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天使の降臨


 姿を現わした災厄の欠片は、すぐに剣を振り上げると私に向かって2度目の攻撃を仕掛けて来た。

 相変わらず、黒い影が通り抜けると音もなく周囲の物が消し去られ、とても不気味な攻撃だ。


 その攻撃を回避した私は、とりあえずは高い場所に降り立って災厄の欠片を見下ろしてみる。災厄の欠片は、上から見下ろしてみてもただの黒い物体だ。当然上から見た所で弱点である核は見つける事は出来ず、新たな発見は特にない。


「──氷の剣よ。我が敵を打ち滅ぼせ。イェールキリング」


 災厄の欠片に向かい、氷の剣が飛んできた。しかしそれは災厄の欠片の身体を通り抜け、ダメージを与える事は出来ない。


「シズ!」


 攻撃を仕掛けたのは、駆け付けて来たリズだ。

 私はその姿を見て建物を飛び降りると、リズの下へと駆け付けて合流した。


「こいつが例の災厄の欠片かい!確かにデカイし、異様な気配がするねぇ!」


 少し遅れて村長さんもやってきた。ウォーレンとおじさんも、慌てた様子で村長さんに付いてきている。


「あ、危ない、です。この災厄の欠片、凄く速いから、守れないし……!」


 私はリズは軽く抱いて守る態勢をっているけど、この態勢では他の皆を守る事は難しい。雑魚の魔物を相手にするのとでは、訳が違う。

 なので当初の予定通り、私とリズが災厄の欠片を相手して、村長さん達には魔物を相手していてほしい。


「ちょっと確かめたい事があるんだよ。……どれ。一太刀、いれてみようかね」


 そう言うと、村長さんは腰にさげた剣を鞘から抜いた。

 剣は片刃で、分厚い鉄の塊のような物だった。片刃といっても、刃の方は酷くボロボロで、切れ味はとても悪そうな印象を持つ。


 その剣を村長さんが構えた瞬間、周囲の空気が変わった気がする。空気が張り詰め、風の流れが穏やかになった。


「──……」


 その空気の変化を感じ取ったのか、災厄の欠片が村長さんを見つめた。

 そこからの行動が素早くて、災厄の欠片はすぐに剣を振り上げると、村長さんに向かって剣を振り下ろしてくる。

 剣は村長さんに向かっているけれど、傍にいる私達ももれなく巻き込まれる攻撃だ。リズは私が抱いたまま回避すれば余裕で間に合うけど、他の皆はこのままだと巻き込まれる。


「避け──」


 一応避けるように警告をしようとしたけど、声に出せたのはそこまでだ。災厄の欠片の剣が、私の声を遮るようにして降り注ごうとする。

 のだけど、災厄の欠片の剣は逆に飲み込まれてしまった。飲み込んだのは、村長さんが繰り出した剣だ。切れ味の悪そうな剣を振りぬくと、村長さんの剣よりも遥かに大きな黒い剣を一瞬にして飲み込み、消し去る斬撃を発生させた。

 斬撃は留まる事を知らず、災厄の欠片の身体に、地面に、周辺の廃墟までをも砕いて通り抜けていく。すざまじい衝撃と風が、その一撃によって巻き起こった。


「……歳には勝てないねぇ」


 斬撃を放ち終わった村長さんが、そう呟いた。

 その視線は、斬撃を食らわされた災厄の欠片の方へと向いている。


 災厄の欠片の身体は、半分ほどが吹き飛んでいる。剣を持っていた腕は剣ごと消し飛び、顔面も消え去っている。しかし死んではいなくて、残った身体は立ち続けてもがいている。


「す、すげぇ……」


 ウォーレンがそう呟いた。同じ感想を、他の皆も思っている。

 歳だ歳だという割に、村長さんはこんな攻撃を繰り出す事が出来る化け物だった。これが、『月砕きの剣聖』と呼ばれる村長さんの実力か。

 突然実力を発揮した村長さんのおかげで、ただの弱点探しのはずが呆気なく倒せてしまいそうだ。


「シズ!今の内にアレを攻撃して、核を探しな!」

「は、はい!」


 指示をうけた私は、もがいている災厄の欠片に攻撃をしかけた。拳を突き出し、災厄の欠片が復活する前に核を探して何度も攻撃を繰り出す。しかし私の攻撃を受けて消え去る身体から、災厄の欠片を見つけ出す事は出来ない。


「あ、アレ?」


 攻撃を繰り返すうちに、災厄の欠片の身体がなくなってしまった。もう何も残っていなくて、気配もない。核はどこにもなかった。もしかして、最初の村長さんの攻撃で核を壊してしまったのだろうか。


