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災厄に怯える世界で、夢見る少女と。  作者: あめふる
一章 災厄に怯える世界
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「帰りたい」「どこに?」


 やがて襲い掛かってくる化け物がいなくなると、私は地面に座り込んだ。

 気温は高過ぎず低過ぎず、だけど裸なので少し寒い。体中に、自分の血と化け物の血がついて気持ちが悪い。

 でも化け物によって傷つけられた私の身体に、傷はもうなくなっている。あれだけ激しく怪我をしたのに、傷一つないなんておかしな話だ。そもそも生きているのもおかしいんだけどね。

 もう跡はないけど、化け物に噛まれる感触。殴られた時の痛み。逆に化け物を潰した時の感触もしっかりと残っていて、その全てが現実だ。コレは、夢ではない。夢などではない。

 その事実を否定したくて首を振る。目を覚ましたくて頬をつねる。顔を殴る。でも何をしても私はたくさんの化け物の死体の中で座り込んでいて、何も変わらない。


 そもそも私は、どうしてこんな所にいるんだっけ。ここに来る前は確か、普通に学校からの帰り道を歩いていて、そしたら何か穴に落ちて……どういう訳か気づいたらここにいた。


 思い返しても、訳が分からない。


「……帰りたい」


 そう呟いてから、『どこに?』と思った。

 家に帰ったって、どうせ居心地の悪い親戚の家でこき使われるだけ。友達もいない学校にただなんとなく通い、女の子を眺めて癒されながら、男を見ては心の中で罵って気を晴らす。そんな場所に帰って、どうしたい?あんな所に帰るくらいなら、ここで暮らした方がいいよ。


 ……そうだ。


 私はあの穴に落ちた時、地獄から解放されたと思ったんじゃないか。思い出した私は立ち上がる。そして天に向かって手を伸ばす。


 きっと私は、救われたのだ。あの生活を頑張って耐えていた私を、ヒーローが不憫に思って連れ出してくれた。そして化け物を倒せるくらいの不思議な力も授けてくれた。

 凄い。凄い、凄い。私は自由になったんだ。


「あいたっ」


 自由を満喫するかのように、天を見上げながらくるくると回っていると、バランスを崩して転んでしまった。その時気づいたのだけど、自分の頭に違和感がある。

 手で頭を触ってみると、ざらざらとした何かがあった。


 よく触ってみると、先端が尖った何かだ。たどって付け根に触れると、私の頭に繋がっている。鏡を見てみなければなんとも言えないけど、これは角だ。掴んで引っこ抜こうとするも、抜ける気配はない。角は、私の頭から生えている。

 なんだこれ。

 まぁ生えているだけで、特に問題はない。現状、他は元の私だ。胸やお尻の大きさ、肌の色もたぶん変わっていない。髪の長さも同じ。だけどやっぱり顔は鏡を見てみなければ分からない。


 どういう状況かは分からない。でも襲ってきた見た事のない化け物や、天を見上げて輝いている月が4つ程あるのを見る限り、やはりここは元の世界とは違う世界なのかもしれない。聞いた事があるんだよね。この世にはいくつも世界があって、ふとしたキッカケで人が世界を移動し、異世界で勇者として活躍する事があるって。

 まぁ漫画やアニメの話だけど。


 とりあえず、今はここがどこかとか、諸々の事はあっちに置いておこう。今私がすべき事は。ほとんど1つだけ。


「服が欲しい」


 呟いてから、私は半壊している建物の中へと足を踏み入れた。


 建物の中は瓦礫や本が散乱していて、火事もおこったのか焦げている箇所もある。窓や瓶が割れて散乱していて、裸足の私にとってそれは凶器となりうる。なので避けながら歩いて、目的の物がありそうな場所へと向かう。

 それはとある部屋で見つけた。角部屋の、他と比べると少し手狭な部屋だ。手狭といったけど、それには原因がある。部屋いっぱいに立ち並んだ大きな本棚のせいだ。適当に本を引っ張り出してタイトルを見てみると……『魔法による肉体の改造論』。『異世界と繋がる門の維持』。などと書かれているようだ。

 ビックリしたんだけど、本のタイトルは未知の言語で書かれている。本来私はその文字を読むことが出来ないはず。でも理解できてしまった。

 便利なんだけど、自分が自分でないようで少し怖い。


 少しだけ不気味なタイトルの本の山の間を超えていくと、その奥には簡素なベッドが置かれていた。窓際に置かれたベッドは、寝ながら窓の外が眺められるように意図されていると思う。窓の外には月が輝いていて、キレイだ。

