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かつて繁栄した国


 しばらく荒廃した道を進んでいくと、立派な門にぶち当たった。しかしながら門は門としての機能をはたしていない。何故なら扉が破壊されているからだ。

 本来この門を突破するのは難しい所である。リズの住んでいた町の門よりも、遥かに大きく立派な壁と門だ。この大きさからして、かつてこの国が強大な力を持っていた事が伺える。


「ここが、ラーデシュ帝国……今は跡地、か」


 おじさんが、その壮大な壁を前にして、見上げながら呟いた。


「ああ。ラーデシュ帝国が滅んだのは百年前。災厄が近くを通りかかり、その際に落としていった災厄の欠片と、災厄の欠片が生み出した魔物に襲撃され、敗北した。災厄の殺戮以外で死んだ人の数は、最高レベルじゃないかね」

「普通はここまでの被害が出る事はないはずですが……」

「噂じゃ何か特殊な魔物が混じっていたって話だ。それ以降も逃げ延びたラーデシュの連中が町を取り戻すために攻撃を仕掛けたが、全滅。無駄死にに終わった」


 今はもう、人は住んでいない。だけど住んでいた面影はある。

 何もかもが吹き飛んでなくなってしまったリズが住んでいた町と、形は残るも魔物に支配されてしまったこの町。どちらがマシなのだろうか。

 いや、考えるだけ無駄か。どちらも災厄によってもたらされた悲劇により、大勢が命を落とした事には変わりない。


「で?ここにガランド・ムーンがいるんだろう?どこだよ」

「だから、ここにいるんだろう。このラーデシュのどこかにね」

「範囲が広すぎる……」

「連中は大所帯だ。うろついてれば簡単に見つかるよ。ただ……」


 壁の中から、魔物が鳴く声が聞こえて来た。

 周囲にいた鳥達がその鳴き声を聞き、一斉に空に飛んで逃げていく。


「……本当に、この中にいんのか?」


 声を聞いて耳を塞ぎ、萎縮したウォーレンが村長さんに尋ねる。

 村長さんは肩をすくませ、首を横に振った。


「アタシはいないと思うね。連中の目的はこの町を災厄の欠片どもから解放する事だろうけど、魔物は健在らしい。となれば解放に失敗したか、解放するのを諦めたか、はたまた近くで機会を伺っているかだ」

「はっ。魔物が強すぎて逃げたんじゃないのか?どうせ腰抜けどもの集まりなんだろう?」

「……」


 おじさんが鼻で笑ってガランド・ムーンの悪口を言うも、それに賛同も否定もする者はいない。誰も何も分からないからだ。

 本当にそうかもしれないし、違うかもしれない。何はともあれ、この壁の向こうの危険な地にガランド・ムーンがいる可能性は低い。


「だけど中にいる可能性はゼロじゃない。現在進行形で攻略中の可能性もあるからね」

「な、中に入るのか……?」


 ゴクリと唾を飲み込みながら、おじさんが村長さんに尋ねた。ウォーレンも緊張した面持ちで見つめている。


「二手に別れよう。ウォーレンとカークスとアタシは、馬車に乗って壁の外でガランド・ムーンを探す。シズとリズリーシャは、中に入って探しな」

「おいおい、大丈夫なのか!?」

「大丈夫さ。リズリーシャには、シズがついてる。だろう?」


 村長さんに下手糞なウィンクをされながら、そう言われた。

 下手糞なウィンクはさておき、リズなら命がけで守る。だから、強く頷いて見せた。


「ふふ。お願いしますね」


 リズも微笑みかけながら私にお願いしてきて、やる気がみなぎってくる。


「はは。そうだな、気をつけてな。……いや、ちげぇよ!オレ達が大丈夫なのかって話だ!」

「ウォーレンの言う通りだ!リズリーシャ様には魔族の嬢ちゃんがついてるだろうが、オレ達が魔物に遭遇したらどうなる!?」


 しかし男2人が村長さんに対し、そんな抗議の声をあげた。特にウォーレンはノリツッコミまで披露してノリノリだ。

 2人の事なんて全く考えていなかったけど、2人の言う事ももっともだ。中より外の方が安全なんだろうけど、ここまでの道ですら魔物がいたので、この壁の外周にも魔物がいる可能性は十分に考えられる。