「どういうことでしょうか。災厄の欠片が……」


 リズも、不思議がっている。でも倒したにしては、あまりにも手応えがないというか……私の感覚で、倒した気がしない。


「──……」


 私の勘は当たっていて、少し離れた場所に倒したはずの災厄の欠片が姿を現わした。

 顔も体も全てが元通りとなって、立ち上がってこちらを見つめている。


 やはり、倒していなかった。でも核がなかったのはどういう事だろう。この身体の中のどこかに、絶対に核はあるはずだよね。核もないのに他の場所に突然復活とかされると、それはもう倒す手段がないのではないだろうか。

 村長さんは、この後どうするつもりなのだろうか。その指示を待ち、私達は固唾をのんで見守る。


「……あいたた。久々に本気で動いたもんだから、腰が」


 しかし情けなくも、剣を杖代わりに地面をつくと、腰を痛そうに手で押さえてしまった。


「村長!?どうするんだよ、周りには魔物どもが……!」

「そうだよ、しっかりしてくれ!さっきのもう一回やってくれよ!」

「バカ言うんじゃないよ。こんなに痛いのにまた動いたら、もっと酷くなっちまう。あいたた」


 周囲は魔物の群れ。少し離れた所には、復活した災厄の欠片。

 対するこちらは味方が一名負傷し、戦闘不能となってしまった。


 そこへ、魔物が村長さん達へと襲い掛かった。


「ウォーレン、村長を担げぇ!」


 おじさんの指示に、ウォーレンが素早く動いて村長さんを背負う。一方でおじさんは、襲い掛かって来た一体の魔物の攻撃を剣で受け止めた。その隙に、村長さんを背負ったウォーレンが退避する。


「シズ!災厄の欠片をお願いします!私はウプラさん達を支援に!」

「は、はい」


 リズが村長さん達に向かって駆け出しながら、杖を構えて魔法を発動させる。その魔法により、おじさんに襲い掛かっていた魔物が倒された。

 あちらはリズに任せておき、私は地面を蹴って災厄の欠片との距離を一気に詰めた。

 距離を詰めて来た私に対し、災厄の欠片が剣を振ってくる。でも私は横跳びで回避すると、足元へと潜り込んでその足に蹴りを繰り出した。蹴りは、やはり感触がない。通り抜け、すぐに再生して元通りである。

 そこに魔物達が突っ込んできた。私は避け切る事が出来ず、横っ腹にもろに魔物の突進を受けてしまった。私の身体は吹き飛んでいき、廃墟に突っ込んで廃墟を崩壊させるにいたった。私の身体が頑丈だからか、それとも廃墟がボロボロだったのか……どちらかはご想像にお任せする。

 かくして私は崩れた廃墟の瓦礫によって潰され、生き埋めとなってしまった。そこへ魔物がやってきて、その鋭く尖って手足で私を串刺しにしようと襲い掛かって来た。瓦礫に潰され、身動きの出来ない私に対して容赦のない攻撃だ。


 だけど私は別に、ダメージを負ってはいない。瓦礫の中から手を取り出すと、襲い来る凶器を手で掴み取った。そして少し力を込めて握ると、その凶器が砕け散る。それから瓦礫を吹き飛ばしつつ素早く立ち上がると、周囲の魔物達を蹴りや拳で殲滅。

 そこへ災厄の欠片の黒い剣が注ぎ、魔物達を巻き込んで消し飛ばして来た。私はなんとか回避したけど、魔物が数体攻撃に巻き込まれて死んだ姿を目の当たりにした。


「……」


 さて。魔物は量は多いものの倒せるから、まだいい。けど不死身の災厄の欠片はどうやったら倒せるのだろう。

 目の前で私を見下ろしてくる災厄の欠片を睨むも、この睨みに災厄の欠片を倒す力はない。


 しかし突然、災厄の欠片が何かに気づいたかのようにその視線をあらぬ方向へと向けた。それからすぐに災厄の欠片や魔物達が動き出し、一斉に私の周囲からいなくなった。リズ達の方を見ても、同じように魔物達が退避していってその包囲が解かれている。


 どうやら、おじさんが笛を吹いたようだ。笛を咥えたおじさんが、必死に息をこめて音を鳴らしている。ただ、その音は私の耳は聞こえない。音が聞こえないから、必死に音をならそうとしているようだ。

 私達の耳には聞こえないけど、でもその音はしっかりと彼女に届いたようだ。


「──いよう!思ったより早かったじゃねぇか!」


 空から、金色の髪の毛をなびかせてビキニ姿の美少女が降って来た。私の目の前に着地して、ニヤリと笑って来る。

 昨日のように睨み合いになる事は勿論なく、人懐っこそうに笑いかけてくるルレイちゃんは、天使のように見えてしまう。

 だって、この天使がかけつけてくれたおかげで、魔物や災厄の欠片は私達の前からいなくなったのだから。


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