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弱点探し


 馬車の中の寝床で一晩を過ごし、その次の日。私達は早速災厄の欠片と戦うための準備に取り掛かる事になった。

 この中でラーデシュを支配する災厄の欠片や、魔物と戦ったことがあるのは私とリズだけだ。村長さんやおじさんにウォーレンは、敵がどういう存在なのかを知らない。とりあえずは会敵し、敵がどのような存在なのかを探る必要がある。


「それじゃあ、きいつけてね。何かあったら合図してくれれば、ルレイが駆け付けるから」


 エルフの2人とは別れて、町の探索に繰り出す事になった。その探索で敵と遭遇し、敵の弱点を探る事が出来ればそれが一番いい。今はとにかく、敵の弱点を見極める必要がある。

 敵の、エルフを避けるという特性を活かし、いつでも休憩する事も出来るし状況的には悪くない。ただし、良くもない。


「おい、おっさん」

「あ?」


 旅立つ支度を整えているおじさんに、ルレイちゃんが声を掛けた。声を掛けられたおじさんがルレイちゃんの方を向くと、そんなおじさんに向かってルレイちゃんが何かを放り投げた。

 放り投げられたそれは、弧を描いておじさんの方へと飛んでいき、それをおじさんが片手でキャッチしてみせた。


「なんだ、こりゃあ?」


 おじさんが投げられた物を掴んだその手を広げると、そこにあったのは笛だ。手のひらサイズの、小さな角笛のような形をした笛がある。

 形は角だけど、材質はたぶん木だ。


「森の笛。エルフが森の中で仲間に危機を知らせる時に使う笛だ。オレを呼びたきゃそれを吹け」

「……預かっておく」


 おじさんはそう呟いて、その笛を懐にしまい込んだ。


 ルレイちゃんを呼ぶ役目は、おじさんで決まりだ。何かあったら、おじさんに頼んでルレイちゃんを呼んでもらう事となるだろう。


「──それじゃあ出発するよ!全員ぬかるんじゃないよ!」

「はい!」

「……」


 リズだけが大きな声で村長さんに返事をし、あとの全員は無言だった。私も含めてね。

 ちょっと締まらないけど、そんな中で歩き出した村長さんに続き、私達はエルフのいる安全地帯を後にした。





 馬と馬車は、サリアさんとルレイちゃんの下に置いて来た。馬や馬車を守る余裕などないだろうから、自分達の足で探索して自分達の足で戦い、いざとなれば自分達の足で逃げる事となる。


「お、おおい……本当に大丈夫なのか、オレ達まで一緒に来て……。ちゃ、ちゃんと守ってくれるんだろうな!?」

「お、おっさん、ビビリすぎだぜ!こっちにはリズリーシャ様と、どんな魔物も一撃で倒しちまう魔族がいるんだぜ?大丈夫だって。昨日の村長との三人旅より、よっぽど安全だ」

「そ、それもそうか……?」


 歩き出した私達の中で、男2人だけがうるさい。

 少し物音がすれば魔物が出ただの騒ぎ、かと思えば私やリズをあてにしてちゃんと守ってくれだのと訴えかけてきて、情けない事この上ない。


 なんでついて来たの。


 いや、でもついて来たのは自分たちの意思じゃないんだよね。村長さんに命じられ、渋々とついていきている。どうして付いてきたのかと尋ねるべき対象は、2人ではなく村長さんだ。


「まだサリア達とは別れたばかりだろうが、まったく……」


 先頭を歩いて進んでいる村長さんが、呆れたように頭を抱えて呟いた。

 まだ別れたばかりという事もあり、ここまでは魔物の気配はない。今ならまだ走ればサリアさん達とすぐに合流出来てしまう程の距離なので、出なくて当たり前と言えば当たり前である。


「しかし魔物達と遭遇した時、どうするおつもりですか?敵の数は多く、厄介です。加えて災厄の欠片とも相手にする事になると苦戦する事に……」

「その辺は大丈夫さ。そのためにアタシも付いてきてるんだから。アンタとシズは、雑魚を相手にする必要はない。災厄の欠片だけを相手にする事に集中しな。倒せなくとも、何かしらの情報を持ち帰る事が今回の目的だ。深入りはせず、何か分かったらすぐにカークス坊やが笛を吹いてルレイを呼んで撤退するよ」

「そ、それは良いのですが……」

「……」


 村長さん以外の、全員が不安げだ。


 サリアさんは村長さんの事をとても褒めていて、『月砕きの剣聖』とか言っていた。けどその実力を私達は見た事がない。料理が上手で、器用なお婆さんといった印象しか持っていないので、不安にもなる。