 そのベッドの隣に、戸棚が置かれている。その戸棚を開くと、服が何着か入っていた。


 手に持ってみると、少し可愛めのワンピースだ。服の質はかなりいいけど、でも寝間着みたいで少し頼りない。他に何かないかと探してみたけど、特にない。仕方がないので、とりあえずそれを着て我慢する事にした。

 服を身に着けてから気づいたけど、部屋の隅に姿見が置かれている。この服を着た感じと、今の自分の容姿を確認したかった私は鏡の方へと駆け寄った。そして自分の姿を確認する。


 そこにいたのは、黒い女の子だ。黒髪で、どこまでも黒い目。黒というより、闇といった方がいいかもしれない。まるで星のない宇宙のように、吸い込まれそうな闇が目に宿っている。黒髪は元々だけど、目はこんなに真っ黒で不気味ではなかった。あと、やっぱり頭に角が生えている。2本のまっすぐに生えた角が、私の頭の上でその存在を主張しているんだよ。すげぇ。本物の角だ。

 以上の事をふまえ、鏡の前に立つ私は人ならざる存在となっていた。


 ま、別にどうでもいい。形はそれほど変わっていないので、戸惑いも少ない。


 ちょっと頼りないけど、服も手に入れた私はその場を後にする。建物の外に出ると、どこへいったものかと迷う事になる。迷っていると、それは忽然と姿を現した。


 それは影だ。たぶん、人の形をした影。身長は私と同じくらいか。それが本来影を作るはずの本体もなしに、一人でに立っている。まるで某探偵アニメの犯人のような見た目だけど、それよりも輪郭がハッキリとしておらずボヤけている。本当にそこにいるのかと疑ってしまいたくなるような見た目だけど、確かにそこに存在する。


「……」


 呆然と影を眺めていると、その影が口を開いた。その口の中から、巨大な腕が出てくる。腕は地面を掴むと、影の中から自身の巨体を引っ張り出して地面に落ちた。

 影よりも、遥かに大きな巨体。先程私が返り討ちにしたゴリラのような化け物が、影から生まれ落ちたその光景に、私は呆然とするばかりだ。


『オオ、ガアアアァァァ!』


 でも起き上がった化け物がすぐさま咆哮して私に向かってきたので、私は足を踏ん張って構える。そこへ化け物が腕を振り上げてから勢いよく私に向かって下ろしてきたので、その手に向かって思い切り拳を突き出して返り討ちにした。

 もろい化け物の手は、私の拳とぶつかった瞬間にはじけ飛ぶ。更に突き出した拳は衝撃波をうみ、化け物の手から腕をつたってその巨体を吹き飛ばした。肉片も残らずに上半身を失った化け物は、その場に残した下半身を倒して絶命。また一つ化け物の死体が増えてしまった。


 影がまた、口を開く。私はすぐに影に駆け寄ると、その顔面に向かって蹴りを繰り出した。出てこようとした化け物の腕が、私の蹴りによって消し飛んだ。そして影の顔面もなくなった。

 顔面を失った影だけど、すぐに身体から首が生えてきて、再生した。再生した首に向かって拳を突き出したけど、当たったという感触がない。先ほどは化け物に当たったので感触があったけど、どうやらこの影には当たり判定がないようだ。


 当たり判定がないのなら、全体を吹き飛ばせばいい。そう思い、改めて足を踏ん張って拳を構える。そして思い切り拳を突き出した。

 先ほど化け物に対してそうしたように、拳は衝撃波をうんで影の身体全体を包んで吹き飛ばした。いくら当たり判定がなくとも、全体が一気に吹き飛べばさすがに倒せたことになるんじゃないか。そう思ったんだけど、簡単にはいかないようだ。

 影は何事もなかったかのように地面から姿を現し、再び再生──しようとした。

 私は吹き飛んだ影の中からある物を発見して手に取ると、その再生が止まった。影の中から見つけたのは、赤い塊だ。小さな石のようなそれは、指先で掴めるくらいの大きさで、少しだけ力をいれると砕け散ってしまった。同時に再生しかけていた影の身体も崩れ落ち、それでもう再生する事はなかった。


 一体何だったんだろう。気になるのはあの影からゴリラの化け物が生み出された事だ。

 周囲を見渡せば、たくさん地面に転がっている化け物の死体。これらは全て、あの影から生み出された……?


「ま、どうでもいっか」


 とりあえず目の前の危機は去ったのだから。


 それより私はお腹がすいたよ。あと、喉も乾いた。

 こんな建物が建っている訳だし、きっと近くに人が住んでいるはず。そしてそこで出会った人に今の私の事情を説明し、助けてもらおう。


 呑気な事を考えながら歩きだした私は、この後すぐに自分の考えが甘かった事を思い知らされる事になる。


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