹き、ルレイさんを呼ぶ準備をしておいてもらえればと思います」
「それは楽な仕事だ。だが出来る事があれば何でも言ってくれ。出来る限りの事はする」
嫌々言いつつ、おじさんは中々にカッコイイ。男にしておくのは勿体ない。でも男だから減点百点である。
「それでは、カークスさんには是非一人で私達から離れた場所を歩いてもらいたいです!」
「は、は?」
「安心してください。私達は物陰に隠れて後を追いますので。例の災厄の欠片の核を持つと思われる魔物が現れたら、私とシズが攻撃を仕掛けて倒します」
「いやいや、待て待て。何でオレがそんな危険な役をしなきゃいけないんだよ。魔族の嬢ちゃんがやればいいだろ。オレは魔物を倒せないんだから」
「例の魔物は、すぐに逃げ出してしまいます。なので姿を隠しておき、奇襲という形で確実に仕留めたいのです。そのためには、カークスさんが囮になるのが最善策かと。……出来る限りの事はしてくれると、そう言いましたよね?」
「くっ……わ、分かった。やればいいんだろう」
リズって割とSだと思う。囮になるよう、笑顔で迫るなんて私には出来ない。村長さんだってしない。
おじさんは笑顔の美少女特有の圧力に、ガクリと項垂れながらその役目を了承するしかなかった。
こうして私達は、今一度災厄の欠片を倒すために歩き出すのであった。予定通り、離れた場所におじさんを先導させるように歩かせ、そのおじさんを物陰に隠れながら私とリズが追う。
「く、くそう。出てくるならさっさと出来やがれ、クソ魔物ども!オレは逃げも隠れもしねぇぞ!」
おじさんは恐怖心からか、叫んで魔物をおびき寄せようとしているようだ。早く囮から解放されたくて、早くやって来る事を望んでいる。
その様子を見守る私とリズは、身体を密着して2人きりの状態である。私が望んで仕組んだ訳ではないけど、図らずも2人きりとなった。
「えへへ……」
こうしてくっついて歩いていると、まるで恋人のようである。それも、バカップル系の。それくらい距離が近くて、思わず笑いがもれた。
「もう、笑ってたらダメですよ。ちゃんと、真面目にカークスさんを見ていないと、カークスさんが危ないです」
そして怒られてしまった。
リズに怒られるのは、なんか気持ちが良い。勿論本気の激怒じゃないからだけど、もっと怒られたい。そして踏まれたいとすら思ってしまう。
でもさすがにリズの言う通り、おじさんの命に係わる事なので私は真面目におじさんを見つめる事にした。