 村長さんの作戦通りに動いてほしければ、その不安を払拭させてほしい。


 しかし村長さんは、そんな皆の不安を感じ取りながらも振り返る事無く堂々と歩き続ける。私達はそれに付いていくしかない。


 しばらく廃墟の中を進んでいくと、ついにそれは姿を現わした。

 私達の進行方向、前方の廃墟から四つ足の鉱石の魔物が一匹、出て来た。その一匹に誘発されたかのように、周囲の廃墟からもぞくぞくと魔物が出現する。


「お、おい、後ろからも出て来たぞ!」

「か、囲まれる!どうすればいい!?」


 おじさんとウォーレンが騒いている通り、たった今私達が通り過ぎた廃墟の中からも魔物が現れ、その全周囲を魔物に囲まれる事となる。


「落ち着きな!災厄の欠片は!?」

「……いません!」

「なら、少し暴れておびき寄せてみるかねぇ?シズ!適当にその辺の敵をなぎ倒しな!あとの連中はアタシの周囲に集合!敵の攻撃を防ぐよ!」

「はい!」

「……」


 リズを放っておくのは少し心配だけど……まぁ敵は今の所、雑魚ばかりだから平気か。リズが村長さんの傍にたって杖を構えたのを見送ると、私は村長さんの指示通りに手近な魔物に殴りかかる。


 鈍い音がして、私に殴られた魔物の身体が大きくひしゃげて死んだ。すかさずにその近くにいた魔物に蹴りを繰り出すと、今度は魔物の身体が千切れて吹き飛んで行く。

 敵の群れに向かって突っ込んだ私に対し、魔物達が一斉に襲い掛かって来た。四方からとびかかって来て、その鋭く尖った手足の先端を私に向けて串刺しにしようとしている。


 しかし私は素早くその包囲から抜け出すと、私を串刺しにしようとして来た魔物の背後に回り込み、そして拳で砕いた。


「──う、うおああぁぁぎゃおおぉらぁぁぁぁ!」


 おかしな叫び声?いや、気合の掛け声……いや、奇声が聞こえて来た方を見ると、おじさんが襲い掛かって来た魔物の足を剣で受け止めていた。


「このやろおぉぉ!」


 更に、ウォーレンが新距離で魔物に向かって矢を放っている。しかしその矢は魔物の身体に刺さることなく弾かれ、むなしく地面に落ちるだけだった。


「──大地よ。我が呼びかけに応え、今こそ隆起せよ。フロアスーン」


 代わりといったらなんだけど、リズが魔法を発動させると魔物の左右の地面が隆起した。そして左右の地面は魔物を挟み込むと、容赦なく潰した。ぐしゃりと音がしたので、たぶん魔物はぺしゃんことなった事だろう。


「はぁ、はぁ……助かった……!」


 魔物の攻撃を受け止めたおじさんが、息を荒くして地面に膝をつく。なんかやりきったみたいな感じだけど、敵はまだまだうじゃうじゃといる。油断している場合ではない。

 でも村長さんの言う通り、おじさんはさすがは元冒険者だ。魔物の攻撃を受け止めてリズが魔法を発動させるまでの隙を作るなんて、普通の人には出来ないと思う。


「少しは昔の勘を取り戻して来たんじゃないかい?」

「ば、バカ言うな。こっちはただただ必死なだけだ。それより村長が戦ってくれよ!あんた『月砕きの剣聖』なんだろう!?」

「気が向いたらね」


 村長さんからは、戦う気力が感じられない。皆に任せっきりで、あんな人が本当に強いのだろうかと思ってしまう。

 もしかして、ただ強そうなフリをしているだけなんじゃない?虚勢を張る人はあまり好きではないよ。


『キィキィ』


 皆の方を見ていたら、魔物の声がした。

 はいはい、相手してあげますよと前を向くと、やはり魔物がいた。けど、私の方を見ていない。鳴き声をあげ、こちらに背を向け、そそくさと退散していく。


 そういえば、前日も同じように私の前に現れ、そして逃げていく魔物がいた事を思い出した。もしかしてこの魔物は、昨日のと同じ個体なのだろうか。エルフを見て逃げる魔物がいるように、人を見て逃げる魔物もいるのかもしれない。


 呆然と見守っていると、何か黒い影が視界の端に映ってこちらに向かってくるのが見えた。その瞬間、私は元居た場所から2,3歩退いて迫り来る黒い物を回避。

 直後に目の前を黒い物が通り抜け、地面や廃墟を音もなく飲み込んで消し去ってしまった。


「──……」


 黒い物の出所を見ると、廃墟の向こう側から災厄の欠片が姿を現わした。半壊した建物の上から、それよりも背の高い黒い物体がひょっこりと顔を出し、こちらを見ている。

 そういえば、昨日もそうだった。昨日も目の前にいる私から逃げる魔物が姿を現わしてから、災厄の欠片に襲われた。何か違和感を覚え、先程の魔物を探すももうその魔物の姿はどこにもない。


 とはいえ、予定通り災厄の欠片が現れてくれた。まずは、弱点探しからだ。


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