 ここまでは、私とリズの魔法で倒してきた。しかし私とリズがいない間、男2人と村長さんはどうやって魔物を凌ぐのだろう。


「ごちゃごちゃ言うんじゃないよ。アンタが戦えばいいだろう、カークス」

「無茶言うな!」

「腐っても元冒険者だろうが。ちょっとした魔物くらい、まだまだ倒せるだろう?」

「ちょっとした魔物ならな!すげぇちっちゃい、こんくらいの魔物なら!」

「あはは!それくらいの魔物、オレでも倒せらぁ!」


 手でチワワ程の大きさを作るカークスさんを見て、ウォーレンが笑った。

 そんな魔物、いるのだろうか。この世界に来たてでまだよく分からないけど、いるのならちょっとだけ見てみたい気がする。もしかしたら、可愛いかもしれない。


「笑ってる場合じゃねぇぞ、ウォーレン!オレ達の命に係わる事だ!」

「はっ。そうだった!」

「とにかくだ!魔族の嬢ちゃん達と離れるのは危険って事だ!分かるな!?」

「はぁー……情けないねぇ。ウォーレンはともかく、あの勇猛果敢なカークスがここまで落ちぶれちまったかい」

「何とでもいえ!年には勝てねぇんだよ!」

「……安心しな。もし魔物襲撃を受けたら、アタシが戦ってアンタ達を守ってやるよ」


 村長さんはニヤリと笑いながら、腰につけた剣を撫でた。

 そういえば、村長さんって戦えるのだろうか。ここまでずっと見ているだけだったけど……。年がどうのとか言って。


「アンタこそ年だろうが!昔みたいには行かないだろう!」

「あはは!そうだぜ、村長!アンタが剣を構えたらそれだけで腰をやっちまうんじゃねぇのか!?」

「そこまで年じゃないよ!アタシはまだまだ現役さ!どこかのジジイよりはまだまだ戦えるよ!」


 怒った村長さんが、ウォーレンとおじさんの頭に拳を振り下ろした。中々に凄い音がして、2人が頭を押さえてうずくまる。

 この人は年だと言われたくないのか、言われたいのかどっちなんだろう。


「さっさと行きな、シズ。リズリーシャ。このバカどもはアタシが引き受ける。でも、気をつけるんだよ。ガンズイーターが出たら、リズリーシャがシズを守ってやるんだ。その他の魔物からは、シズがリズリーシャを守ってやるんだよ」


 村長さんがそう言って、私とリズの頭を撫でて来た。

 時に厳しいけど、時に優しい。大きな声で、私が苦手意識を持っている村長さん。

 この人に似た人を、私は知っている。けど思い出す事が出来ない。それを思い出してしまったら、私は私でいられなくなりそうで怖いから。


「はい!ウプラさん達も、お気を付けて」


 リズが元気よく返し、私の手を引っ張ってラーデシュへの入り口に向かって走り出した。

 振り返ると、村長さんが笑顔でこちらを見ている。ウォーレンとおじさんは頭を押さえながら、悲壮な表情でこちらに向かって手を伸ばしている。


 本当に、この人達を残していって大丈夫だろうか。一抹の不安を覚えながらも、私はリズと手を繋いで歩いているのが嬉しくて、前を向くのだった。


 壊れた門から町の中へと足を踏み入れると、やはりというか、想像通り荒廃としている。真ん中の石畳の道に沿って建てられた建物は腐り落ちて崩れ、道も穴ぼこだらけで草がはえ、酷い所では木も生えている。

 一歩入って、ここが広大な町なのだと悟った。リズの町とは違い、崩れかけてはいるものの、建物の一つ一つが大きい。更にはこの道も奥の奥まで続いており、とても長い。この町の全景って、どうなっているんだろう。


「り、リズ。ちょっと、いい、ですか?」

「はい?ひゃあ!?」


 私がリズを抱き寄せると、リズは嬉しそうに微笑んで首に手を回して抱きしめてくれた。はぁ……可愛い。

 その態勢のまま、私は足を踏ん張り近くの建物に向かって跳躍。壁を蹴ってもう一段ジャンプして、比較的原型を留めている高めの建物の屋上へと降り立った。


 その際にリズが驚いて声をあげてしまった。さすがに唐突な行動すぎたかもしれない。


「もう。ジャンプするなら、そう言ってください。驚きました」

「ご、ごめん、なさい……」


 屋上に降り立ってから、リズに怒られてしまった。けど別に本気で怒っている訳ではない。


「……凄い光景ですね」

「……はい」


 そして改めて屋上から周囲を見渡すと、私とリズは感嘆の声を漏らした。


 どこまでも続いているのかと錯覚するような町の風景。所狭しと建てられた建物達は、町の真ん中にそびえたつ塔を中心に建てられているようだ。

 こんなに立派な町なのに、荒廃としている。どこにも人はおらず、崩れ落ち、自然の一部となりつつある。

 本当に切なくて、でもどこか神秘的で見る者の目を奪う。ちょっとだけだけど、人がいて賑わっているこの町も見てみたいなと、そう思った。私は人混みがあまり好きではないので、本当にちょっとだけだ。


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